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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

50年の思い

作者: STAR

 読みにくいですが、頑張って、悩みに悩んで書きました。読んでみてくださると嬉しいです。

50年の思い













知子「りん~!!」


 緑溢れる大自然の中、一人の明るい少女の声が聞こえる。その少女は走りながら一人の名前を叫んだ。少女の名は西野ニシノ 知子トモコ


百合「モォ、その呼び方やめてって。」


 そして、りん、と呼ばれた少女━━古鳥フルトリ 百合ユリは振り返りながら言った。


知子「いーじゃん? 別に。」

百合「っていうか。

   その呼び方の由来がまずおかしいんだって。」

知子「ん~。そーかな?」


 と、知子は可愛らしく首を傾げてみせた。

 知子曰く、『百合でしょ? だから、はじめは“ゆ~りん”って呼んでみたの。でも、長いし言い難いから“りん”って呼んだんだよ! 可愛いでしょ!』らしい。


百合「だから、長いし言い難いからって“りん”の方にすることがおかしいんだよ。」

知子「ん~。そうは思わないけどなぁ~。」


 知子は頭がいいのに天然なため、少し?ずれているところがあるのだ。

 そうそう。説明をし忘れていましたが、二人は現在高校2年生。彼女らは中学で知り合い、同じ高校に通っていた。

 彼女らが普段一緒にいるのは、まだあと一人いる。


香「やっほー。

  知子ちゃん、百合ちゃん。」


 それがこの子。芝崎シバサキ カオリ

 この三人が、とても仲良し。香も同じ中学出身だった。


百合「あ、香!」

知子「一緒に帰ろー!」


 百合と知子が返事を返したのを確認してから、香は話を切り出した。


香「ねえねえ、最近、通り魔出てて怖いよね…。」

知子「毎日ニュースでやってるよね。」

百合「包丁持った男の人でしょ?

   刺されたら痛いのかなぁ?」

香「痛いっていうか、死ぬんじゃない?」


 そんなことを話しながら歩いていたとき、コンビニの前を通りかかった。


知子「ねぇ!」

百合「ぁ、いーよ!

   ね? 香。」

香「もちろん!」


 ということで、三人はコンビニに入った。

 毎週月曜日は、知子が読んでる『週刊少年ジ●ンプ』の発売日ということで、習慣としてコンビニに寄っていた。

 そして、今日もいつものように知子が読み始める。暫くして、知子が本を閉じた。


百合「そろそろ帰る?」

知子「そうだね。」


 緑の大地とオレンジの空に挟まれた空間を、三人は並んで帰る。


香「それじゃ、二人とも。また明日!!」

知子「うん、バイバイ。」

百合「通り魔には気を付け……。っ!!!」

「う、う、ううううううわぁああ━━!!!」


 グザッ バサッ

 音を立てて、男の足元に香が倒れ込んだ。その背中と腹からは鮮血の緋が流れ出て、地面の土を赤く染めていく。そして傍に立っている男が手にしているもの━━それは、赤く染まった包丁。手も赤く染まり、表情は…狂っている。何かに取り憑かれたような、何かに怯えているような、何もかもに絶望したような、そんな顔。

 男は己の足元に倒れている香をゆっくり見下ろし、一気に顔をあげると勢いよく走り出した。その方向には百合と知子がいる。


「う、うわぁああぁ━━━っ。」

知子「きゃっ。」


 男に刺されそうになり、ギリギリで知子は避けた。しかし男は百合に向かって再度突進する。


知子「りん!!! っ逃げて━━━━!!!!」

百合「っ。大丈夫だよっ!!! っつ…。」

知子「っりん!!!」


 男の攻撃を回避しようとしたものの、ギリギリ躱せず右腕を少し切ってしまった。それを見た知子は、思わず叫んで駆け出そうとした。


百合「だめ!! 来ちゃだめだよ知子チャン。逃げて。

   ね? お願い…逃げて……。」

知子「り……ん………?」

百合「お願い…。逃げて…生きて…?」

知子「…な、に…言っ…て…。

   そ、れじゃ、もう……りん、死んじゃう…みたい…な…っ!!!? りん?!」


 駆け出そうとした百合を、知子は必死に止めた。そして、逃げて生きて。そう言った。まるでそれは、もう死んでしまうから、自分の分まで生きて。そう言っているようだった。男から離れるように避け、踵落としをお見舞いし、一時的に難を逃れた百合は、知子の手を取り、走り出す。


知子「そ、んな…。ヤダ、ヤダよ…りん……。

   死ぬなら…一緒に……。」

百合「馬鹿!!! 知子チャンは、生きなきゃだめ!! 死ぬなんて、絶対だめ!!! 生きて…ね? わたしからの…最後のお願い…聞いて?

    これは遺言同然。…だから…。わたしのこと思ってくれるなら…このお願いを…聞いて。」

知子「りん……。」


 走りながら言った知子に百合は必死に願いを伝えた。もう、こうなった百合は誰にも止められない。そう思った知子は、うなづくしかなかった。うなづいて、百合の願いを聞いて、生きて、百合と香の分も存分に生きるしかない。


百合「今まで、楽しかったよ…。ありがと知子チャン。

   生まれて来てくれて。出会ってくれて。仲良くしてくれて。叱ってくれて。わたしを心配してくれて。一緒に泣いてくれて。知子チャンがいたから、わたしの人生、無駄じゃなかったと思える。

   本当に     。」


 バシャン


知子「っ。…、百合━━━!!!!」


 百合はあるだけの力全部を注ぎ込んで、すぐそばの川へ知子を突き放した。落とされた知子は百合のその名を呼んだ。名前で。

 それを聞いた百合は驚いた顔をして、それを笑みに変えた。そしてもう一度、呟いた。


百合「…ありがとう……。」


 その声は、知子に届くことはなかった。が、知子には伝わった。痛いほどの百合の気持ちが。

 グザッ バシャン

 男に刺された百合は、川に落ちてきた。その背中には包丁が、痛々しく突き刺さっていた。

 落ちてきた百合に、知子は泳いで近寄り、話しかける。


知子「りん? りん!!

