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ぎゃるめがっ!!!〜ときめきが魔力になる学園で、魔力ゼロなチョロかわギャルとバディになった話〜  作者: 河津田 眞紀@第一回Nola原作大賞受賞×3作
6.メガネと彼女

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白い約束




「――来年の冬、雪が降ったら……一緒に、雪だるま作ろうね」



 そう言って、彼女は笑った。

 百合の花みたいに白く、儚い笑顔で。






 僕の家は、父子家庭だった。

 母親は僕が二歳の時に蒸発。不倫相手と駆け落ちしたらしい。


 父親は真面目な人だったけれど、酒を飲むと豹変した。

 年々母の顔に似る僕を見て、暴言を吐くこともしばしばだった。


 そんな家庭環境を言い訳にすべきではないが、僕は順当に捻じ曲がり、中学はほぼ不登校だった。

 学校に行くふりをしてゲーセンに入り浸り、小遣いがなくなれば適当な屋上緑地で暇を潰す。

 意味もなく生を浪費する日々を送っていた。


 命の秒針が止まるまで、あとどのくらいだろう。

 眠れない夜に響く時計の音ほど不快なものはない。

 僕の人生は、まさにそんな夜に似ていた。


 ……このままきっと、何者にもなれないんだ。

 ヒーローにもヴィランにもなれない。

 愛されないし、愛することもない。

 選ばれないならこっちだって選ばない。

 だから、そっとしておいてくれ。



 なんて、ゲームのモブキャラに自分を重ねていたら――


「――ゲーム、上手だね」


 中二の夏。

 いつものゲーセンで、声をかけられた。


 振り返った先にいたのは、女の人。

 騒音塗れなこの場所にあまりに不相応な、涼やかで綺麗な人だった。


「私、やったことないの。教えてもらってもいいかな?」


 そう言って、僕の領域に容易(たやす)く立ち入る。

 ふわりと甘い、百合の香を振り撒いて。


 彼女の名はツバメ。

 ツバメ・エンビィ。


 その名の通り、渡り鳥のような軽やかさで、曇った僕の人生に舞い込んで来た。






「――付き合ってた人にね、奥さんと子供がいたの」


 初めて入ったホテルの部屋。

 想像よりも殺風景で、派手な壁紙だけが下品に浮いて見えた。


 その趣味の悪い背景を前に、彼女は、白い肌を曝す。


「三年も付き合っていたのに……初めてだって捧げたのに……ずっと私を騙していたの。酷いよね」


 身体が熱い。

 心臓が口から出そうだ。

 これからすることへの不安と、それ以上の期待で。


「男の人って、みんなそうなのかな……散々弄んで、飽きたら捨てるのかな……味がしなくなったガムみたいに」


 そう言って、彼女は僕の頬を撫でる。

 僕らの身体を隔てるものは何もない。


「もう、傷付くのはいや。君はそんなこと……しないよね?」


 その言葉ごと飲み込むように。

 僕は、彼女の唇を……奪った。






 それからは、ひたすらに彼女に溺れた。

 同じものを見て、同じものを食べて、同じ時を過ごした。


 彼女と肌を重ねると、生きていることが許されたような気持ちになれた。

 溺れている間は、呼吸と一緒に現実を忘れられた。


 彼女の存在は花の蜜みたいに甘くて、麻薬みたいに危険で……僕の、ただ一つの救いだった。




「……今年は雪、降らなかったね」


 ベッドの中で、彼女が言う。

 季節は巡り、もうすぐ春になろうとしていた。


「来年の冬、雪が降ったら……一緒に、雪だるま作ろうね」


 そんな何気ない会話にも愛が宿る。


 来年も一緒に。

 そう思ってくれていることが嬉しくて、泣きそうなくらいに切なくて……

 僕は「うん」と答えながら、彼女の身体を抱き締めた。



 けれど――僕たちに、『次の冬』は来なかった。




 * * * *




 彼女と過ごす、二度目の夏。

 僕たちは、もうすぐ付き合って一年の記念日を迎えようとしていた。


『記念日に、とっておきのサプライズを用意してあるの。この場所に来てほしいな』

『きっと忘れられない、特別な日にしてあげる』


 記念日の当日。

 彼女からのメッセージに、僕は胸を躍らせながら、指定された場所へと赴いた。


 バイトもできない中学生の僕には、高価なプレゼントなんて用意できなかった。

 けれど、大切な記念日にどうしても何か贈りたくて……この一年の感謝と想いを伝えたくて。

 花屋で買った一輪の百合の花にリボンをつけて、持って来た。


 高校生になったらバイトをして、もっと良いものを贈るんだ。

 そして、大人になったら……毎年、彼女の欲しいものをなんでも買ってあげよう。


 それにしても、彼女が用意したサプライズって何だろう。

 指定された場所には、一体何があるのだろう。


 僕はスマホで地図を確認しながら、メッセージにある住所へと辿り着いた。

 しかし……


 そこは、何もない廃工場だった。


 もうすぐ日没。

 割れたガラスが、夕焼け色に染まっている。

 くすんだ灰色の壁に、ひぐらしの声が(うるさ)く反響していた。


 ここが、彼女の指定した場所?

 地図を見間違えたのだろうか?

 しかし、住所を見る限り、ここで間違いなさそうだった。


「……ツバメ?」


 割れた窓ガラスから廃工場の中を覗き、彼女を呼んでみる。

 けれど、返事はない。

 代わりに、


「え……?」


 後ろから、別の声がした。



 

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