メガネVSアイドル
ミカモが開始を合図するなり、メルリが先制して手を掲げた。
「いけっ! イタズラな風さんっ!」
すると、強風がぶわっと巻き起こり、リィトに迫る。
ミカモに指定された通りに力を制限しているのか、吹き飛ぶ程の威力ではない。
リィトは眼鏡と前髪を押さえ、少し後退りするに留まった。
しかし……
「……いやぁんっ」
自らが生み出した風を食らい、メルリのスカートが捲れ上がった。
内股になり、手で押さえてはいるが、今にも下着が見えそうだ。
「おぉっ!」
その光景に、クラスの男子らが身を乗り出す。
途端に『キュン』『キュン』鳴りまくるメルリのバイタリスト。
「くっ。この風で動じないなんて、リィトくんなかなかやるわね! なら、お次は……くねくね触手攻撃!」
続いて、メルリの手から数本の蔓が伸びた。
シュルシュルとしなりながら、一直線にリィトを襲う。
が、
「………………」
ぶつかる直前で、リィトはひょいっと避けた。
その反動で、蔓はメルリの方へ戻ってゆき……
「あぁんっ!」
彼女の身体に巻き付いて、きゅっと縛り上げた。
際どいトコロを締め付け、ボディーラインが露わになる。
「おぉぉっ!」
――『キュン』『キュン』『キュン』
盛り上がる男子。
地獄のように冷え切った目で見つめる女子。
「もうっ、えっちな仕返しばっかりして! 許さないんだから! びちょびちょスプラーッシュ!」
もはやツッコミ待ちとしか思えないことを叫びながら、メルリが手をかざす。
直後、バケツをひっくり返したような水がランダムで頭上から降り注いだ。
ヒメカは既に結末を予想し、半眼になる。
「ほらほら! 濡れたら今日一日ダッサいジャージ姿で過ごすことになっちゃうよ?! イヤならサークルの外に逃げて!」
そのメルリのセリフについては、ヒメカも同意だった。
(わかるぅ! ライゼントって制服カワイイのにジャージまじダッサいよね! メルりんとはセンス合うかも!)
などと言ってる間にも、リィトはひらひらと水を回避する。
意外と運動神経はあるようだが、まだ一度も賜魔術を使っていない。
と、そこで。
ヒメカの予想通り、メルリが自ら生み出した水を頭から被った。
「きゃあっ……どうしよ、下着が透けちゃうぅ」
わざとらしく言って、張り付いたブラウスの胸元を隠すメルリ。
最高潮に重なる男子たちの『キュン』の嵐。
膨れ上がる女子たちの苛立ち。
(予定調和だケド、今ならメルりんの手が塞がってるよ! 反撃のチャンスだ、メガネ君!!)
そんなヒメカの応援が通じたのか、リィトはすぐにメルリに向けて駆け出す。
そのまま、手を翻したかと思うと――
――ふぁさ……っ。
リィトは自分のブレザーを脱ぎ、メルリの肩にそっと掛け、
「大丈夫? とりあえずこれで隠して。早く着替えないと風邪引くよ?」
……と、優しい声で言った。
メルリが「へっ?」と目を点にする。
メルリだけではない。ヒメカと、クラスメイトたちも驚いていた。
他の男子はみな、あざとい色仕掛けにキュンキュンと貰魔力を捧げまくっていたのに。
ヒメカも「今がチャンス!」と、反撃を願っていたのに。
リィトは、そのどちらでもなく……メルリの身体を一番に案じた。
(なんなの、もう……メガネ君、めっちゃイイ男じゃん)
――『キュン』
リィトのバイタリストが鳴る。
その音に、メルリはハッとなる。
そして、心配そうに見つめるリィトの胸ぐらを掴み――
「どぉ…………っせい!!」
――ビターンッッ!!
一本。
見事な背負い投げが決まり、リィトはサークルの外に投げ出された。
(……って、けっきょく賜魔術ぜんぜん関係ないやり方で負けてんじゃん!!)
「そこまで。エンジュの勝ちだ」
ミカモが判定を下し、メルリがきゅるんっとアイドルポーズをキメた。
「風、蔓、そして水。どれもよくコントロールできていたな、エンジュ。ただし、貰魔力の収集を性的なアプローチだけに頼ると痛い目を見ることもあるから、そこは気をつけるように」
「はぁーいっ」
「カミナヅキは……まぁ、相手が女子だから遠慮したのか? 愛神科に属する以上、ハニートラップは免れない。女だからと情けをかけると足元を掬われるぞ。覚えておけ」
「……わかりました」
眼鏡の位置を直し、砂埃を払いながら、リィトはヒメカの元に戻って来た。
賜魔術を使わなかったことに、一部のクラスメイトがクスクスと嘲笑を漏らすが……ヒメカは、ニッと笑ってリィトを迎え、
「おつかれ、メガネ君。カッコよかったよ」
汚れた背中をバンッと叩きながら、そう言った。
リィトは驚いたように彼女を見て、「……ありがとう」と返した。
「んじゃ次。誰かやる気のあるヤツはいるかー?」
ミカモが再び挑戦者を募る。と、
「わたくしが参りますわ、ミカモ先生」
一人の生徒が、すぐに手を挙げた。
日本人形を思わせる、小柄な美少女――ミコシバ財閥の令嬢・ミコだ。
「おー、ミコシバ。いいぞ。誰とやりたい?」
ミカモが尋ねると、ミコは姫カットにした黒髪をさらりと靡かせ、
「そこのおギャルの方。わたくしの練習に付き合っていただけませんこと?」
おっとりお淑やかに、そう言った。
(……ん? オギャる??)
と、ヒメカが首を傾げると、
「ヒメツカワさん。指名されてるよ」
「はぁ?! あ、あたし?! むりむりっ! だって……」
貰魔力0だし!!
……というセリフは、口を押さえてなんとか飲み込む。
すると、ミコは「ふふん」と鼻を鳴らし、
「ツバキ理事長をリスペクトするその装い……とても素敵ですわ。あなたの高い志しを、ぜひわたくしに示してくださいませ?」
なんて、皮肉とも取れる言葉を投げかけた。
尊敬するツバキの名を出され、ヒメカは瞳に闘志を燃やす。
ザッと前に踏み出し、ビシィッと指を突き付け、
「もちろんっ! ギャルに不可能とかないから!!」
高らかに、宣言した。
(そうだよ。ここで及び腰になるなんてギャルじゃない! それに、作戦ならある! さっきのメルりんみたいに……戦いながら貰魔力を稼げばいいんじゃん!!)
「よし。では、ミコシバとヒメツカワ。前へ」
ミカモに言われ、二人は光のサークルに入る。そして、
「ルールは先ほどと同じだ。では……はじめ!」
戦いの火蓋が、切られた。




