第一章1-はじまりの森-
前書きと後書きを活動報告にて書いております。
よろしければ、本文読後にお読みください。
荘厳な白亜の壁には無数の赤い紋様が浮かび上がり、その所々には凄まじい力で破壊された穴が開いており、今そこで行われている戦いの苛烈さを物語っている。縦長の広大な神殿の中央に位置する円形の広場は特に騒然としていた。崩れた瓦礫とアンデットモンスターの死体が散乱し、支柱に刺さった白金の槍の下には、敗北した魔王の白い骨の残滓が積もっている。
魔王は自らの立場も責務もかなぐり捨て、その死闘の末に消滅した。
そして、もう一つの戦いにも決着が着こうとしていた。
時に干渉する神器・時空晶球によって、500年前に負った瀕死の重傷から、身体をその傷を負うわずかに前の時間――状態へと戻るという幸運に恵まれて、今この場にいるということを黒龍クロウシスケルビウスは十分に理解していた。
だからこそ深い闇に支配された穴の底で、巻き戻り止っていた時間があの時間へ追いつこうと動き出し、時は残酷なまでの正確さで500年前に受けた傷の代償を黒龍に支払わせる。
クロウシスの黒い皮と鱗に覆われた体表の胸から喉、口にかけて大きな裂傷が走り損傷した内燃器官から荒ぶる炎性魔力が漏れ出して心肺器官を炙り、そのあまりの苦痛に膝を着き、黒く濁った血を激しく喀血する。
『聖条の鎖よっ!』
戦女神ヴァシアムの本体である幽精体を宿した女神像の、白く穢れのない精微な造形が今や、両足が半ばで砕けて背中の翼も捥げ、右腕も肘から先が砕けている。首と左腕以外の四肢を失い全身にも細かなヒビが入るなど散々な様相を呈している。
その戦女神の呼びかけに応え、蓋の壊れた奈落の穴――魔封窟の底から黄金の鎖が砕けた先端部を再生させながら駆け上がり、膝をついて苦しむ黒龍へと迫った。
クロウシスはすぐさまこれを残る左目の魔眼で捉え、大量の魔力を乗せた視線で消滅させる。ヴァシアムはすぐに残る左腕を上げて、そこから新たな鎖を五条出現させ、その全てがクロウシスへと殺到する。だが、かなりの至近距離で放たれた鎖に対してもクロウシスは長い首を旋回させて対応しようとした。しかし、そこに無情にも時間がクロウシスを阻んだ。
500年前に両眼を同時に失った時と同様に、健常な左眼を戦いで既に死んでいた右眼諸共爆ぜて失う。魔眼という切り札と視覚という五感の一つを失い、それと同時に首と四肢に鎖が巻きつき鎖のもう一辺が、あの穴の奥底にある固定具と連結した瞬間、猛烈に魔力を吸収される激しい焦燥感を再び味わい、穴へと引きずり込もうとする力に抗いながら、失った視覚を補うために魔力の存在とその動きを感知して『視る』能力を発現させた。
そこで見えたのは、黒い視界の中に白金の輝きを放つ槍の形をした魔力の塊が、すでに回避不可能な距離に迫っている状況だった。いかなる回避行動も防御も行えず、槍はクロウシスの胸の中心へ突き刺さり、槍の先端は心臓にまで達していた。
即死しなかったのは、頑強な胸椎が槍の勢いを緩めたお陰だったが、槍の発する魔力の熱が心臓を炙る筆舌に尽くしがたい激痛と、心肺に溢れる血による呼吸不全による苦しみにもがき四肢に込めた力は抜け、クロウシスは鎖に引かれるがままに穴へと墜ちた。
500年前と同様に瀕死の重傷を負い、視覚を失い、胸部からくる痛みが他の痛みを凌駕して脳への信号を独占している。心臓が一度鼓動するたびに口腔に血が溢れ出る。
そして程無く、凄まじい衝撃とともに穴の底へと墜落して背骨が砕けた感触とともに下半身の感覚がなくなる。収縮した肺が痙攣し大きく下へ反った首のお陰で肺に溜まった血が口内から溢れ出てバシャバシャと熱い液体が床へと広がる。何故か反っている身体の感覚にわずかに残る理性で考えてみると、そういえば穴の底にはあの巨大な水晶球型の神器があったことを思い出す。
落下してきたクロウシスの直撃を受けて、神器・時空晶球は上部が砕けてしまい、その上にクロウシスが仰向けでへばり付いている状況だった。
前回落ちた時はこの水晶球の上で停止したはずだが、今回は時空晶球が破損することも気にせずに墜落させた。恐らくは自分が空から叩き落とされたことへのヴァシアムによる意趣返しなのだろう。
500年前と変わらない状況に――いや、今度こそ死ぬのだから悪いのだろうか。
クロウシスは自分が成し遂げられたことを思い返した。
