表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ぎゃるめがっ!!!〜ときめきが魔力になる学園で、魔力ゼロなチョロかわギャルとバディになった話〜  作者: 河津田 眞紀@第一回Nola原作大賞早期受賞×2作
6.メガネと彼女

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

19/27

愛の使者




 はっとなって、顔を上げる。


 そこにいたのは――ギャルだった。

 高いヒール。タイトなミニスカート。

 ヘソの出たタンクトップ。

 そして、アッシュブロンドのポニーテール。


 目尻にラメを(きら)めかせながら、ギャルは僕の目を真っ直ぐに見つめる。


「憎しみに飲まれるな! 君が抱いていたのはそんな感情じゃなかったはずだ! 思い出せ、君の本当の気持ちを!!」


 言葉が鼓膜に響く。


 僕の、本当の気持ち……

 思い出そうとするけれど、思考が黒く(かす)んで、ぼやけてしまう。


「チッ……来たわね、お邪魔虫。あと少しでイけそうだったのに」


 ツバメの声がする。

 聞いたことのない、性悪な声だ。


「ツバメ……いい加減にしろ。こんなことをして何になる?」

「決まってるじゃない。アメノ様が支配する素晴らしい世界に変えるのよ。人と人が、傷みで繋がる世界……憎しみの本質を皆が知る、"(あい)"に満ちた世界にね」

「それは間違いだ。"愛"なら既にある。生きとし生けるものすべてに等しく愛を与える神、ニナヨがいる」

「ハッ。何が愛の神よ……五百年前、アメノ様を封印した張本人のクセに!」


 これは一体なんの話だ?

 神? 封印?


「まぁいいわ。(きょう)が削がれたし、リィトの憎しみが育つまで待ってあげる……またね、()()()()()


 そのセリフを最後に、彼女――ツバメは、消えた。


 彼女だけじゃない。白いベッドも、男たちも、真っ暗なその空間ごと、すべて消えた。

 気付けば僕は……あの廃工場に戻っていた。


「……やはり、幻影を映していたのか」


 ギャルが吐き捨てるように言うが、それに反応する余裕が僕にはなかった。

 内臓と脳を黒い虫にじわじわ食われているような不快感に、うずくまることしかできなくなっていたから。


「安心しろ。君のことは必ず助ける。学院へ運び、治療してやるからな」


 そう言って、ギャルは僕を背負い……駆け出した。




 * * * *




 そうして僕は、国立ライゼント学院へ運ばれた。


 賜魔術(アコード)と呼ばれる魔法の処置を受け、心身を蝕む黒い影を排除してもらい……

 医務室のベッドへ寝かされた。



「挨拶が遅れたな。私はツバキ・イナリヅカ。この学院の理事長だ」


 ベッドに横たわる僕に、ギャルが言う。

 ライゼント学院といえば、神に選ばれた者しか通うことのできない魔法学校だ。

 自分には一生縁のない場所だと思っていた。


「リィト・カミナヅキです……助けていただきありがとうございます」

「この状況で礼が言えるとは大したものだ。わけがわからないまま苦しめられただろうに」


 それはそうだ。

 一年記念日だと浮かれていたら、彼女に僕以外の男がいて、絶望に蝕まれて、ギャルが現れて……もうわけがわからない。


「彼女は……ツバメは一体、何者だったんですか? 彼女が口にしていた『アメノ』って……確か、邪神の名ですよね?」


 僕は額を押さえながら、ギャル――ツバキさんに尋ねる。

 ツバキさんは、長いまつ毛に縁取られた目で僕を見つめ……僕が知らない世界の裏側を、語り始めた。


「そうだ。邪神アメノは五百年前、神々によって封じられた邪悪な存在。愛や健康を司る神がいるように、アメノは人間の邪心を司る神……奴は強い憎悪を抱く人間を(そそのか)し、力を与える。そうして奴の信徒となった人間を、我々は邪神徒(フェイスフル)と呼んでいる。ツバメは、邪神徒(フェイスフル)の幹部なんだ」


