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プロローグ4-五百年前の敗戦-


 貫通して神殿の床に刺さった槍は、床に浮かんだ聖印に呼応して床から抜ける気配がない。周囲を見渡せば聖印が浮かんでいるのは、今クロウシスがいる円形広場のみ。


(つまり全て計算の内というわけか……)


 内心で毒づきながら、クロウシスは自分を貫き縫い止める槍の一本を掴む。槍は恐ろしいほどの熱を放ちジワジワと体内を焼いていた。魔力で抑え込んでいなければ体内から発火していることだろう。

 怒りが湧き上がる。敵への怒りは勿論あるが、その策略にあっさりとかかった愚かな己への怒りは実際に腸を焼かれていてもなお、腸が煮えくり返るほどの怒りを生む。

 

 槍を掴む手が憤怒でブルブルと震え、体内に滞留する魔力が傷口と口内から赤黒い蒸気となって噴き出し、血の混ざった魔力蒸気に覆われた中で黄金の魔眼を炯々と燈す姿は、まさに手負いの獣そのものの姿だった。

 その鬼気迫る姿に、光槍の維持に集中しているヴァシアムどころか、アヘルトでさえ追撃の一手を出せないでいた。


『……クロウシスケルビウス、やはり貴様は危険な存在だ。我々はお前を策に嵌めて重傷を負わし、その身を大地に縫い付けている。だが、それでもなお貴様は我らを滅ぼすに足る存在であると、我らは感じている』


『太古の王よ。孤高の種よ。最後のアギトよ。お眠りなさい。汝は下種に誑かされた挙句に、我々の聖戦を幾度となく妨げたのです。本来ならば滅ぼさねばならない存在ではありますが、汝の勇壮なる魂に免じ、久遠の眠りにつくことで赦しを与えましょう』


 天界と魔界の盟主に挟まれて称賛を受けるが、そんなことよりも重大なことを戦場神が言った。


「眠……り…だと?」


 赫怒に染まった頭で意味を理解しようとしたが、その前に両敵が動いた。


『魔封窟の開門を………』


 アヘルトの言葉に反応し、クロウシスが縫い止められていた円形広場の床が、そのまま円形に消えて円状の巨大な穴が一瞬にして姿を現した。巨大な穴の中は闇が支配し、底知れない深さを持って奈落への口を開いていた。

 突如足場を失い穴に落ちそうになるが、足場だった円形広場の床が消えることは槍とクロウシスを縫いとめていたものものが消えたことを意味している。クロウシスが一瞬の浮遊感にすぐさま翼を広げて飛翔しようとした。だが――


『聖条の鎖よ………』


 ヴァシアムの言葉に呼応し、奈落の穴から黄金の鎖が五条凄まじい速さで駆け上がってくる。咄嗟に障壁を展開するが、鎖は障壁の干渉を受けずにクロウシスの両手足と首に巻きついた。鎖はクロウシスに巻きついた部分が手枷、足枷、首輪に変化し、それらの表面に青い紋様が浮かびあがる。


「これは……拘束と封印の術式かっ」


 クロウシスの言葉を肯定するかのように、各枷を通じて魔力が急激に吸い出されている。そして同時に猛烈な力でクロウシスを穴の中へと引きずり込もうとしていた。

 ブレスで鎖を破壊しようとするが、首輪が魔力の収束を阻害して無尽蔵に魔力を吸い上げる。拮抗していた鎖との綱引きも、魔力を失う内にジリジリと穴へと引き込まれ始めていた。