ともかく戦争の首謀者の一人である魔界を率いるアヘルトを滅ぼした。このことによって一時的だが、戦争は停止することは間違いない。問題は天界を率いる戦女神ヴァシアムの今後の動向だ。
あの狂気じみた矜持の高さと、嗜虐的な性質を隠し持つ女神を倒せなかったのは非常に不味い。考えようによっては、ある意味アヘルトの方があの女神の替わりに生き残っている状況の方が、地上の者たちにとって救いとなったかもしれない。
レビの子孫とその仲間たちの動向も気になるところだ。恐らくあそこへ残った戦女神は、自分の醜態を目撃した者たちを生かしたままにはしないだろう。だが、クロウシスの見立てでは彼女たちの実力を持ってすれば、今の残り滓状態のヴァシアム相手なら殺されることなく撃退、もしくは上手くいなして逃げれるだろう。そのために最初の攻撃で入り口を塞ぐ壁に穴を開けたのだから。
その後はもはや彼らだけの戦いとなるだろう。今ヴァシアムが受けているダメージは、本体に幽精体を戻す際にフィードバックされるはずだ。かなりのダメージを受けているから100年単位で動きは取れないはず。その間に彼女たちが更なる力を身に付けるか、何かの対抗手段を得ることを信じるしかない。
自分にはもう出来ることがなくなった。
そしてこの戦いが自らの手から離れたことを感じて、黒龍はゆっくりと深い息をついた。すると、首と両手足に巻き付いている鎖が急に固定具に巻き取られ始め、クロウシスの身体が水晶から離れて空中に再び磔にされる。
前回はそこで終わりだったが、今回鎖はいっこうに巻き取ることを止めようとせず、力を入れることすら出来ないクロウシスは、次第にこれは首と四肢を引き千切ろうとしているのだと気づいた。これも意趣返しのつもりで予め命令していたのだろう。
(放っておいても、あと数分もせずに死ぬものを……本当に陰湿な女神もいたものだ)
ギリギリと鱗や皮膚を削るように締め上げてくる感覚に、本能的にわずかな抵抗をしてしまうことに自嘲する。まったくもって前回はこの生命力に感謝したものだが、今回ばかりはなかなか死ぬことが出来ないのも考え物だと思った。
しばらく首と四肢を――下半身の感覚を失っているので、正確には首と腕を引かれる感覚に静かに抗っていると、やはり抵抗の力さえ加えられない足から限界がきた。わずかに繋がりの残る神経から足の内部で何かがブチブチと千切れる感覚が断片的に送られてきた。
このままではやがて足が千切れ、そして腕と首もそれに続くだろう。だが、ヴァシアムの思い通りに苦痛を味わって死ぬくらいならば、500年前に自ら負った自壊の代償を払い死ぬほうがマシだ。と思い、最後まで抵抗しようと腕と首に力を入れようとした。その時、急に今まで自分の首と四肢を断裂させようとしていた鎖が力を失う。当然空中に吊り下げられていたクロウシスの身体も、その拘束を解かれて再び水晶の上に落ちた。
――いったい、何が?
そう思い、再び反った首を渾身の力で持ち上げると、クロウシスの失った視界に信じられないものが映った。神殿の床に膨大な黒い色をした魔力が集まり、その上空で白金色の魔力がやはり膨大な量で一所に集められている。
何かが原因で理性を失うほどに狂乱したヴァシアムが、必殺の一撃を放つために、自分を宿す代行体を維持するための魔力すら使っているのだろうと、クロウシスは予想した。
そして鎖が吸収したクロウシスの魔力すらも自分へ送ろうとして、細かな調整を出来ずに鎖を制御していた魔力ごと持っていったようだ。もっともクロウシスが鎖にくれてやるくらいならと、残っていた魔力の大半は血液に混ぜて流していたので、ほとんど足しにはならなかっただろう。
だが、問題はそんなことよりも別にあった。
――決着を着けようとしている。
まさかこの場で引かずに、ヴァシアムの理性を失わせた上での自壊を誘う攻撃を引き出すとは、本来なら『なかなかやるではないか』と感心するところなのだが、今はそれどころではなかった。
何故、彼女たちがこんな賭けの様な行動を起こしたのか。
何故、拾える命を捨ててまで、こんな無茶な選択をしたのか。
何故、自分はそんな彼女たちの愚かとも思える行為を好ましく思っているのか……。
何故?
何故……?
いや、理屈としては分かっている。
ここであの女神を倒せるなら、それこそ地上世界にとって最良な結果となるだろう。だが、彼女たちは一部の自己犠牲による解決を良しとせず、本来なら人的損失を避けて次の戦いに備えるのが本来の彼女たちのやり方のはずだ。少なくとも500年前はそうだった。
では、一体何故こんなやり方を?
