あやしい撮影会
「数値が、異常?」
聞き返すヒメカに、メルリが頷く。
「普通、一回のときめきでもらえる貰魔力は1ポイントのはずなんだけど……昨日、あなたが私に『キュン』した時に獲得した数値は……」
「……げっ。50?!」
表示されたログを見て、思わず叫ぶ。
たった一回の『キュン』で、通常の五十倍の貰魔力が貯まっていた。
「これ……なんかのバグなんじゃないの?」
「私もそう思ったの。だから、あなたの『キュン』をしょっちゅう受けてるリィト君にも聞こうと思ったのよ。ブレザーも返したかったし」
「あたしも気になる! もしメガネ君も五十倍の貰魔力稼いでるなら超ズルイもんっ! あたしにはぜんぜん『キュン』してくれないクセに! くっそー、明日会ったらソッコー問い詰めてやる!!」
などと意気込んでいると、メルリがあらたまったようにヒメカを見つめて、
「そんなに貰魔力に困ってるなら……外注したらいいんじゃない?」
そう、意味深長なことを言った。
ヒメカは再び首を傾げる。
「えっ、害虫?」
「バディ以外から貰魔力を集めるってことっ。他のみんなもやってるでしょ? 芸能活動や動画配信でファンを作ったり、オス豚を飼ったり……使える賜魔術の幅を広げるには貰魔力を稼がなきゃならないもの」
それから、メルリは周りをキョロキョロと警戒し、声を潜める。
「……実は私、帰る途中じゃなくて、今から貰魔力を稼ぎに行くところだったの」
「えっ、まじ?!」
「シッ、声が大きいわよ! 私、アイドルやってるけど、まだまだマイナーでしょ? だから、もっとファンを増やして有名になるためにいろいろ頑張ってんの。こないだ紹介してもらったお仕事が貰魔力稼ぎに打ってつけでね。よかったらあなたも連れてってあげるわ」
「えー行きたい! それって何するお仕事なの?!」
「撮影会よ」
「……さつえいかい?」
「水着とかコスプレとか、ちょっと際どい衣装を着て、男の人たちに写真撮られるの。謝礼も出るし、運が良ければ業界の偉い人に気に入ってもらえる……何より、サービスすればカメラマンから貰魔力が稼げるわ」
……ヒメカは、考える。
当然、ヒメカには芸能活動の実態などわからない。
だから、あくまで世間一般の感覚で、その案件について審議してみるが……
「…………それ、普通にヤバくない?」
「や、ヤバくないわよ。下積み中のアイドルはみんなやってるんだから!」
「場所は? どこでやんの?」
「この路地の先にある雑居ビルの五階。小さいけど、撮影スタジオがあるらしいの」
いや、絶対怪しいじゃん。
絶対おっさんたちに変なコトされんじゃん。
と、ヒメカは脳内で即座にツッコむ。
「……やめた方がいいよ。メルりん可愛いんだし、ンなことしなくてもファン増えるって」
「わかってないわね。世の中には私なんかより可愛い子や才能のある子がごまんといるの。その中で勝ち上がっていくには、使えるものはぜんぶ使わなきゃ……!」
メルリの身体が、大きな瞳が、震える。
「前回、怖気付いて断っちゃったから……もう後に引けないのよ。ここで行かなきゃ二度とチャンスはもらえない。お願い。私を助けると思って、一緒に来て? あなたギャルだけど、顔もスタイルもいいし、きっと気に入ってもらえる。二人で行けば怖くないから……だから…………っ」
その必死な表情に、ヒメカは戸惑う。
芸能のことはわからない。
アイドルはみな、本当にこういうことをして頑張っているのかもしれない。
だから、明らかに危ないとわかっているが……
頑張ろうとしてるメルリを、応援したい気持ちもあって。
「お願い……あなたも、貰魔力ほしいんでしょ……?」
「メルりん……」
…………いや、やっぱりダメだ。
ヒメカは決意を固めると、メルリの手を掴み、しっかりと言い聞かせる。
「貰魔力はほしいよ。けど、そんな不純なときめきをもらっても、あたしは嬉しくない」
「え……」
「先生も言ってたじゃん。えろいアプローチだけに頼ると痛い目見るって。そういうので得られる貰魔力なんて、たかが知れてんじゃない?」
……そう。
これは、自分自身にも言い聞かせる言葉。
リィトに浅はかなアピールばかりしてきたことを反省する、自戒の言葉。
「あたしは……もっと深いときめきがほしい。えろとか簡単なのじゃなくて、心から『キュン』ってしてもらいたい。アイドルだって、そうでしょ?」
メルリの目が、はっと見開く。
ビー玉みたいな瞳が、うるりと濡れた気がした。
「わ、私…………わたし…………っ」
もう少しでメルリを説得できる。
ヒメカがそう思った……その時。
「――なんだ、ここにいたのか」
横の路地から、声がした。
見れば、柄の悪いスーツ姿の男が、ヒメカたちに近付いて来ていた。