「クロウシス様っ!」


 アヘルトの向こう側に陣形を組んだレビたちが、恐怖と悲しみと怒りを混ぜ合わせたような表情でクロウシスを見ていた。

 それは無理も無いことだった。

 彼女たちにとってクロウシスの存在は抵抗の象徴であり、全軍を率いる長でもあったのだ。そんな存在である彼が、まさかの共謀で策略に絡めとられているのだから。

 助けたい気持ちは皆同じだった。

 だが、彼らの目の前で苦しむ敬愛するドラゴンと彼らの間には、魔界の大侯爵アヘルトゲイズディが立ち塞がっていた。

 アヘルトは今レビたちに背を向けてクロウシスを注視しているが、そんなことは何の希望にもチャンスにもならないことを、ここにいる全員が理解していた。


「グッ…ゥゥ…」


 魔力を吸い出されながら奈落へと引き込まれる力に抗っていたが、この抵抗も恐らく長くは持たないだろう、とクロウシスは感じ始めていた。

 アヘルトとヴァシアムがこの状況で干渉してこないのは不思議なことだったが、恐らくこの鎖が持つ封印能力に外部からの刺激を与えることを避けているのだろうと推察する。

 すでに足は穴の縁より下へと引きずり込まれ、徐々に下へ下へと体を引き込んでいく。


(もはや抗えんか、これは……)


 クロウシスの抵抗が弱まったことを感じたアヘルトは後方へと振り向いた。そこには黒龍を戦場へと誘い出し、自分たち魔族と神族の戦いを妨害した人間を主とする地上に棲む者達が、手に武器を持ち封印の穴へと引きずり込まれるドラゴンを助けようと己を奮い立たせようとしていた。


『……地上に棲みし者達よ。ここに集まるは、それぞれ種族の中でも英傑ばかりなのであろう。今後のことを考慮して、ここでお前たちを消しておくのが得策』


 巨大な黒き剣が地上軍へと向けられ、純粋なアヘルトの魔力を帯びた剣がぼうっと光る。

 人間が操る魔力と魔族が操る魔力では、その質も扱う魔力の量も桁が違う。そしてそれが大侯爵であるアヘルトならば、桁どころか格が違うだろう。

 だが、そのアヘルトのおぞましい魔力を前にしても引かぬ者がいた。

 

 レビ=ティアニカ。

 

 彼女は恐怖と絶望に立ち竦む同胞たちの前へと歩みでて、向けられる圧倒的な魔力を前にしても怯える素振りすら見せなかった。


「不意打ちに次ぐ不意打ちに、あのような搦め手。これが世界の最高位に位置する魔族と神族を束ねられる方々のおやりになる事ですか……」


『………分かっておらぬな人間の娘。奴は守るべき一族を持たず、本来はあの恐ろしいまでの力を己のためだけに使うことができる存在なのだ。そんな存在は捨て置けんのだよ。それに奴を戦いに駆り出したのは貴様らであろう? ……もっとも、独りだった頃の奴にはこのような手が通じる隙があったとは思えなんだからな。その点では貴様らに感謝している。だが―――』


 超大な魔力を伴い鈍く輝く巨大な剣を振り上げる。


『………我々はお前とお前の仲間を根絶やしにするだろう。これより百年は地上界の浄化を行う。我ら魔族と仇敵神族によって、二度とこのような悲劇が起きぬように地上を平らげてやる。……これはその始まりだ―――娘よ、お前の血で奴らに絶望の始まりを告げるのだ』


 憎悪と共に剣は無情に振り下ろされる。

 その時、クロウシスの眼には見えた。

 レビ=ティアニカの瞳は絶対的な死を前にしても恐怖や絶望といった感情を浮かべず、気丈に自分へ振り下ろされる死の刀身を真っ直ぐな眼差しで見つめていた。だが、その視線が僅かに逸れて穴へと沈み込む自分を見た時に、その澄んだ瞳はほんの僅かに――悲しみに濁ったのを。


 クロウシスの瞳孔が見開かれる。


「ガァァァァァァァァァァァッ!」


 鎖と首輪による魔力抑止を振り切り、辿るべき魔力循環の筋道すら無視して口内から膨大な魔力を放射した。


『…な、にぃ!?』


 背中から襲い掛かった埒外の威力を持った魔力の奔流に、剣を持った右腕を右半身ごと蒸発させられる。強力な収束ブレスはそのまま塞がっている入り口だった場所にある壁に直撃し、壁全体にヒビを入れたところで収まった。