ドラゴンとしての考えだけでなく、人間ならどう考えるか? そう考えた時に、クロウシスはある答えに行き着いた。
彼女たちがしようとしている無茶はまるで――自分がしてきたことのようだ、と。
黒龍は愕然とした。
最後の最期まで戦う姿勢。
確かに彼女たちの前で自分はそう振舞った。
だが、それは――自分には500年前の誓約を果たすという目的と、既に死ぬことが決まっているこの身があったからだ。だが、その考えをすぐに打ち消された。何故なら、たとえそういった条件がなくても、自分がやろうとしたことは恐らく今と何も変わらない。たとえどんな形でこの身が破滅しようとも、やはり最後の最期まで戦っていただろう。
だが、それだけではない。
彼女たちはもう一つ、あの場に残る理由を持っている。
恐らく、愚かにも――この黒龍のことをまだ諦めていないのだろう。
生きていると信じ、助けようと決意し、その為に逃げず戦うことを選んだ。
ならば、寝ているわけにはいかない。
たとえその場に駆けつけることが叶わない身体であろうと、1秒後には死んでいるかもしれない状況でも、彼女たちが諦めていないのに、どうしてドラゴンたる自分が先に投げ出せるというのか。
下半身はもう僅かな感覚もない。肘から千切れ炭化している両腕も、先ほどの鎖による責め苦で胴体との接合部の筋が伸びたり千切れたりして、下半身と同様にほとんど感覚がない。最早全身で唯一動かせるのは首だけだった。
仰向けに潰れた水晶に乗った状態で、震えながら血を滴らせる首をもたげて上層を視ると、一瞬の輝きと共に魔力の閃光が闇を切り裂きながら駆け下りて、この地の底までもを一瞬照らした。
正真正銘最後の戦いが始まったのだ。
猛烈な魔力と魔力がぶつかり合い、その振動がここにまで伝わってきていた。
この状況で己に出来ることをクロウシスは模索するが、何一つ名案は浮かんで来なかった。大気に魔力はなく、壁にあったルーンも全て割れている。よって、もう龍脈も意味をなさない。
少し前にここを出た時と状況は酷似している。地上で戦う仲間たちの為に、何かをしなければいけない状況だ。だが、クロウシスにはもう何も残っていない。
不甲斐ない己の身体に唯一まともに動く口で歯噛みする。
その時、クロウシスの脳裏に500年前にレビが言っていた言葉が再びよぎった。
『私たちは短い生だからこそ、この生命を燃焼させてみせます。一瞬の火花ではなく、一瞬の閃光のように眩く……!』
顔がビクンっと動く。
あの時はただ面白いと思っただけで、言葉の真意そのものが解ったわけではなかった。
その考えは長命な寿命と、堅固な肉体と絶大な力を有するドラゴンである自分には、恐らく解らないだろうと思っていた。
しかし、ここから出るときに理解したと思った言葉だ。だが、まだ理解が足りていなかった。
人間は諦めない。
諦めれば、そこで光は失われ――輝くことなく、生命は燃焼されない。
クロウシスはいつも教える側だと思っていた。
だが、土壇場ではいつも教えられる側だったと――黒龍は笑う。
――遂に理解することができた。
(そうだ。まだ残っているではないか……)
長い首をしならせて自分の胸部へと顔を近づける。そこにはいくつもの穴が穿たれ、2本の槍が突き刺さっている。魔力を視る眼には、僅かに体内に残る黒い魔力がゆっくりと洩れ出る胸部と、そこに刺さる魔力を僅かに伴った槍の形が朧気に視えていた。
その槍を咥えて一気に引き抜いていく。引き抜くたびに血が噴出し、特に心臓に達している槍を抜いた時は、噴水のように赤黒い血が出た。だが、その事どころか感覚が麻痺するほどの痛みにすら一切頓着せずに自ら胸を食い破り、心臓と肺とは別に存在するドラゴン特有の器官――内燃器官の損傷した内部を口先で探り、微かな手応えを感じると、それを前歯牙で咥え込みそのまま引き千切った。
(今使わずにいつ使う。この生命を燃焼させて――)
内燃器官から剥離したのは、人間の頭部ほどの大きさをした黒く丸い宝玉。
ドラゴンの操る膨大な魔力を制御する、云わば魔力制御の核だ。
その核をクロウシスは躊躇なく――噛み砕いた。
砕かれた宝玉から凄まじい量の魔力が溢れ出し、荒れ狂う魔力を可能な限り呼吸器官で吸い込んでいく。核である宝玉から出てくる魔力は極めて純度が高い、それは指向性さえ与えてやれば容易に変化する。吸い込んだ魔力を吐き出す時に、制御の要を失ってほぼ役割を果たさない内燃器官に唯一可能な最後の仕事を下す――着火だ。
(一瞬の閃光のようにっ――!)
