とっておきの自己紹介
「――あらためて自己紹介する。お前らの担任を務めるミカモ・ナナカマドだ。よろしく」
一限のホームルームが始まり、愛神科一年の担任教師が挨拶をした。
凛とした佇まいとは裏腹に、その見た目はどの生徒よりも幼い。
小さな身長に、大きな瞳。
すとんと真っ直ぐな栗色の長髪。
どこかリスを思わせる、愛らしい女性だ。
「この学院に入学したお前らは全員、神律師――神に認められた特別な魔術師だ。言うまでもないことだが、愛神科の神は『愛の神』。お前らには、愛の力を魔法に変える術を学んでもらう」
ミカモの話を聞き、ヒメカは目を輝かせる。
(愛の力……あらためて言われると、なんかエモっ。あと、ミカモ先生の見た目に反したかっこいい喋り方まじ刺さる! 好きっ!)
――『キュン』
「……こほん。今鳴ったのは、生体観測デバイス――通称バイタリストだ。これによってお前らの魔法使用可能量が可視化される。それでは、配布する」
担任のミカモにより、液晶画面のついた時計のようなリストが生徒に配布される。
愛神科のバンドの色はマゼンタ。ヒメカは自身のピンク髪との相性の良さに高まっているようだ。
「パネルに触れて、正常に動作するか確認してくれ。お前らの身長、体重、体温、脈、血圧から筋肉量に至るまで、すべてリアルタイムに測定される。中でもお前らが注視すべきは――『貰魔力』だ」
配布を終えたミカモが、教壇に戻りながら言う。
「お前ら愛神科の生徒は、主にその貰魔力を消費して魔法を顕現する。つまり、貰魔力の数値が高ければ高いほど、使える魔法の回数や威力が増すということだ」
ミカモは生徒を見回し、左右の手を合わせ、
「そして、その貰魔力とは……他者を胸キュンさせた際に発生する精神エネルギーだ」
合わせた手で、ハートの形を作ってみせた。
その可愛らしさに、ヒメカは思わず胸をときめかせる。
――『キュン』
「……さっきから私に貰魔力を送っている者がいるようだが……このように、他者をときめかせると貰魔力が貯まり、バイタリストから音が鳴る仕組みになっている。貰魔力はお前らの力の要。積極的に集めるよう、日頃から意識しろ。ただし……」
そこで、ミカモが大きな目をスッと細め、
「他者の純情をむやみに弄び、節操なく貰魔力を集めれば、ときめきではなく憎しみを集めることになる。ここに入学した優秀なお前らなら、それがどのような結果を生むか……わかるよな?」
ごくっ……と生徒たちが喉を鳴らす中、ヒメカだけはきょろきょろと周りを見回す。どうやら、わかっていないらしい。
「さぁ、概要は以上だ。今、お前らのリストに表示されているのは、お前らがこれまでの人生で集めた貰魔力の数値だ。例年の平均で言うと千から二千ポイント程度だが……」
早速ヒメカは、液晶に触れ、自らの貰魔力を確認する。
(ふふん。あたしってば最強に可愛いギャルだし? 施設ではみんなに可愛がられてたし? かなりの貰魔力が貯まってるに決まってるっしょ!)
と、自信満々に覗き込んだのだが、そこに表示された数値は……
――[Accord Scale:0]
(……ん? あれっ?! せんせぇっ! あたしのリストぶっ壊れてるかも!!)
思いがけない結果に混乱するヒメカをよそに、ミカモが話を続ける。
「平均より低いからといって落ち込む必要はない。学院ではお前らの貰魔力を効率的に高めるためのプログラムを多く用意している。その一環として、お前らにはバディを組んでもらう」
バディとは、在学中、行動を共にしながら貰魔力を高め合う相棒のことだ。
バディになったことがきっかけで交際をしたり、そのまま結婚する者も珍しくはない。
そのことを知るヒメカは、一体どのような人物とバディを組まされるのか、ドキドキしながらミカモの言葉を待つ。
「ということで……今隣に座っているのがお前らのバディだ。はい、自己紹介タイム、スタート」
……なんて、さらっと放たれたその発表に、ヒメカはきょとんとする。
そして、ギギギ、と首を回し、隣の席見てみる。
そこに座っているのは……男子生徒だ。
目まで隠れるもっさりした前髪に、黒ぶち眼鏡。
キチッと着込んだ制服に、こぢんまりとした猫背……
…………陰っ!!
というオーラが、ヒメカには見えた気がした。
しかし、すぐに気を取り直す。
人を見た目で判断するのはよくない。そう自らに言い聞かせ、彼に向き合うが、
「どうも……リィト・カミナヅキです。よろしく……」
…………暗っ!!
あまりに暗く、小さな声に、ヒメカは唖然とした。
(ってか、みんなが自己紹介し合う声にかき消されて全然聞き取れなかったケド?! ナニくん?! もうメガネ君でいい?!)
……こほん。
気を取り直し、ヒメカは自己紹介を返す。
「やっほー! ヒメカ・ヒメツカワだよ! メッカワ☆ヒメカって覚えてね!」
キュルンッ、とウィンクまでしてみせる。
鏡の前で何度も練習した、とっておきの自己紹介だ。
(ど?! 最強にかわいくない?! これはいきなり貰魔力いただいちゃうかも! さぁっ、鳴って! あたしのバイタリスト!!)
が、掲げた左手からは、
「……………………………………」
……何の音も、鳴りはしなかった。
「自己紹介できたか? んじゃ、早速最初の授業始めんぞー。今からお前らにやってもらうのは――」
ミカモが手元のタブレットに字を書いてく。
それが、教室前方の大きなホワイトボードに投影され……
「――キスの実技演習だ」
信じがたいその単語を、でかでかと映し出した。




