表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/14

 それからハルくんと水族館を満喫した。

 アシカショーを見て、笑って。イルカショーに手を叩いて。

 お昼は海浜公園のカフェで軽く済ませ、海沿いのプロムナードを歩いた。

「けっこう、傷心だったりした?」

私が隣でハルくんを見上げると、

「うん。でも、おかげさまで癒された」

ハルくんは、風に吹かれながら真昼の海を見ていた。

「なら、いっか」

初めてのデートが、大好きな人と、なのに。なんだか少し、ほろ苦くても。

 私と過ごしてくれて、それがハルくんに穏やかな時間をあげられたなら。

 秋も、もう、終わる。澄み切って晴れ渡った空を映して、海もどこまでも青い。

「……そうやって、なんか許してくれそうな気がしたんだよね」

ハルくんは、小声でつぶやいた。

「俺、ずるいから」

 好きじゃなくても、付き合っていたひとと別れたら、きっと胸には穴が開く。どんな経緯があったのかわからないけど、サークル内までゴタゴタしたら、なおさらだろう。

 ハルくんは、決して傷つかないひとじゃない。

「付き合ってるからって、好きだとか、好きになれるとか、限らないよね」

気持ちを声に出してみる。

 ハルくんが、じっと私を見つめる。

「美緒って、免疫なさそうなのに、しなやかだね」

「……どういう意味?」

「んー、そのまんま」

ハルくんは、きゅっと唇の端を上げて言った。

「最初は、話すだけでも妙に緊張してるし。手をつないだくらいで、真っ赤になって。でも、なんか、しゃんとしてて、格好いい」

「……かっこいいのは、ハルくんのほうでしょ」

「うん。でも、いいことばっかりじゃないけどね」

ハルくんは、自分の容姿がいいことをちゃんとわかってる。それでも嫌味がない。

「かっこいいのも、大変だね」

私がそう言うと、ハルくんは、鮮やかに笑った。

 ハルくんの笑顔は、海の青よりまぶしくて。また、とくんと、想いが胸に降り積もる。



「みーお、昨日はどうだったー?」

 いつものメンバーが顔をそろえてのランチタイム。そろそろ肌寒くなってきたので、今日は、学食の中。

 千裕とさっちーに、講義室からハルくんに連れていかれたと聞いて、明日菜は話を聞きたくてウズウズしていたようで。

 もちろん、現場を見ていた千裕とさっちーも、目が興味深々。ドイツ語のノートまで保証して送り出してくれたんだから、聞く権利は十分だ。

「ハルくんは、ちょっと癒されたかったみたい」

私はそう言って、ハルくんとの間に進展があったわけじゃないことを伝えた。

「癒されたい?」

「イケメンなりに苦労が多いんじゃない?」

私は出来るだけ軽く言った。

「だから、当たり障りのなさそうなとこで、私、だったのかな、って感じ」

軽めに聞こえるように気をつけたのに、やっぱりさっちーが怒り出した。 

「それって、美緒がいいように利用されてない?」

「利用って。あくまで、恩返しってハルくんが」

できれば、そういう風に思いたくないし。

「でも」

食い下がるさっちーに、

「美緒がそう言うんなら、いいんじゃない?」

と、千裕がいなした。

「それで、美緒が納得できるなら」

千裕は繰り返した。

 ……納得って。そんなの、できるわけないのに。でも。

 私に向いてないハルくんの気持ちを、すぐにどうにかできるわけもなく。

「どうしようもないじゃない」

ぼそりと吐き捨てるように、私は言った。心配してくれてる友達にたいして、失礼な言い方だったかもしれないけど。

「美緒……ごめん、泣かないでよ」

「泣いてないよ」

うつむいて、冷めてしまった食後のカフェオレを意味もなくスプーンでかき混ぜた。

「みおー」

 うん、大丈夫。大きく息をして。顔を上げて、

「でも、昨日は、すごく楽しかった。水族館に行って、海浜公園を歩いて」

私は、幸せだったことを報告する。

「うわ、すごいベタ」

「カンペキ、デートコース」

さっちーと明日菜が次々に言う。

「初心者の美緒を思いっきり意識した選択だね」

「違うよ。ハルくんが行きたいとこに行くって」

「あー、はいはい」

「やっぱり、藤崎くんは、美緒には荷が重そう……」

そんなの、わかってる。だけど、好きになってしまったら、もう仕方ないじゃない?

「まあ、恋なんてバランス考えてちゃできないよね……」

「うん、まあ、がんばれ」

「なんかあったら、聞くし?」

最終的には、三人に口々に励まされたのだった。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