内燃器官で一瞬火花が散り、火を得た魔力はすぐに炎性魔力へと変化して、吐き出される魔力が口の中に残る割れた核に触れた瞬間、核が記憶していた最後の形へと魔力が変換される。
すなわち、膨大な攻撃性魔力の奔流――ドラゴンブレスへと。
制御されていない魔力の変換と、放たれるブレスは凄まじい熱量と反動を持ち、上顎と下顎を削りながら融かしていくが、それでも反動には必死に耐えようと、首と頭蓋骨が砕けてしまいそうなほどに軋む中で、放つ前に視たヴァシアムの白金の魔力体へとその軌道を維持する。
黒いブレスの奔流がヴァシアムの光を呑み込んだ辺りで、口から洩れる核の魔力と放たれる炎性魔力が引火して、クロウシスの身体が炎に包まれる。
灼熱に身を焼かれながらも、黒龍は決してブレスの放出を止めなかった。
そして――遂に時空晶球による最後の代償を払う時間が訪れ、最早半ばまで融けていた上顎と下顎が爆ぜ、喉が裂け、内燃器官が砕け散り魔力核を失った状態でも炉心融解を起こしたかのように激しく明滅して融けていく。
だが、それでも黒龍はブレスの放出を止めなかった。
黒龍は既に肉体的には完全に死んでいる――それでも全身を炎に焼かれながらも、首と半分ほどになった頭部は、見えない力で固定されたかのように放出点から微動だにしなかった。
クロウシスの身体が500年前の時刻へと回帰した。
何も見えない、何も聞こえない、何も感じない、光の無い空間の中――。
深淵の昏い闇の中で天上へと昇る、殊更黒い一筋の光の奔流。
その中を人の形をした、光が降りてきた。
彼は消え逝く意識の中で、その光へと頭を寄せる。
――レ……ビ……我は……。
光は優しく黒龍を包み、そして――消えた。
あらゆる光源を失った魔封窟の底は静けさを取り戻す。
――そこに黒龍の姿はなかった。
◇◆◇◆◇◆◇
そこは真っ暗な空間だった。
もう500年もの間、地中深い穴の底で半休眠状態だった彼にとっては幾分慣れた感覚だ。
自分が今どういう状態なのかを思い出そうとすると、頭が酷く痛みキーンという耳鳴りに似た感覚を覚えて顔をしかめる。
そこで初めて、彼は自分が瞼を閉じていることに気がついた。
「――っく……ぉ?」
ゆっくりと瞼を開けると、最初に目に映ったのは鬱蒼と茂る木々の木漏れ日。その日差しに慣れない眩しさを感じて、顔の前に手をかざして目を細め呻いた。
「……ん?」
目が慣れてきたのを感じてもう一度目を大きく開けると、不意に感じた激しい違和感に目を見開く。日差しを遮ろうとかざした自分の手、それはどう見ても人間の手だった。
ガバっ! っと、バネ仕掛けの玩具のように身を起こすと、自分の両手から両足を見て、そしてペタペタと顔や身体に触れていく。
――人間になっている?
よく分からない状況に陥り、彼――クロウシスケルビウスは人間の姿で首を捻った。
「我は確か――」
初めて明瞭な言葉を放ってみると、その声を耳朶で聞いて喋るのを止めた。
その声は、もう数千年に渡って使ってきた声と変わらずそのままだった。
魔力で人間の姿を取っているわけでもない。
彼が人間の姿を取る時は、魔力で作ったいわば器をこしらえてその中に入るような感覚なのだが、今の自分の状態を見るに完全に人間そのものになっているのだ。
人間になって――いる?
