2話 僕
――と、そんな事考えててもしょうがない。それよりも気になっていることを聞こう。
「まあ力を貸すのはいいとしてアンノウンにどう対抗するんだ? 流石にさっきみたいな力だけじゃ倒せないだろ?」
「お察しの通りあれじゃ勝てない。そこで対抗手段として【スキエンティア】という能力を使うんだ。まあ、一応さっきのも能力の一部だけど。で、その能力を使うためにとりあえずこれを食べて」
そう言うと林檎の形をした金色の何かを差し出してきた。
「これ、食べられるの? てか食べて大丈夫なの?」
顔をひきつらせながらきいてみる。
「これは【黄金の林檎】と言って能力を引き出すのに必要なんだ」
と、自信を持って言っているが目を合わせようとしないのはどうしてだろう?
とりあえず一口食べてみる。味は普通の林檎、特に変化はなかった。二口目、三口目と飲み込んでいき全部食べる。
――あれ? 目を開けると知与川と白金さんが僕の顔を覗き込んでいた。いつの間にか倒れていたらしい。記憶を辿っていく。
「食べても大丈夫なんじゃなっかたのかな?」
軽く二人を睨むと知与川が言ってくる。
「大丈夫だよ……ただ魂の力を解放した時に力が強すぎて気を失っただけだし……」
魂って本当にあるんだ……
てか本当に物理法則とかガン無視だな、さっきも宙を浮いてたし……
「とりあえずもう遅いし今日はここまでにして、力の使い方は明日にしよう」
知与川はそう言うと出口まで連れて行ってくれた。
外に出るともう暗かった。
「ああ、それとメアド教えてくれるかな?」
「あ、私にも教えて?」
「あ、ああいいよ」
携帯を取り出しメアドを交換する――。
その後、帰路に着く。
しばらく歩くと家に着く。
「ただいま」
「あら、遅かったわね」
リビングの扉を開けると母さんが訝しむような視線を向けてくる。
「暇人のくせにねー」妹の咲が何か言っていた。
「次、こんな時間になったら許さんぞ」
「父さん、まだ一〇時だけど? 咲でも帰らない時もあるよね?」
「咲は忙しいのだから別だ」
僕は頭に来てドタドタと階段を上がり自分の部屋に入る。
僕は落ち着くためにベッドに潜り込ンで寝ようとしたが頭が色々な事を考えてしまう……
咲は親に相当好かれている。それは仕方ないと思う。
僕が取り柄のない子供だったからか生まれる前から咲は期待されていた。
生まれてからも僕とは違い運動能力、学力、コミュ力どれもが高かった。
対して僕は小さい頃から何をしてもダメで馬鹿にされ続けた。
それに僕は――。いや昔のことを思い出すのはやめよう。
ダメならダメなりに頑張れ、とか努力すればいいとか言う人はたくさんいる。確かに間違ってはいないのだろう。
でも僕は頑張るのが嫌いだった。どんなに努力しても自分より才能のある奴には勝てないのだから。
「努力に勝る才能なし」とは言うけどほんとにそうだろうか? 確かに才能のあるやつでも何もしなければ努力している奴の方が出来ることが多いこともある。しかし才能ある奴が努力したら?
それが言い訳だってのは言われなくてもわかっている。
ああ、イラつくなこういう時は寝てしまおう。
――ピピピ……。
朝の七時にセットしておいた携帯のアラームが鳴り響く。
昨夜は考え事をしたから寝るのが遅かった。
ノソノソとベッドから出て学校に行く準備をする。
学校で授業を受ける。ただ頭に先生の言葉は入っておらず昨日のことを思い出していた。
そんな感じで今日の授業はろくに聞いてなかった……。
放課後。知与川に話しかけられた。
「天野、今日暇?」
「あ、ああ」
返事をすると知与川はニコリと笑い――僕をユグドラシルまで連れて行った。
室内に入るとカタカタとコンソールを叩く音がした。
「そういえば、ここにいる人皆がアンノウンと戦う力を持ってるの?」
「いや、持ってないけどユグドラシルの中は外の影響を受けないんだ。だからここで敵の情報とかを探って貰ってる」
……ここは何なんだ。
少し歩いた後、知与川は広めの何もない――いや、白金さんがいる何もない部屋で立ち止まった。
「じゃあ後は雪よろしくね」
それだけ言うと知与川はどこかに消えた。
「天野君、今日はよろしくね」
「あ、うんよろ……え、何かやるの?」
「あれ? 聞いてない? 今日は【スキエンティア】の練習をするんだよ?」
「聞いてない……まあいいか、じゃあよろしくね」
「うん、じゃあ始めに力の使い方だね。スキエンティアの力を使う上で大切なのは【イメージ】だよ。まずは浮くのをイメージしてみて」
浮く……
「具体的にイメージするといいよ」
えーと、具体的に……上に引っ張られるのをイメージする。
――それを一週間ほど毎日学校が終わると遅くまで練習した。そして一週間後浮くことが出来た。
「おめでとう!」
「あ、ありがとう」
「じゃあ次は身体能力のアップだね」
「え、もう次?」
「大丈夫だよ一回力を使えたら後は簡単だよ」
白金さんが行った通り一時間もすれば物理法則を無視する動きが出来るようになっていた――これ本当におかしくね?
