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やっと回復し大学に復帰したら、ランチタイムは質問攻めだった。
三人からは、メールも何回か来てたんだけど、返信する気になれず。
「じゃあ、ほんっとに送ってもらっただけー?」
明日菜が思いっきり残念そうに言う。……だから、さっきからそう言ってるのに。
「だって、ね?」
「まあ、ねぇ」
明日菜とさっちーが、意味ありげに目を見交わす。
「すごくタイミング良かったし」
「有無を言わさずって感じだったし」
「でも、あれだけ熱があってふらふらの病人に、どうこうってナイでしょ」
千裕が違う方向から助け船。
「しかも、藤崎くんだよ? ぜんぜん不自由してなさそう。あえて美緒に行く必要性もないんじゃない」
……言いたい放題。
でも、心配かけてしまったし、お世話にもなってるので、何も言えない。
「ま、とりあえず、美緒が元気になって良かった」
「もう一つの病は、さらに重くなったかも、だけどね」
確かに。
今日は、英語もないので、ハルくんに会うこともない。
会えないと思うと、会いたくて。
「お礼がしたいです! とか、メールしてみたら?」
明日菜が私の想いを代弁する。
「美緒のことだから。メアド知ってても、用事がないとメールできないんでしょ」
……図星。
「おかげさまで、今日は出席してます。くらいは、出してもいいんじゃない?」
「そうそう、美緒から動いてみたら」
そうやって、背中を押してもらって、やっと。私は、ハルくんにメールを返した。
"おかげさまで、今日から、出席しています。ありがとう"
ハルくんからの返信は、夜になってからだった。
"元気になって、良かった"
ただそれだけで。
そうして、またハルくんとは、時に顔を合わせれば少し話し、同じ講義に出れば、ただ私が見つめてしまう日々が続いた。
クリスマスが近づき、すっかり寒くなって。街はイルミネーションで飾られ、きらきらそわそわした雰囲気が漂っている。
四限目まである講義をしっかり受けて、千裕と帰ろうと大学の門を出た時。
駅に向かう道に、歩道ギリギリに寄せて白いハッチバックの車が止まっていた。フォルクスワーゲンのゴルフ。あんまり車に詳しくはないけど、ハルくんに乗せてもらった後、おぼろげな記憶をたどって同じ車に反応するようになってしまった。
その車にもたれるように、すらりと背の高いモデルのようなルックスの女の人が立っていて、時折、通り掛かる学生に何かを尋ねている。
かっこいい、ひとだな。ゆるく編んだ三つ編みを片側に流し、ハイゲージニットのワンピースにロングブーツ、ダウンベスト。
見ていると、彼女はこちらにも物おじせずににこやかに笑って、
「ごめん、ちょっと聞いていいかな? 学部は?」
と話しかけてきた。
年齢は三十前後だろうか、何か雑誌とかのアンケートとか? 私が首をかしげていると、横から千裕が、
「法学部ですけど、なにか?」
と切り返した。
「もしかして、一回生?」
「はい」
「藤崎遙人、知ってる?」
え? なに、スカウトの人がターゲットの身辺調査してる、とか? ハルくんなら、ありえそうだけど。まさか、ね。
彼女は、私たちの反応から、知ってるものと感じ取ったらしく、
「ハルのこと、知ってるなら。十一月の終わりに、熱だした子、知らない?」
と違う質問をしてきた。
「いったい何なんですか?」
千裕が私をかばうように言う。ハルくんの新しい彼女が、何か文句をつけようとしてきたのかと思ったみたいで。
「あー、ごめんごめん。私、伊東志保里。結婚して苗字変わってるけど、ハルの姉です。もし、さっきの質問に心当たりがあるなら、ちょっとだけ時間もらえないかな?」
私と千裕は、顔を見合わせた。ハルくんの、お姉さんが、どうして?
「お願い」
茶目っ気たっぷりに両手を合わせられ。
「美緒、どうする?」
「うん……」
「美緒がいいなら、私もついていくよ?」
「うん、じゃあ」
「ありがと。お茶くらいご馳走するから。ここにずっと車止めてると、まずいかなって思ってたところで。駐車場あるところに動かすから、乗ってくれる?」
有無を言わさず人を動かす力っていうのは、遺伝なのかな。ハルくんによく似た強引さで、お姉さんは、私たちを車に乗せた。
そして、それほど離れていないファミレスに場所を移すことになった。
車は、あの時はあんまりよく見ていなかったけど、確かに同じもので。
「ね、美緒。この車……」
小声で千裕が言う。私は、そうみたい、と頷いた。ハルくんは、はっきり姉貴の車を借りてきたって言ってたし。
後部座席の私たちのやり取りを、お姉さんはちらりと見ていた気がする。
ファミレスに入って、お姉さんの前に私と千裕が並んで座った。とりあえず飲み物を注文し、ウエイトレスが下がると、
「えっと。熱を出したのは、美緒ちゃん、ね?」
お姉さんは、いきなり私を見て言った。