ただそれだけの事実ならそこまで悩まないのだが、今の自身が感じている大きな矛盾と違和感には説明が付かないことが多すぎる。
(どういうことだ……)
そもそもここは何処だ――。
そう思って周囲を見渡すと、驚きに目を見開くことになった。
クロウシスがいるのはどうやら森の中で、そこは深い森の中にある大きく開けた広大な野原のような場所だった。そして、その中心にある大きな樹木の下に自分がいる。 その彼の周囲には、大小様々な無数の魔物が野原を埋め尽くすほどに集まり、こちらを見ていた。だが、どの魔物にも敵意のようなものは一切なく、強いて言うならば畏怖と信仰心に似たような感情を向けられていることを感じた。
そこでようやくクロウシスは、自分自身に起きている状況を少なからず理解した。
ゆっくりと立ち上がると、素足の足裏に感じる土と草の感触がビリビリと電気信号となって脳へと届く。その感覚に何とも言えないむず痒さを感じた。
立ち上がったクロウシスは自分の身体を捻ったりしつつ、適当に観察していると 服を着ていない事実に今更ながら気づく。
周囲を見渡しても服を着ているものなど一人も――というより、一頭一匹もいるはずはないのだが、たとえそうであっても全裸でいることは一知的生命体としてどうなのか? という疑問に衝突して、すぐさま魔法で適当な服を作り出して身に纏った。その服が基本的に黒色を基調としているのは、永年の習性のようなものだろう。
今、息を吸って吐くくらいの仕草で自然と魔法を使ったが、ここで自分が魔法を使えたことに多少ながらクロウシスは驚いていた。だがそれでも、自分が打ち出している『ここ何処であるか?』という問題に対する答えが揺ぐことはなかった。
クロウシスは周囲の魔物たちをザっと見渡す。
「この中にこの森の主はいるか?」
すると一頭の体長8メートルほどの巨大な狼に似た魔物が進み出てきた。
「お前が主か?」
クロウシスの問いに狼は首を振ると、森の奥を鼻先で指した。
どうやら主は森の奥にいるらしい。
「すまないが、案内を頼めるだろうか」
彼の言葉に巨狼は頷き、ゆっくりと森の奥へと歩き始める。
その後ろに続きながら、未だ答えの出ない自分自身に感じる大きな違和感とも言うべき矛盾点の答えを考えていると、不意に後ろへと目を向けると、野原にいた魔物が全てぞろぞろと自分たちの後ろを付いてきていた。だが、敵意のない存在を気にしても仕方がないと、すぐに前へと向き直る。
巨狼の後ろに続いて、森の深い場所へと踏み込みながらクロウシスは今分かっていることを整理していた。
最後の記憶は――圧倒的な痛みを意地と矜持で捻じ伏せて、死ぬまで魔力を放ち続けたという中々爽快な死に様の記憶だった。
そう――間違いなく自分は死んだ。
ゴチャゴチャになった精神とグチャグチャになった身体を持て余し、最後にそれを手放した感覚を覚えている――死ぬ感覚を味わった。
たとえ数千年に生きてても、死ぬのは一度だけだと思っていただけに、今こうして人間の姿で森を歩くというのは、冷静に考えれば計り知れない状況なのではないかと思った。
ともかく、自分は一度確実に死を迎えた。
そして今こうして人間の姿で目覚めた。
彼はこういった現象をどう言うかを知っていた――転生だ。
ただ記憶や魔法といった能力を備えた転生というのは、数千年生きてきた彼が読み漁ってきた資料と記録の中でも、かなり稀な出来事だと思われる。
いや、そもそも単なる転生という現象では説明が付かないことが多すぎる。
転生とは通常潜在的な記憶や能力を深層心理に秘めた状態で、赤子から行われるのが慣例のはず。だが、今のクロウシスはどう見ても成人男性の姿をしている。
ここに関しては本当に謎だ。
次にここは何処か、という問題。
少なくともクロウシスがいた世界ではない、と思っている。
根拠の一つとしては、周囲に鬱蒼と茂るこの大森林だ。
あの世界では1500年ほど前に戦女神ヴァシアムの圧力で豊穣の女神が『緑高限界』という呪いを大地にかけており、樹木が一定の高さ以上には育たなくなっていたはずだ。ヴァシアムの死後、それが豊穣の女神によって解除されたという可能性も十分にあるが、周囲の木々を見る限りどれも樹齢千年は超えていそうな大木ばかりだ。しかも奥へ行くほどに、より樹齢の永そうな木が増えていく。
他にも後ろから付いて来る魔物たちについて、種類や系統として似たものは幾つか浮かんでくるが、明確にその名前と姿形が合致する存在がいないこと。
そして最も根本的な根拠として――魔力の性質だ。
今感じている魔力の性質は、クロウシスが永年に渡り酸素と同様に在って当然のモノとして扱ってきた魔力と、限りなく似ているがやはり違う。具体的には若干薄いのだ。
魔力の濃度ではなく、根源たる原素の領域で薄い。