 すぐさま再生を開始しようとするアヘルトに対して、クロウシスは尋常ではない膂力で右腕を鎖に繋がれたまま引き寄せて、胸部に刺さっている槍の一本を無理矢理引き抜いた。赤黒い鮮血が血潮となって噴き出すが、それも体内と体表の高音に晒されて徐々に蒸発して黒霧となる。


『…ヌゥゥ! おのれクロウシ―――っ!?』


 右半身を再生させながら振り向いたアヘルトに向かって、光の槍が凄まじい速さで投擲され、魔力の使用が制限されている中で再生に能力を割いていたアヘルトは、障壁を辛うじて展開するものの、飛来する得物は相性の悪い神族の――それもヴァシアムの作り出した槍。障壁を易々と貫通した槍はアヘルトを貫き、槍の慣性のままにヒビの入った入り口を塞ぐ壁まで吹き飛び、アヘルトを磔にした。


「クロウシス様っ!」


 レビたちが歓喜して彼らのドラゴンへと目を向けるが、その姿を見て息を呑んだ。


 無茶苦茶な魔力の放出を行ったためにクロウシスの胸部から喉、口にかけて裂傷が走り、荒い呼吸に合わせて血が噴き出ている。さらに胸部の槍を抜いた傷からは蒸発しきらないほどの血が流れ出し、口から血煙と化した蒸気を噴出すその姿は鬼気迫るものがあった。


『聖条のくさ―――』


 天井から降りてくる美しくもどこか無機質な声に向かって、クロウシスが吼えた。


「いつまで見下しているつもりだ――アバズレっ!」


 クロウシスの魔眼が閃光を放つほどに強く光ると、ヴァシアムを包むように展開された領域支配に不可視の力が着弾し、せめぎ合いを始める。空間が軋みを上げて、力が拮抗している場所を中心に空間が(よじ)れる。

 やがて、今まで目を瞑り表情を一切変えなかったヴァシアムの表情に僅かに綻びが生まれる。


「ウォォォォォォォォァァァァァァァっ!!」


 制御できない魔力を無理矢理に魔眼へと注ぎ込み、脳と眼に直接楔を打ちつけるような激痛が走るが、そんなことはもはや一切考慮の外だった。

 蒸発する魔力と口内から噴き出る魔力の蒸気が黒い霧となる中で、炯々と輝きを放つ二つの双眸が一際輝きを増した瞬間、ついにヴァシアムの領域支配を突破した。

 ヴァシアムの上半身が魔眼による力の直撃を受け、粉々に爆ぜた。

 だが、それと同時にクロウシスの両眼も滅茶苦茶な行使に耐え切れず、同じく爆ぜて潰れた。


 両目の視力を失い上体が揺らぎながらも、なお魔封窟へと引き込もうとする鎖の力にかろうじて耐える。

 視力を失ったクロウシスは視力の替わりに物体が保持する魔力と、行使される魔力の流れを『視る』能力に切り替えてレビたちがいた方向に首を向けた。すると、複数の小さな魔力を持つ集団が自分へ向かって走ってきていることに気づき、怒声を漲らせた。


「来るなっ!」


 その大音声と声に含まれた余裕の無さに、クロウシスに向かって走っていたレビたちは動きを止めた。視力を失ったクロウシスには彼らの表情は分からなかったが、千々に乱れた魔力は彼女たちの精神状態を示すものだ。自分の今の姿を見て彼らは動揺し、悲しんでいることは彼にもおぼろ気ながら理解できた。

 

 だからこそ―――来させてはいけない。


「退け! ここはもう――我はもうダメだ。この封印から逃れる術はない! だが、お前らまでもがここで終わることはない! 退くのだ!」


 地上軍の間に目に見えて動揺が走った。

 初めて聞いた最強のドラゴンの弱音は、事態を決定付けるに足る明確にして残酷な言葉だった。

 しかし、それでも絶望に囚われない者がいた。

 軍団の中で最も彼を信頼し、また信頼されていた人物―――レビ=ティアニカだ。


「お助けします!」


「ダメだ。レビ=ティアニカ。もう無理なのだ」


「無理ではありません! たとえ無理でもお助けします!」


「レビ!」


 怒声が神殿に響いた。

 だが、その怒声よりも彼の言葉にレビは驚いていた。


「名前……今、レビと」


 呆然と噛み締めるように呟く声に、クロウシスはわずかに嘆息した。


(たかが名前のみ呼ぶだけで、そこまで感情を起伏させるとは……人間とは、本当に………)


