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邂逅1

自己満足作品ですけど、読んでくださったら嬉しいです。

 人間の特筆すべき能力はその知力にある。彼らは空を飛べず、速く駆けれず、海を遠くまで泳げない。しかし彼らは空を飛び、速く駆け、海を横断する。

 知力とは学習能力である。彼らは鳥に学び、馬に学び、魚に学んだ。

 歴史を重ねる度に、彼らは英知を積み重ねて行く。ほんの少しの時間で、目覚しい進歩を見せる。人間の興味深い点だ。歴史が少し居眠りをすると、目を開いたときには彼らは空を飛んでいるのだから。

 彼らは世界を隅々まで探索し尽くしたと思っているだろう。事実その通りだ。高山の頂上、深い森の奥など、情報を得にくいところ(もちろん開拓されてはいるが)以外の場所では、日々最新の情報を取得し、共有している。

 しかし、忘れてはならないことがある。

 100個の箱があるとしよう。君たちは、99個箱を開けて、何も入ってなかったから、100個目にも何も入ってないだろうと思うだろうか。恐らく大勢の人がイエスと答えてくれるだろう。

 この例は極端すぎるが、つまりはそういうことだ。

 99%世界を開拓しても、残りの1%に、非常に興味深い事実が隠されていることを彼らは知らないのだ。


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 アルバイト。学校。アルバイト。学校。アルバイト。アルバイト。学校。

 こう並べてみると、ちょっとだけ小気味良いリズムを感じられる。身体の疲労感が少しだけ癒される。アルバイトを終え、帰宅途中の僕は、下らないことを考えてちょっとだけ微笑んだ。下らないことも、実は大切だ。僕の表情に、笑顔という項目があったことを思い出させてくれる。

 空を見上げてみる。冬の夜空は何故か透き通って見える気がする。星が輝いている。小学校で、オリオン座がどうのこうのと習ったことを思い出した。星を見て思いを馳せても、寒さは和らがないけれども。しかし、明日も頑張ろうという活力が沸いてくる。

 朝、起きられるだろうか。布団の温もりは身近な冬の風物詩だ。僕をそこに縛り付けるという点で。冬は活動することが億劫になる。炬燵より、お鍋より、何より冬を的確に表現している季語だと思う。

 自宅に帰り着く。歩いていたから、少しだけ身体が温かい。一人暮らしだから、夜ご飯を作らなくてはいけないし、部屋干しの洗濯物を片付けなくちゃいけない。母親の偉大さを感じる。ここにきてから感じっぱなしだけど。でも、今日は気分が良いからただいまとだけ呟いてみる。やっぱりくだらないけれども、微笑がもれてしまう。

 そして、聞こえないはずの返事が、お帰りとだけ聞こえた。




 少年が硬直している。まあ、当然のことだろう。勝手知ったる我が家に帰ってきてみると、知らない人がデスクのパソコンに向かって、コーヒーを飲みながらニュースを閲覧しているのだから。人間は想像の及ばない出来事に突如として直面すると、思考がフリーズするように出来ているらしい。

 不法侵入と呼ばれる行為を何度も繰り返してきた私だからわかることではあるが。

「あ、あなたは誰なんですか?」

 少年が問う。問うというよりは、震えた声を何とか絞り出した感じだ。彼はダウンジャケットのポケットに入れていた両手を出した。恐らく私に対して身構えているのだろう。腰が引けているのが少々可愛らしい。

「人に名前を聞くときは、自分から名乗るのが筋だろう? 私は何々と申しますが、から自己紹介を始めたまえ。円滑なコミュニケーションの基本だよ」

「え? あ、そうですね。じゃなくて! 泥棒ですか? それとも僕の両親の知り合いですか? あなたが僕にとっての不審者ということはわかりますよね。早いところ説明をしてください。僕は市民ですから、あなたを警察に通報する義務がある」

