ギャルVSお嬢様
(よしきたっ。まずは軽くパンチラかまして、男たちから貰魔力稼いで……!)
と、ヒメカは先ほどのメルリを真似ようと思ったのだが……
――ピシャァアンッ!!
その前に、ヒメカの足元の地面が抉れた。
見ればミコが、賜魔術で植物の蔓を顕現し、鞭のように振るっていた。
「あら、外してしまいました。やはり普段愛用している鞭とは勝手が違いますわね。えいっ」
――ズバシィインッ!!
再び抉れる地面。
おっとり顔と威力がまるで釣り合っていない。
「ちょ、ちょっと! そんなん当たったら死ぬじゃん!!」
「うふふ。大丈夫ですよ、死にはしません。ただ皮膚がくぱぁっと裂けるだけです」
「ぜんぜん大丈夫じゃないんだけど?!」
「はぁん、その反抗的な目……思った通りですわ。正直、何をしても悦ぶだけのオス豚を叩くのにはもう飽き飽きでしたの。あなたのような気の強い女を屈服させる快感……わたくしに味わわせてくださいませ?」
(……やば。このコ、お嬢様じゃない。女王様だ!!)
ヒメカは慄きつつ、必死に距離を取る。
「誰がおとなしくシバかれるかっつーの! つーか、そんなん賜魔術じゃなくて物理攻撃じゃん!!」
「いいえ。生み出した物を使用するのは神律師の正当な戦闘スタイルですわ。でなければ財神科などはやっていけませんもの。そうでしょう? ミカモ先生」
「その通りだ。鞭は最小限の貰魔力消費で最大の殺傷力を発揮する合理的な武器と言えるだろう」
「ミカモ先生、『殺傷力』ってどう書くか知ってる?! 『殺す』に『傷付ける』だよ?! 教師ならフツー止めない?!」
「さぁ、時代遅れなおギャルさん? 逃げ惑うだけの無様なパラパラを、わたくしに披露してくださいませ!」
そう言って、ミコが再び手を振るい始めた。
空気を唸らせながら、ビシバシと放たれる蔓の鞭……
なんとか躱せているが、これでは貰魔力を集める余裕すらない。
「おほほほほっ。今の焦った表情、最っ高ですわ! 次は激痛に歪むお顔を見せて頂戴!!」
(いや、まじモンのドSじゃん! あのリードで繋いだおっさんたちは貰魔力貯めるために飼ってるM男集団だったってワケ?!)
――『キュン』
(うぉいっ! 誰だお嬢様に貰魔力与えたのは! このクラスにもM男がいるな?!)
「ふふっ……意外としぶといですわね。あなた、健神科の方が向いているのではなくって?」
鞭を止めることなく、ミコが笑う。
制限時間が残りどれくらいかはわからないが、ヒメカの体力もギリギリである。
「ここまで楽しませてくれたことは褒めてさしあげます。ですが……そろそろそのマヌケなダンスにも飽きましたわ」
ミコが鞭を止め、手をかざす。
すると、地面から蔓が二本伸び、ヒメカの手足にがっちりと絡み付いた。
「くっ……動けない……っ!」
「これは実戦演習ですのよ? 反撃の一つもしていただかなければ、こちらの練習になりませんわ」
「はぁ?! これじゃ余計に反撃なんてできないじゃん!!」
「賜魔術を駆使すれば、その蔓を解いてわたくしに攻撃を放つことも可能でしょう? その程度の想像力も持ち合わせていないなんて……あなた、神律師に向いていないんじゃなくって?」
――ぐさっ!
ミコの容赦ない口撃が、ヒメカの胸に突き刺さる。
ただでさえ貰魔力0なことを気にしているのに、あんまりである。
「中退するなら早い方がいいですわよ? 今ならわたくしのメス豚一号という就職先を提示してあげられますから」
「誰がなるかっ!」
「そう。なら――」
ミコが手のひらを向ける。
このまま蔓の鞭の餌食となり、皮膚がくぱぁっと裂けてしまうのか?
と、ヒメカは恐怖に震えるが……
「――そのバチバチにキメたギャルメイクを、みなさんの前で落としてさしあげます」
ミコが顕現したのは……水の塊だった。
ごぽぽっ、と音を立て、ヒメカの頭上に集まっている。
てっきり鞭を振るわれると思っていたヒメカは、ぱちくりとまばたきをする。
そして、考える。
(……待って。この水が落下したら、あたしは……あたしのメイクは……)
「い…………いやぁぁああああああああっ!!」
最悪だ。
この令嬢、ギャルが一番嫌がることをわかっている。
「おほほほほほ! その悲鳴、最っ高にキますわっ! さぁ、ぐちょぐちょのドロドロにおなりなさい!」
興奮を露わにしながら、ミコが手を振り下ろす。
その動作に従うように、水が重量を思い出す。
ヒメカは奥歯を噛み締め、目を閉じた。
(くそぅっ……ツバキ様みたいに強くて可愛いギャルになって、人を助けるのが夢だったのに……神律師になることも、ギャルでいることも許されないの……?)
悔しさと情けなさに打ちのめされながら、訪れる絶望を覚悟する――が。
――ジュワァッ!!
その絶望は、訪れなかった。
水が、ヒメカの頭に降りかかる前に、空中で蒸発したから。
同時に、手足を縛り付けていた蔓がブツッと切れた。
顔を上げると、石でできたナイフが目の前に浮遊している。どうやら、これが切ってくれたらしい。
「なっ……何事ですの?!」
異変はそれだけではない。
ミコの周りの足場がキィンッと高い音を立て、一気に凍り付いた。
さらに、その氷の下の地面がゴゴゴッと隆起し、ミコを斜めに持ち上げた。まるで、滑り台のように。
「ちょっ……すすす、滑るぅぅううっ!」
ツルツルな氷の滑り台に立たされたミコは、そのままサークルの外へと降下する。
場外に出ればヒメカの勝ちだが……このままの勢いで滑れば、地面に激突してしまう。
「あぶない……っ!」
ヒメカが思わず叫んだ、直後。
滑り台の着地点に、ぽんっと、白いものが現れた。
それは――雪だるま。
特大サイズの、ふかふかな雪で作られた……見覚えのあるデザインの雪だるまだ。
ミコは悲鳴を上げながら、雪だるまの真ん中に、ぼふっと突っ込んだ。
思った通り、柔らかな雪が受け止めたため、大きな衝撃は受けなかった。
ということは……
「そこまで。勝者、ヒメツカワ」
クラスメイトから、どよめきと拍手が起こる。
みな感心したようにヒメカを見つめているが……当の本人には、何がどうなっているのか、さっぱりわからなかった。
「炎で水を蒸発させながら氷を展開し、さらには石や土、雪をも操るとは……発想と想像の精密さは褒めてやるが、どう見ても貰魔力100は消費しただろ? まったく……まぁ、状況が状況だったし、今回は大目に見てやろう」
ミカモも腰に手を当てながら、ヒメカに言う。
誰も気付いていない。
今の賜魔術が、ヒメカの力ではないことに。
ひとまず、ギャルのメンツとメイクは護られたが……問題は、誰がこれをやってのけたのか、である。
「………………」
ヒメカが目を向けると、視線の先の人物は……前髪に表情を隠したまま、黒ぶち眼鏡をくいっと持ち上げた。