 血に塗れた口角を上げてにやっと微かに笑った。


「レビよ。周りを見るのだ。今救うべきは我ではない。お前の周りにいる仲間救い、ここを脱出するのだ」


「で、でも私は誓いを――貴方様をお守りするというやくそ―――」


「我もお前との誓いを果たせなかった。まったくもって不甲斐ない、口だけの存在だ」


 その自嘲するような声音にレビは首を振りながら、何かを我慢するように唇を噛む。


「それに―――」


 言葉を言いかけた時に、歪な魔力の収束を感じて上空を仰ぐと、そこには砕け散り中空を漂っていたヴァシアムが再生を開始した様子が視えた。

 時間はもう無い、それでも少女と語らったのはいかなる心境ゆえか……。

 クロウシスは迷いも未練も名残も振り払う。


「リーザ=メンフィア! レビを頼んだぞ!」


 クロウシスの言葉に驚きレビが振り向くと、そこには目に涙を浮かべながらも気丈にレビの手を取るリーザの姿があった。


「姉様、いきましょう。黒龍帝様――クロウシス様もそれをお望みです」


 自分を姉と呼んだリーザに驚き、その経緯を瞬時に理解して振り向くと、そこには両目の潰れた血まみれの顔で不器用に笑おうとしたドラゴンの姿があった。

 そしてあの夜の会話を思い出す。



『お前がリーザ=メンフィアに姉と名乗り出ないのは、しきたりの類なのか?』


『いいえ、すでに僧正巫として正式な就任を終えた今でなら伝えても良いことになっています。ただ、まだちょっとだけ怖いのです。今の私があの子のお姉ちゃんをちゃんと務めてあげられるのか……』


『姉とは務めるものなのか? お前が姉であれば、その時点でリーザ=メンフィアは喜びを得られるのではないのか?』


『そう、かもしれませんね…』



 そう言って誤魔化すように笑った自分。

 あの時、敬愛するドラゴンはそんな自分を不思議そうに見ていた。 

 なんて……なんて勝手で、なんてお節介で、なんて―――優しい。


 やっぱり自分だけでも残らなければっと、リーザの手を振り払おうとした時、甲高い高音が耳朶を打ちレビたちは思わず耳を塞ぐ。目を開けると、胸部付近まで再生を果たしたヴァシアムが背中に生える翼から輝く羽根を無数に撃ち出していた。

 放射状に撃ち出された羽根は直下にいたクロウシスに襲い掛かり、背中の鱗や甲殻へ突き刺さり、翼の皮膜をズラズタにしていく。

 顔を青ざめさせるレビの手をもう一度強く握り、正面からリーザは叫んだ。


「姉様! ここで終わりではないはず! それともまさか、本当にここで、ここで全てを終わりにするおつもりですかっ!」


 リーザ――血を分けた妹の必死の言葉に目を見開く。

 気を沈めて、もう一度クロウシスの方へと視線を向ける。無数の羽根を無抵抗に受けて身を削られながらも、クロウシスはレビたちの方へ顔を向けて笑っていた。


「リーザ、行きましょう。ここから――脱出します」


「はいっ!」


 意志を定めて、レビは黒龍に背を向けて走り出した。


 その背を見つめ、正確には遠ざかっていくレビの魔力の光を感じながら、クロウシスはやっと息をついた。


(やっと行ったか……)


 