通常魔力のあり方が変わることなどありえない、云わば不可侵にして絶対の存在だ。それこそ世界でも変わらなければ、魔力が薄まるなどあり得ない。
ならばもう答えは出ているではないか。
クロウシスの結論は――ここが異世界である。
というものだった。
仮定ではあるが、自分なりの結論が出たところで前を歩いていた巨狼の歩みが止まる。合わせて止まり、巨狼が上を見上げるのに倣い上へと顔を上げると、そこには恐ろしく巨大な――まさに巨木が在った。完全に全容を見ようとすれば、顔を垂直にしなければならないほどに高く。太さもドラゴンの自分が腕を回しても、恐らく回しきれないだろう。
その圧倒的な存在感に言葉を失っていると。
『おぉぉぉお前さんがぁぁぁ話に聞いていたぁぁぁ若者かぁぁぁぁ』
口調なのか、単に木々が密集して生えていることによる反響なのかは分からないが、独特の喋り方で声を発したのは、間違いなく目の前の巨木だった。
「―― 我は始祖龍が一柱アルザードヴォレンシアの末裔、クロウシスケルビウス」
『ふぅぅぅむ、始祖龍となぁぁぁ。わしはぁぁこのクランガラクぅぅの森に根を宿すぅぅぅただの木じゃてぇぇ森の棲むものはぁぁぁジルフゥゥと呼びよるのぉぉぉぉ』
巨木ジルフの声が森に反響する。
「ジルフ大老。質問なのだが、貴方はどのくらいこの地に根を張っているのだ?」
気になっていたこと質問すると、巨木は考えているのか唸る声が森に木霊する。
『ぬぅぅぅぅそうさのぉぉぉぉぉぉ。二万年くらいはぁぁぁここにおるでなぁぁぁぁ』
その凄まじい樹齢に愕然とした。
いや、暦が同じとも限らないのだが、意味が通じているなら大体その通りなのだろう。
言葉は言語翻訳の魔法でカバー出来ている。
「ジルフ大老。この世界のことについて教えて欲しい。我は恐らく別の世界からやって来た者なのだ」
『ほぉぉぉぉこの世界のことをなぁぁぁぁ。んぅぅぅぅ……? 若旦那はぁぁぁ別の世界のぉぉぉ龍神なのだなぁぁぁぁ』
若旦那……自分よりも歳を経た友好的な存在に会うこと事態が、もう数千年振りくらいなので妙な感覚だった。
『どれぇぇぇぇわしは喋るのがぁぁぁ苦手でなぁぁぁ。ここは一つぅぅ若い者にぃぃ喋ることをぉ任せようかのぉぉぉぉ』
ジルフがそう言って黙り込むと、すぐ変化が訪れて地鳴りがし始めた。
その地鳴りと共に、ジルフの方角から何かが地面の中を掘り進んできているらしく、地面にこんもりとした盛り上がりを作りながら進んできたそれは、クロウシスの隣にいる巨狼の前で止まった。すると地面の中から人の足ほどの太さをした根が出てきた。巨狼がそれを前足でそっと踏むと、魔力とは違うが、それに近いものが根から巨狼へと流れていくのが分かった。
「若旦那。今はこのルガルの口と声を通じて話をさせてもらうでの。若旦那の魔法を使えば、わしと言葉を使わずに話をすることが出来るとは思うのじゃが、わしら地に根を張るものは魔力っちゅーのが苦手でなぁ」
ルガルというらしい――巨狼の低い声音でジルフの言葉が話されるのを聞き、クロウシスは了解の意で首を縦に振る。
「では、ジルフ大老。早速この世界のことを教えてもらいたい」
「うむ、そうじゃな。……と言っても何から話せばいいのかのぉ」
巨狼の姿で考え込む巨木の御老体を前に、クロウシスは自分から聞きたいことを言っていったほうがいいだろう。と判断して、ざっと頭の中ですべき質問を並べる。
「この世界にはどういった種族が住んでいるのであろうか?」
「むぅ? そうさな、ワシ等のような木もいれば、こやつらのような魔物もおるでな。しかしじゃ、勢力情勢……というものを基準にするのであればぁ、繁栄しておるのは五種族になるかの。人間族、エルフ族、獣人族、精霊族、魔族ですわぃ」
異世界ではあるが、在り様は自分がいた世界と大差ないのかもしれない。種族を聞く限りでは、そう思って差し支えないだろうとクロウシスは感じた。
「では、地理についてはどうであろうか?」
「ふーむ。わしはこの通り、地面に根を張って動かぬ木だからの。渡り鳥や、たまに訪れる旅人から聞いた話でよければ話せるでなぁ」
もっともな意見だ。
だが今は情報の正確性よりは、とにかく多くのことを耳に入れおきたかった。この大老がまったくの眉唾な話を態々するとも思えなかったし、多少正確性に欠ける話でも後はクロウシスの方で吟味して最終的には別の機会に確かめればいいことだ。
クロウシスが頷くのを見て、巨木は話を続ける。
「この世界には大きな大陸が三個あるでな。その中でも最も大きい大陸が中央大陸グリムディアじゃの。ここには人間が最も多く住んでおるでな。次に大きいのが南方大陸のイルムコレナじゃな。ここは元々はエルフと獣人の住まう大陸じゃったんじゃが、今は人間も多く住んでおると聞くわぃ。最後が北方大陸のアーカーヘイト、魔族が統治しておるでな。ちなみにここクランガラクの森は、グリムディアの南南東に位置しておるんじゃ」
