エピソード3
空の声の世界で、羽根さんと野谷さんは百合子をめぐって、争うのでした。
エピソード3
夫・・・・・・妻が他の男に告白したのを僕は知っていた。そして、それでも僕は妻の側にいる事を望んだ。
妻・・・・・・私は幻聴と知りつつも空の野谷さんと愛を語らう事をやめる事は出来なかった。そして、時々団地で1人でいるとどちらが現実か分からなくなるのであった。そんな時、私は
「この声は現実。」
と聞くと彼は決まって
「現実だよ。」
と囁いてくれるのでした。私はこの2つの世界が現実であった。
そして、その日も野谷さんと愛を語りあっていると、そこに昔の1度だけの恋人の羽根さんの声が割り込んできた。私が
「あぁ、羽根さん。」
と言うと、羽根さんは野谷さんに私を譲るようにと空の世界で懇願しているのでした。私をよそに野谷さんと羽根さんは話し合いを始めて、ついに野谷さんが
「百合子さん、・・・羽根さんを好きになって下さい。」
と言い、どうやら野谷さんは羽根さんに私を譲ったみたいであった。私は心の中で
「・・・どうして、どうして・・・。」
と言うのが精一杯であった。
そして、悲しい事に私は羽根さんを物凄く憎むようになり、ディケアで彼に話しかけられても適当にあしらうのでした。そして、金曜日の朝、羽根さんの声が
「今日、百合子を抱くから。」
と言ってきて私は身体を襲われる恐怖に包まれるのでした。空の羽根さんは私の事をあの日の様に百合子と呼ぶのでした。
そして、恐怖を抱えたまま午後からディケアに行く支度をして、朝出かけた夫には自分が抱えている恐怖について話せないのでした。確かに私は現実の野谷さんを求めていたけど、夫との平和な団地の生活も大事なのでした。
そして、午後のサークルが始まり、でも羽根さんに何もされず、気苦労で終わり夫と一緒に帰宅するのでした。
返事に帰ってきた私は羽根さんの職員らしい優しい物腰を思い出し、もしかしたら彼は良い人なのかもしれないと思い、羽根さんに話しかけると羽根さんは
「・・・俺を許してくれ・・・るのか。」
と泣き出すのでした。そして、そんな彼に私は
「お友達から始めましょう。」
と微笑みかけるのでした。
まさか、これが私の夏の狂気の世界の始まりとは分からないのでした。
夫・・・・・・「百合ちゃん。」そう呼ぶ僕がどんなに愛を込めていたのか君は知らないのだろうか。
妻の百合子は空の世界の羽根さんと、仲直りするのであった。