   しっかりして、りん! 死んじゃやだよ…。死なないで。あたし一人じゃ…生きれないよ…。」

百合「……ご、め……。と、もっこ…チャ、ン………今、まで…あり、が……と……………。」

知子「ちょ、りん?! りん!! 生きてよ!!

   死なないで!! お願い! 目を…。覚まして…!!」


 知子の願いも虚しく、閉じられた百合の目が覚めることはなかった。


























勇太「知子おばあちゃん、そんなことがあったんだね。

   それで、大事なお友達、いなくなっちゃったんだ。」


 あれから50年。66歳の知子には、かわいい孫たちがいた。知子の過去を聞いた、そのかわいい孫たち━━勇太と健人は目を伏せて黙り込んだ。


知子「…そうなんだよ……。

   だから、お前たちも、友達は大事にしないといけないよ。兄弟も、特に、友達より一緒にいるんだから、仲よくしなきゃいけないよ。喧嘩したら謝って、嬉しかったなら笑い合ってお礼もすぐ言うんだよ。いつ言えなくなるかわからないんだから。いいね?」


 先ほどまで喧嘩していた孫たちに、言い聞かせるように言う。


健人「はぁーい。」

勇太「健人、ごめんな?」

健人「うーん。僕も、ごめーね、おにーちゃん。」


 勇太と健人は仲直りをして、元の仲のいい兄弟に戻った。


知子「はい、よろしい。いつまでも、仲良しの兄弟でいてね。」

勇太「…。うん!!」

健人「……。知子おばーちゃん?

   どーしたの? 元気ないないね?」


 知子が、少し寂しげに言うと、敏感な孫たちはそれに気づき、元気付けようと明るく振る舞ったり、純粋に尋ねてきたりした。

 その姿が微笑ましくて、知子は少し笑みを浮かべて言った。


知子「大丈夫よ。おばーちゃん、昔のことを思い出してちょっと懐かしく思っただけだよ。

   二人にまた会いたいな…。」


 でも、もうすぐ会えるね、香ちゃん、りん。知子の呟きは、幼い子供達の耳に届くことなく風に流された。


知子「……うっ…。」

健人「知子おばーちゃん?!」

勇太「知子おばあちゃん!! 大丈夫?」

知子「…大丈夫だよぉ…。なんだか少し、眠たいから、おばーちゃんはもう寝るね。」


 心配させまいと元気に振る舞う知子も、自分の余命を悟った。もう長くはないと。静かに消えたい。そう思った知子は愛しい孫たちに永遠という別れを告げ、永遠という眠りにつくことにした。


知子「お前たちも、そろそろお家に帰んなさい。」

勇太「…はい。知子おばあちゃん、バイバイ…。」

健人「知子おばーちゃんっ…。バイバイやだ…。知子おばーちゃんとずっと一緒にいる!!」


 悲しそうに別れを告げた勇太に、泣きながら駄々を捏ねる健人。涙を堪えていたと思われる勇太も健人の駄々を聞いているうちに堪えきれなくなったのか、泣き始めた。


知子「おやおや、困った子たちだねぇ。

   泣くのはおよしなさい。男の子が人前で泣くもんじゃないよ。」


 そして、なんとか泣きじゃくる孫たちを宥め、家に帰した。知子は、家の一番広い部屋のど真ん中に敷布団を敷き、布団に入った。


知子「香チャン、りん…。

   もうすぐ…会えるね…。もうすぐ…。

   次に会っても、また、仲良く、して、ね…。

   生、まれ、変わっ、て、も…友、達、に…、なっ…。」


 その直後、知子は深い、深い眠りについた。二度と覚めることのない、永遠という名の深い眠りに…。

 大事な人は、みなさんいらっしゃるのではないでしょうか。家族、友人、知り合い、仲間、親戚…。全ての人が、それぞれかけがけのない人間で、それぞれが儚い命を持っています。それぞれの人が、大事な存在なのです。

 この地球や宇宙と比べると、それはそれは小さなものが人間です。けれど、その小さなものも、ちゃんと生きています。命を持って、意志を持って、この大きな世界で生きているのです。そんなかけがけのない私たちは、己も隣人をも大切にし、日々生きてゆかねばなりません。

 そうすれば、幸せも、自分のかけがけのない大切な存在も、いつか、隣にあるようになると思います。

 大切な存在は、いつ現れるかも、いつ消えるかもわかりません。だからこそ、常に、全てを大事に思わなければ、後で大変後悔するのだと思います。


 友人を。家族を。そして何より己を、どうか大事にして、これから生きてください。



 偉そうなことを言いましたが、これが私の本音であります。





 閲読いただき、誠にありがとうございました。

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[一言] なんか、感動です! 百合ちゃんかわいそうだけど..... あの通り魔め、私が百合の分まで呪ってやる(黒笑
2011/09/30 17:39 退会済み
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