 ツバメが、邪神の信徒の幹部……

 やはり初めから、僕を騙していたのか。


「邪神の本体は封印されているが、神は実体を持たない思念体だ。奴が残した意識の断片は今も各地に残っており、それが邪神徒(フェイスフル)を生んでいる。邪神の力の源は、ゾウオウラと呼ばれる精神エネルギー。悲しみや憎しみといった、人間の"負の感情"だ。邪神徒(フェイスフル)はこのゾウオウラを集め、アメノの本体を復活させようとしているんだ」

「つまり僕は、そのゾウオウラを回収するためにツバメに騙されていた……というわけですね」

「君にとっては残酷な話になるが、その通りだ。愛情は最もゾウオウラに転じやすい感情……愛が深ければ深い程、裏切られた時の悲しみや憎しみは大きくなる。奴らは純粋で疑うことを知らない若者を騙し、ゾウオウラを回収している。君もその被害者の一人というわけだ」


 すべてを聞かされ、僕は口を閉ざす。


 ……騙されていた。

 ツバメの愛は、本物じゃなかった。


 その事実を、僕は案外冷静に受け止めていた。

 悲しみも絶望も、先ほどよりは感じない。

 排除された黒いオーラと共に、どこかへ消えてしまったのかもしれない。


 だからだろうか。

 辛さよりも今は、空っぽな感じがした。


 心に風穴が空いたような空虚。

 ツバメという存在に彩られていた人生から、色が消えた。

 僕はまた……何者でもなくなってしまった。


「こんな目に遭った直後で気が引けるんだが……君に一つ、提案がある」


 呆然とする僕に、ツバキさんが言う。


神律師(ハーモナイザ)の適性があるかどうか……ニナヨ神の審判を受ける気はないか?」

「僕が、神律師(ハーモナイザ)に……?」

「そう。先ほど、君を蝕むアメノの気を祓った時に判ったんだが……君は通常の人間より、貰魔力(サレチカ)の器が大きいみたいなんだ」


 サレチカって……確か、他者から愛されることで貯まる精神エネルギーのことだよな?


「ニナヨ神に認められた者は、貰魔力(サレチカ)を消費して賜魔術(アコード)を顕現する。君はその力を人より多く蓄えることができる……つまり、より大きな賜魔術(アコード)を扱える可能性があるんだ」

「でも……僕なんかを、愛の神が認めるでしょうか?」


 ……そうだ。

 親を避け、人を避け、傷付かないよう孤独に逃げてきた。

 その結果、偽りの愛に騙され、憎しみに染まった。

 こんな僕を、愛の神が認めるわけがない。


 しかしツバキさんは、俯く僕の肩に触れ、


「大丈夫。君はきっとニナヨに認められる。何故なら……ツバメを本気で愛することができていたのだから」


 真っ直ぐに、そう言った。


 それを聞いた途端、チクリとした痛みが思い出したように胸を刺し……涙が込み上げそうになるのを、僕はぐっと堪えた。


「……わかりました。受けるだけ、受けてみます」


 僕の返答に、ツバキさんは頷いた。






 ――そして、審判の結果。

 僕は、ニナヨ神に認められた。


「おめでとう。これで君は、神律師(ハーモナイザ)となった」


 ツバキさんが、腕時計のようなものを差し出す。


「バイタリストだ。君の貰魔力(サレチカ)が計測・表示される。……見てみろ」


 僕は慣れない手つきでパネルに触れる。

 と、そこに表示された数値は…………


「っ…………」

「……恐らく君は、またツバメに狙われるだろう。その時に備え、私の元で賜魔術(アコード)の訓練を受けるといい」

「……お願いします」

「それから、もう一つ。邪神徒(フェイスフル)との関わりを持ってしまった君に……伝えたいことがある」


 ツバキさんがあらたまった声で言う。

 何か重大なことを告げようとしている雰囲気だ。


 だけど、今さら何を聞いても驚かない自信があった。

 今日一日で、あまりに多くのことが変わってしまったから。


 その意志を、僕は視線で示す。

 ツバキさんは少し目を細めると、


「……このことは、学院内でも一部の者しか知らない極秘事項だ。くれぐれも他言無用で頼む」


 強者の威圧を感じさせる声で、そう忠告した。

 僕は素直に頷き、「わかりました」と答えた。


 


 ――そして。

 僕は、知ることになる。


 この国が隠す、神にまつわる秘密を――



 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