エピソード5
羽根さんと野谷さんの声に誘われて、妻の百合子は団地の部屋を抜け出すのでした。
エピソード5
夫・・・・・・妻をただ見守っていたら、彼女はますます壊れていき、そして、ますます美しくなってった。
妻・・・・・・羽根さんと野谷さんの愛の囁きは相変わらず、私の心を熱くした。そうこうしているうちに、私は薬を飲んでいるのに夜眠れなくなっていったのでした。そして、そんな夜は2人の声がいっそう強くなるのでした。
そして、そんな夜を過ごしているうちに羽根さんと野谷さんは
「これから、会おう。」
と言ってきて、夫の眠っているうちに
「抜け出しておいで。」
と囁いてきて、私は2人に会いたいのでこっそり服をきて団地の階段を降りて、2人に会いに行くのですがそこに姿はないのでした。そうすると、羽根さんと野谷さんは
「こっちだよ。」
と道を案内してきて、そこに行くのですが、行けども行けども2人には会えず、団地の周りをさんざん歩いて朝の4時に帰宅なんてことが、何回もあり、そのたびに夫は
「百合ちゃーん。」
と言って泣きながら私を腕の中で抱きしめてくれるのでした。帰宅して夫に会うたびに私はどちらが現実か分からなくなるのでした。
そんな、ある日、羽根さんと野谷さんが声の世界で言い合い、そして、羽根さんが勝ち
「百合子、これから会おう。」
と言ってくるのでした。私は自分の夫とか、羽根さんのご家族とか考えられず、夫の眠っているうちに彼に会いに行くのでした。でも、とある場所で彼を待っても、彼には会えないのでした。そして、その日帰宅したのは次の日の午後2時で、帰宅すると夫が
「・・・もう嫌だよ。もうこんなの嫌だよ。」
といって大泣きして、そして、私が
「幻聴が・・・。」
と言うと、夫は
「分かってあげなくちゃね。分かってあげなくちゃね。」
と言って私を抱きしめながら、更に大泣きするのでした。
そして、それから
「もう、外歩きたくないからね。」
と声に言って、羽根さんと野谷さんとは空の会話を楽しむのでした。こんな、いい加減な私は主治医にも相談出来ないのでした。
そして、しばらくして、夫に
「しばらく、実家で休んできたら。」
と言うので、1ヶ月、親元で休んで、でも、弟がお嫁さんをもらったらこんな我が儘は許されないだろうな・・・と思うのでした。実家にいても空の声は聞こえ続けるのでした。私の心はますます、現実から離れていくのでした。
夫・・・・・・彼女以外の妻など、僕には考えられなかった。
団地の外を歩いても歩いても、羽根さんと野谷さんには会えず、疲労して団地に帰るのでした。