「じゃあ、続きは明日にしようか」
「おう」
歩きながら少し気にんなっていることを聞いてみる。
「そう言えば白金さんはこの前心を読んでたけどあれってどうやるの?」
「あれ? あれも心を覗くのをイメージすれば出来るよ。後、心を読まれたくなかったら覗かれる感覚がした時に心を閉ざすするイメージをしてね」
なるほどスキエンティアはイメージを本当のことにするようだ。
翌日。
土曜なので学校もないし朝からユグドラシルに行き練習を始める。
「今日で力の扱い方の練習も最後だね」
「最後か、何をするの?」
「えーとね自分の力の使い方だね。」
「自分の?」
「そう、今までの力はこの力のおまけみたいなものだよ。例えば私のだとこんな――」
白金さんが右手を前にすると日本刀が現れた――しかし刀身がなかった。
「あれ、刀身は?」
「これもイメージで刀身を作るんだよ」
突然刀身があるべき場所が輝き白色の光の刀身が現れた。
「この刀の名前は【リーヴスラシル】だよ。この力の使い方は分かるよね?」
「ん、そう言えばなんでか分かんないけど知ってる……」
「この力はさっきも言ったけど自分の力。つまりこの力は自分の全てなんだよ。」
「自分の全て……」
思い切って左手を前にだし意識を集中させる……。
すると少しずつ剣は形を作っていった。――まあ刀身はないんだけど……。
剣が出来たら次は刀身をイメージする。
――僕の剣が出来た。――刀身は黒。
名前は【リーヴ】――僕の剣が出来た。
片刃の黒い剣。
「おめでとう、天野君。次からは戦いに参加してもらうから少しだけ私と模擬戦してみない?」
「ありがあとう。で、模擬戦って何をするの?」
「え~とね、簡単に言うと死なない程度の勝負だよ」
「死なないね……」
やばい、変な汗が出てきた。
今、やっと剣を出せた程度なのにいきなり勝負かよ……。
「あ、その前にいくつかアドバイスとかいる?」
「……お願いします」
「はい。えーと、まずは攻撃を受けたら痛みを感じないようにして、傷を治してね。で、攻撃なんかも剣で攻撃するだけじゃなく魔法とかも使ってみてね」
「魔法とかもイメージすればできるの?」
「うん、大抵のことはイメージすればできるよ。ものによってはイメージも大変だけど」
本当に何でもありだな……。
「あ、あと傷は回復できてもダメージは残るよ」
「ん? ダメージもイメージでなんとかできないのか?」
「身体的なダメージは消せるけどスキエンティアは魂の力だからダメージは魂にも届いちゃうんだよ」
「え、それって大丈夫なの?」
「大丈夫だよ、魂は体と同じでしばらくすれば回復するし魂専用の回復道具もあるから安心して。まあ、回復する前にダメージに耐えられなくなって壊れたら終わりだけど……」
安心してと言われてもな……。
「え~と、これってアンノウンに対する力だからアンノウンの力も同じようなものなんだよな?」
「よく気がついたね、その通りだよ」
「じゃあアンノウンとの戦いは魂がダメージに耐えられなくなったらおしまいってことか」
「そういうことだね」
「まあ、正直分からないことだらけだけど、いつかわかるでしょ」
「期待してるよ。まあ、とりあえず模擬戦やってみようか」
――あれから模擬戦を開始した。
「見つけたよっ」
開始したのはいいがあまりにも強さが違う。
「くっそ」
浮くのをイメージして更に加速をイメージし逃げる。
が、白金さんは更に速く飛び回り込む。
「はっ」
白金さんは容赦なく剣を振るってくる。それを避け、斬りかかる。
しかしよけられ 、逆に切られる。
「ぐっ」
すぐさま痛みと傷を消す。そこに白金さんは雷で、出来た矢を打ち込んできた。僕もバリアと炎の槍をイメージし、攻撃を防いだ後、槍を投げる。投げた後はすぐに突進しながら斬りかかる。一発目はよけられたが、その後に放った毒をまとわせた拳は当たった。
白金さんが体勢を立て直す僅かな時間に連続で剣で斬る――斬るはずだったのだが、白金さんは攻撃を避け逆に剣で僕を斬った。
――地面に落ち、すぐさま飛ぼうと思ったが体が動かない。そこに白金さんは降りてきて剣を僕の首に当てる。
「降参」
そう言うと白金さんは息を軽く吐き手を差し出してきた。
「お疲れ様、これで模擬戦は終了。立てる?」
「あ、ああ悪いありがとう」
素直に手を握り立つ。少しふらつくが大丈夫だろう。
「一応回復するから来て貰ってもいい?」
「わかった」
少し歩いた所に機械で出来た長方形の箱がいくつかありそこに入れられた。となりの箱では白金さんが入っていた。
しばらくすると箱の上部が開いた。箱から出るとふらつきも治っていた。
伸びをしていると後ろから声をかけられた。
振り向くと先に出ていたのであろう白金さんが飲み物(自販機でもあるのだろう)を渡してきた。
礼を言いつつ素直に受け取りしばらく話した。
――それから数日後、僕は世界が止まるのを感じた。