 大仕事を終えた彼は最後の仕事へと取り掛かる。

 首と四肢を魔力消耗の鎖で繋がれ、両の魔眼は潰れ、胸部から口角まで裂傷が走り、背中と翼はズタズタのボロボロだ。だがそれでも、やらなければならない矜持――いや、意地が自分を突き動かすのを感じていた。

 自分のこの行動が、彼ら彼女らを救うのであれば――身の破滅も辞さない。


 体に残る魔力を無理矢理かき集めていく。鎖の強制力を無視して魔力の流れを作っているので、体中で得体の知れない何かがブチブチと断絶する感覚を感じながら、それでもなお魔力を胸部の内燃器官へ収束させることを止めない。

 魔力が収束するにつれて、胸部が燃えるように熱くなり口内からせり上がる血が口角からダラダラと流れ続ける。それでも止めない。

 魔力の収束が臨界点を超えて、傷ついた胸部の裂傷と槍を引き抜いた傷口からはチリチリと赤色の火が立ち上っている。それでも止めない。


 レビたちが入り口だった壁に迫ったところで、クロウシスはボロボロの顔を上げ全身に力を出来る限り込めて、これから自分の身を襲う衝撃に備えた。

 もはや自壊しかねないほどの力を溜め込んだ黒龍が自分へと首を巡らし、にやっと笑ったことにアヘルトは戦慄した。


『――――――っ!!」


 言葉にならないほどの声を上げて、自分を壁へと縫い付けた槍を引き抜こうとするが、さきほどから試している結果と同じで、神族の――それもヴァシアムの手で構築された槍は、ついに引き抜くことができなかった。


「ウオオオオオオオォォォォアアアァァァアアァァァァァァァァァァァァァっ!」


 神殿そのものを揺らせるほどの大音声と共に、クロウシスは溜め込んだ魔力の全てを口腔から放出した。自身と同じくらいの巨大な収束されたブレスは、空間を駆ける間は周囲に一切の被害を出すことなく突き進み。アヘルトとその背にある壁へと着弾した瞬間、その込められた威力の一切を解放した。


 アヘルトを巻き込んだまま壁を一瞬で融解させて、そのまま外へと直線状に勢いを衰えさせることなく貫通する。だが、そこでクロウシスは驚くべき行動に出た。大出力の魔力を放出しながら首を上方へと逸らし始めたのだ。自然と直線状に放出されるブレスも角度を上げていき、壁を消滅させながらやがて天井へ行き着き、なおも天井を削りながら放射角を広げていく。

 そしてついにクロウシスの首は垂直となり、放出されるブレスもまた垂直となり、結果的に直上にいたヴァシアムを襲うこととなる。


 羽根を撃ち出しながらの再生途中だったヴァシアムは、それを避けることができず圧倒的な魔力の奔流に晒されることとなる。だが、すでに首付近まで再生が済んでおり、両手で強固な魔力障壁を展開させた。空間に展開している障壁そのものの形が視認できるほどに強力な障壁だったが、それでも威力を若干抑えるに留まり、やがてヒビ割れて砕け散った。凄まじい熱量と魔力を伴うそれは、今度こそヴァシアムを消滅させるほどの威力がこもっていたのだが、先に限界を迎えたのはクロウシスの方だった。


 胸部の傷という傷から炎が噴出し、それは瞬く間に首から顔へと駆け上がり、ついには顔が爆ぜた。上顎が砕け散り、下顎も半ばで消し飛ぶ。魔力の反動はそれだけに留まらず、全身へと逆流した魔力がクロウシスの体をことごとく破壊していった。

 ズタボロとなり、もはや鎖の力に抵抗することなど出来るはずも無く。赤黒くに変色したドラゴンはゆっくりと奈落の穴へと落下していく。

 

 その時、確かに声が聞こえた気がした。


 聴覚など正常なはずがない、だからこれはきっと幻聴だろう。


 だが、それでも確かに聞こえた気がした。


 ―――必ず、必ず助けに参ります。今度こそ約束を守ります。


 その声にクロウシスは幻聴だと分かっていても、答えた。


 ―――ああ、待っている。と


※修正情報

9月21日

・誤字修正しました。

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