この世界でも、人間の繁栄力は極めて優れているらしい。
あとは各種族の力関係や歴史についても知っておいた方がいいだろう。特に魔族の動向は気になるところだ。大陸一つを統治していることからも、それなりの勢力だと思われる。
そうやって色々と考えを巡らせていると、不意に巨木の方から不思議そうに話を振ってきた。
「そういえば、若旦那は同じ龍族のことは訊かんのだなぁ」
虚を突かれた形となり、一瞬かなり間抜けな顔をしてしまったクロウシスは顔をブンブンと振って一つ咳をした。
確かに同じ種族のことを訊かないのは不自然だろう。
むしろ一番に訊いてもおかしくないだろう。
あまりに永い間、種族という枠としてドラゴンが自分一人だけだった為に、自分の以外のドラゴンが存在する可能性など、もう永らく考えたこともなかったとは言えない。
「そうだな。我としたことがすっかり失念していた。それで、どうなのだ?」
「うむぅ、その前に教えて欲しいのだがのぉ。若旦那はどの龍族なのじゃ?」
今までよりも何処か雰囲気の違う声音だった。何かあるのだろうか? と思いつつも、隠す必要も感じなかったので、クロウシスはありのままを言った。
「我は黒龍だ」
その答えに対するジルフの反応は目に見えて動揺――いや、驚愕していることが伝わってきた。そして震えるような声で、クロウシスに頼み事をしてきた。
「若旦那。この年寄りの頼みなのだが、若旦那の本来の姿を、わしに見せてくれぬであろうかぁ」
態度が只事ではないことは気になったが、やはり悪意や害意がまったくないことは伝わってくるので、クロウシスは巨狼から距離を取る為に僅かに前へと進むと、そうする機能が予め備わっていた――それを知っていたかのように変身を始めた。
そう、これがクロウシスに取って最大の違和感と矛盾点の正体だ。
身体は間違いなく人間だった。
人間として必要な全ての部位と臓器が揃い、骨と皮の中に収まっている。そして魔法で仮の姿となっている時にはなかった、人間として感じる五感の感触と感覚がある――にも関わらず、自分はドラゴンであるという矛盾した意識が混乱をきたしていた。
記憶も能力も全て保持したまま、成人した人間の姿で生まれ、その上――
クロウシスの身体から黒い闇のような影が噴出し、それが彼を包み込む。闇の中では雷光に似た光が時折明滅し、闇の吹き溜まりが大きく立ち昇ると、その中から闇を裂くように整然と並んだアギトが姿を現し、続いて黄金の魔眼と鋭角的な角を持つ頭部が現れる。
そして漆黒の鱗に包まれた長い首と頑強な身体が迫り出し、強靭な翼が感覚を確かめるかのように開閉して、最後に堅牢な甲殻に覆われた背中から続く長い尾が闇から抜け出した。
――その上にドラゴンにも任意で戻れるのだから、態々人間の姿で生まれた意味が分からないのだ。どっちか片方でならまだ分かる。
死んだけども、奇跡が起きて転生した。
ほぼそれで説明は付くし、クロウシスも納得しただろう。
だが、基本人間でドラゴンにも戻れるという状況は理解を超えている。自分でない何者かがこうなっていれば、自分の存在を受け継いだのだろう。などと、草葉の陰で見守りもできるのだが、他ならぬクロウシスケルビウスを据え置きの状態で、今の状態になっていることが、恣意的な何者かの意図を感じずにはいられず、それが不気味だった。
自分だけの問題なのならいいのだが、それが元いた世界に対して何事か関係しているのであれば、それは捨て置けないことだ。と黒龍は思っている。
「お、おぉぉぉぉぉ……っ」
完全に変身を終えた黒龍の姿を見て、巨木が感嘆の声を上げて、巨狼と後ろで様子を見ていた魔物たちまでもが、地面に頭や顔をつけて崇めるような形を取る。
「これは何の真似なのだ、ジルフ大老」
「うむ、若旦那。この世界で龍族は特別な意味を持つ存在なのじゃて。特に我ら自然の中で生きるモノにとっては、神に等しい存在でのぉ。他にもエルフ族、獣人族、精霊族もドラゴンを崇拝の対象としておるでな。それは龍族が、この世界の成り立ちに大きく関係しておるからなのじゃて」
興味深い情報だ。
元いた世界での他種族からのドラゴンに対する認識は、生物の中で最も強い種族だが、その数が異常に少ないことから伝説の生物とされて畏怖されていた。憧憬のようなものを受けることもあったが、基本的には『恐ろしい存在』、『近寄りがたい稀有な種族』のようなものだった。
だから、崇拝云々はともかくとして、人間に受け入れられていることにはホっとする部分もあった。彼が元の世界でそういった認識をされてなかったのは、たったの一年間だけだったのだから。
――ん?
