殺人鬼プータロー【某企画参加作品】
男は晴れてプータローとなった。
職を失って半年。自暴自棄になり、失業保険は全て、趣味のアニメとフィギュアに注ぎ込んだ。家賃の滞納を重ね、とうとうアパートも追い出された。
住所不定、無職。
手許に残った所持金は硬貨数枚。最後に一風呂、と思い、銭湯の暖簾をくぐった。 愛想のない爺と耄碌した婆が経営する小汚い風呂屋。
脱衣場で全裸になると、タオルで前を隠して浴室のガラス戸を開けた。
そこに、妖精がいた。
湯煙の向こうにぼんやりと浮かぶ、小柄な白い影。
男の脳裏に、愛して止まなかったSFアニメのキャラクターが蘇る。
まさか……ユキちゃ――
湯気が晴れた。後ろで一つに結った白銀の髪。充血したかのような紅い眼。白色のスクール水着に身を包み、手にはアカスリ、ピンク色のゴム長靴。
彼女は男を目に留めると、歯の無い口でにんまりと笑って言った。
「おひぇなか、ながひまひょうかぇ?」
男は絶叫した。魂が血の涙を流すような、絶望に満ちた慟哭だった。
*
――無職男、銭湯経営の老夫婦を理由もなく殺害――
後日、死刑執行を目前にした男は、取材の記者にこう語った。
「家も職も失って、失う物は何もないと思っていた。でもそうじゃなかった。奴らは……俺の魂を汚した」
新聞に載った意味不明な言葉に、世間の者は蔑みと嘲りを込め、男を「殺人鬼プータロー」と呼んだ。
しかし、ごく僅かな選ばれた者たちだけは、男が守ろうとした物を知っていた。彼らは、独り死刑台に赴く男を思い、心の底で惜別の言葉を送った。
グッドラック。
(了)
間に合わせですみませんorz