 意外とスラスラと物事を喋れるじゃないか。異常事態に直面しておきながら大したものだ。この少年に私は少しだけ興味が沸いた。彼の緊張もわずかに薄らいだようだ。上手く運べば、もうすこしだけこの不思議で間の抜けたお喋りを楽しめるかもしれない。楽しみは多いほうが良い。事に移る前に、興じてみるとしよう。

「その二つの質問には、どちらもノーと答えよう、少年。私は君の名前が知りたいと思う。だから名乗ろう。私はアデレイド・エルフィンストン。出身はイギリスだ。日本は住みよい国だから長年住んでいるよ。流暢なのも理解できるだろう?さあ、次は君の番だよ、少年」

「嘘をつかないでください。あなたは僕の家のコーヒーを無断で飲んでいる。そして、パソコンを使っているから電気を盗んでいることになる。あなたが何を言おうとあなたが泥棒の事実に変わりはありません」

「ケチくさいのだな、少年。対価が必要なら払おうじゃないか。気付いたのだが、君は人に向かって話すとき、目蓋を閉じる癖があるようだ。それは出来るなら今すぐ止めた方が良いと訓告しよう。特に、この会話の場ではね」

「あなたは何だか悪い人では無いような気がします。もし今、この家から立ち去るのであれば、僕は何も見なかった、聞かなかったことにしま・・・・・・ッ!?」

「悪い癖だね。私の言葉を無視して目を閉じたのが反省点だ。是非直したほうが良いだろう」

 どこまで聞こえたのかは量りかねるが、恐らくは何も聞こえてないだろうし、覚えてもいないだろう。失神とはそういうものだ。人間は脆い。少し首を絞めると途端に意識を失ってしまう。それは紅茶を淹れることよりも簡単だ。さて、名前を聞き忘れてしまった。これは私の反省点だ。

 ともあれ、頂きます。


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 目が覚めた。朝の日差しが眩しい。良い天気だ。今日は部屋干しをしないで良いかもしれない。カーテンを閉め忘れて寝ていたことに気付く。もし、覗かれていたら恥ずかしいなと僕は思った。そんなことをして誰が得するのかは全くわからないけれど。

 身体が気だるい。布団の温もりが心地良い。二度寝しようかと思ったけれども、空腹なのと、髪の毛にスタイリング剤が付いたままなのがちょっとだけ気持ち悪い。お風呂もご飯も済ませなかったのか。自分のズボラさにちょっとだけ嫌気が差す。

 でも、昨日は何をしていたのだろう。思い出してみる。アルバイトを終えて、のんびり帰って、帰宅して、ただいま。そしてお帰りの返事・・・?

 ハッと気付いて飛び起きる。

 あれからどうなった。財布を確認する。ズボンの後ろポケットに入ったままだった。お金は無事だ。デスクの引き出しを開け、通帳を探す。無事にあるべきところに収まっていた。金銭に関しては何も盗られていない。

 確か、帰宅すると、デスクでコーヒーを飲みながらパソコンをいじっている女の人がいた。外国人だとか言っていた気がする。綺麗な人だった。違う。そこは重要じゃない。彼女は何が目的だったんだろう。僕は彼女と話していた。確かに話をした。だけど、いつの間にかベッドで寝ていた。

 なら、やっぱり夢を見ていただけなんだろうか。

 釈然としないけれど・・・そういえば、今は何時だろう。ベッドのサイドテーブルに置いてある時計を確認する。

 時間が止まった。その瞬間も時計の針は進んでいるけれども。正確に。僕にとっては冷酷に。つつがなく物事が運んでいれば、一限の授業が開始されて中盤にさしかかり、聴講している生徒がポツリポツリと入眠する時刻であった。

 遅刻だ。やってしまった。まあ、諦めよう。いつも真面目に出ているんだから、一つの授業を休んだところですぐに取り返せる。掘った穴は埋めることが出来るものだ。とりあえずはお風呂に入らなくちゃ。

 悶々とした気分を、頭の片隅に追いやって、僕は一日を始める。

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