「ジルフ大老、人間はどうなのだ」
すると、ジルフは少し言葉を濁しながら語り始めた。
「そ、それがのぉ……その前に先ほどの質問の答えなんじゃが。龍族は滅亡の危機にあってのぉ」
ガクンとクロウシスの首が前へと垂れる。
「むおぉ、やはりこちらの世界の話でも、同じ龍族としては落ち込まれますかのぉ」
「いや、こっちの事情なのだがな。こちらも同じ状況だと言うのなら――」
内心は『ドラゴンとは呪われた種族なのかもしれない……』と真剣に悩み出しかねないくらいにはショックを受けていたが、それなら元の世界の事を話しても種族として恥にはなるまい、と判断した。
「我がいた世界では、恐らくドラゴンはもう我しか存在しなかったのだ。確かめたわけではないのだが、最後の一頭だったはずだ」
「おぉ、何と……では、これはやはり宿命だったのかもしれんのぉ」
「どういうことだ?」
宿命とは聞き逃せない。
この状況に類似した伝説や逸話がこの世界にあり、それがこの状況を引き起こした直接的な原因や、何らかの影響を及ぼした存在を表すのだとしたら、それは捨て置けない存在だ。
「この世界に太古から存在する言い伝えでのぉ『英霊精龍がその証たる宝玉の全てを示すとき、天上世界への扉が開かれる』というものじゃわぃ」
「英霊精龍?」
「太古からこの世界に生息する四種の龍族の始祖を示す敬称だわなぁ。代替わりをしていく英霊精龍を守護するのも、彼らが住まう場所を統治するものたちの昔からの役割なんじゃぁ」
その伝説と、この世界に住まうドラゴンの在り方を聞いてクロウシスは納得する。
純血種が四種族存在し、それらがその地に住まう種族と共生する関係を築いているわけだ。自分たちの世界にはない在りように、いたく関心を示す自分がいるのを自覚していた。
「じゃが、今や英霊精龍はたったの一頭しか残っておらぬと聞く」
「なっ……なんだと?」
思わず絶句してしまった。
それではまるで――自分と同じではないかと。
「だから、龍族の気配を持たれた若旦那が急にあの野原に現れた時は、きっと何かの導きなのだとわしらは思ったんじゃてぇ。そしてこのルガルを始めとした、森の子たちが眠り続ける若旦那を守るために二年以上代わる代わる側に居続けていたのじゃ。もっとも、寝ている時の若旦那は、既に何かに加護に守られていたようで、四角い見えない箱に入っていて触れることすら出来なんだらしいのだがなぁ」
今の話はクロウシスにとって聞き逃せない部分が色々とあった。
「我は二年……あそこで寝ていたのか? それをこの者たちが――」
集まる魔物たちへと首を巡らせると、魔物たちはささっと平伏した。
そこには下心や恐怖があるわけではなく。ただ純粋に偉大なる種族に対する崇敬の念が込められていた。
「そうか……世話になったようだ。感謝する」
代表して巨狼――ルカルに向かって謝辞を述べると、ルカルはグっと頭を下げた。
クロウシスがその竜頭で頷くと、ルガルが急にバっと!顔を上げて、森の一方向へと目を向けピンと立てた耳を忙しなく動かす。そしてギリっと犬歯を剥き出しにして歯噛みすると、クロウシスにもう一度頭を下げて、凄い勢いで駆け去っていった。
ルカルが駆け去った方向に意識を集中させると、森の北端と思しきところに大量の生命反応と木々が伐採されて燃やされているのが見えた。
「ジルフ大老、これは?」
大体何が起きているのかを理解した上で、確認のために訊くと。
ジルフは苦虫を噛み潰したような口調で話し始める。ルカルが行ってしまった為、代わりにルカルより一回り小さな熊が代口者になっていた。
「人間の森への侵攻だわぃ。奴らは英霊精龍を三頭を殺した罪深き種族だでのぉ。だがぁその力と勢力は、すでに抑えるものがいないほどに膨れ上がっておるんじゃぁ」
クロウシスの黄金の瞳が大きく見開かれた。
――英霊精龍を三頭殺した罪深き種族が人間。
この世界では人間がドラゴンを殺せるらしい。
それは果たして、ドラゴンが弱いのか――人間が強いのか。
モヤモヤとする感情があるのは、恐らくクロウシスが人間を好きになっているからだ。だが、別に人間なら誰もが好きというわけではない。
脳裏によぎるのは――500年前に共に1年の時を過した仲間と、500年後に自分を救いにきた仲間たち。あそこには人間も居れば、エルフなど他種族もいた。別に人間だけを特別視する必要などないはずだ。
だが、それでも――二人の少女の存在を思い出すと、単純に人間を嫌いになることも出来なかった。
そう思った時、クロウシスの中の何かが急に脈を打った。
驚きに眼を見開き、首をしならせて自分の胸と手を見つめる。
胸の中で自分の心臓とは違う、別の何かが息づいているかのような感覚。だが、それは不快なわけではない。その正体をクロウシスは本能的に感じ取り――理解した。
「ここクランガラクの森にも――」
「激硫の大地――クランガラク」
クロウシスの言った名前に、ジルフも周囲の魔物たちも息を呑んだ。
その名前だけなら森の名前から推察できたかもしれないが、古より受け継がれる継承名を目の前の黒龍が知るはずがないのだ。
「ジルフ大老。ここは一つ我に任せてもらえないだろうか」
クロウシスは万年の月日を生きる太古樹に向かい、ニヤっと口角を上げた。
前書きと後書きを活動報告にて書いております。
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