12話 絶対零度
――しかしそのブレスが白金さんに届くことはなかった。なぜなら届く前に氷ついていたからだ。そしてその氷は煙となって消えた。
多分あれがいつだか聞いた白金さんにしか使えない技なのだろう。
【温度調節系魔法】、それは本来周りの環境を自分に合うように使うものだ。しかし、今白金さんが使っているのは本来の使い方とは大きくかけ離れているものである。
白金さんが使っているのは【絶対零度】、触れたものを一瞬で凍らせる禁術だ。絶対零度は絶対温度ゼロ度、摂氏マイナス二百七十三・一五度のことを言う。しかし絶対零度は理論上不可能とされているのだ、それを無理矢理実現させるには当然代償が必要となる。その代償は術者の魂だ。更に生身だと絶対零度の中では動けないので体の構造を作り変える必要があるが、それも当然大きな負荷がかかる。
しかし白金さんはあっさりとそれをやってのけたのだ、本当なら死んでいるはずなのに当然のように生きて。
「和真君今は危ないから近づかないでね」
「ああ、分かった」
そう言うと白金さんはチェンに触れた、するとチェンは一瞬の間に凍りついてしまった。
ただ静かに凍りついただけだが、それがどれだけ恐ろしいことなのかインも分かったのだろう。インは一目散に逃げるのだった。しかし、白金さんは一瞬で距離を詰め、チェンの時と同じように触れて凍らすのだった。それはまるで職人が作った芸術作品のようで虎と龍二つの姿はとても綺麗だった。
白金さんはあれだけのことをやってのけたのにフウと息をつくだけで終わらせ凍りついたチェンとインを剣で粉々にするのだった。
「じゃあ、帰ろうか」
白金さんはクルリとこちらを振り向きながら言う。
「インの攻撃をまともに受けてたけど大丈夫なの?」
「ん? 受けてないよ」
「え、でもバキって落としてたよね?」
「あれは避けるついでに蹴った音だよ。多分インの骨が折れたんだと思う」
うーわ、強すぎるだろこの人。ていうかあっさりととんでもないこと言っている自覚あるのかな……。怖いな~この人。
「そういえば呼び捨てにして悪かったな」
「ううん、嬉しかったよ。これからもそう呼んでくれると嬉しいんだけど」
「じゃあ、僕も和真でいいよ、天野って本当の苗字じゃないからあんまり好きじゃないし」
「え、そうなの?」
「うん、本当の苗字は谷道なんだ」
「そうなんだ……。じゃあこれからは和真君って呼ばせてもらうね」
そう言って白金さんは微笑むのだった。




