表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ぎゃるめがっ!!!〜ときめきが魔力になる学園で、魔力ゼロなチョロかわギャルとバディになった話〜  作者: 河津田 眞紀@第一回Nola原作大賞早期受賞×2作
プロローグ

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

1/17

桜色のきみ




 ――はっきり言って、ライゼント学院高校は、頭がおかしい。


 特に、愛神(ニナヨ)科……この春から僕が在籍することになる科は、異常だ。


 他者から得た()()()()を魔法の力に還元するという特性上、恋愛方面の校則が緩いことには頷けるが、デートやキスやその他諸々のテクを授業で扱ったり、男女の寮は自由に行き来できる上、泊まりまでオッケーだったりと、とにかく倫理感が終わっている。


 確かに、愛神(ニナヨ)科に在籍する生徒とっては、他者をときめかせることこそがすべてだ。

 だって、その精神エネルギーが自分の魔法の強さに直結するのだから。


 でも、ときめきを得る方法は、きちんと考えなければならない。

 でなければ、悪い大人たちに利用されかねないから。


(……ちょうど、今みたいにね)



 第2ヨコハマ新都市。

 海を臨む港街。ガラス張りの近代的なビルと、その上に連なる屋上緑地が美しい、ニッポン(こく)の首都だ。


 その屋上緑地の一画に今、僕はいる。

 四月。今日の入学式に合わせたかのように、桜が満開だ。


 春に霞む青空に、ハート型の花びらが舞い上がる。

 それを仰いでから、僕は眼下に目を()る。

 ビルとビルの隙間……暗く狭い路地に、一人の男が立っていた。


 理事長のツバキさん曰く、あれはライゼント学院の生徒を狙うナンパ男らしい。

 この辺りの道は入り組んでいて迷いやすい。新入生の女子に道案内と称して声をかけ、関係を迫る(やから)が毎年現れるのだそうだ。


 賢いやり方だとは思う。

 愛神(ニナヨ)科の新入生は、優秀な魔術師――神律師(ハーモナイザ)になるため、少しでも多くのときめきを集めたいはず。

 つまり、後腐れなくいい思いができるという点では、互いの利害が一致するのだ。


 だが、そこから思わぬ事件に巻き込まれる可能性もある。

 相手を見極める力が鍛えられていない新入生ならなおさら。

 だから理事長のツバキさんは僕を遣わし、ナンパ男の魔の手から新入生を護るよう指示したのだ。


(……って、いちおう僕も新入生なんだけどな)


 今のところ、この辺りに迷い込む新入生はおらず、ナンパ男の餌食になる者はまだいない。

 このまま何事もなく登校時間を終え、入学式を迎えられればいいが……


 ……なんて考えた、その時。


「――っしゃ! 近道はっけん!!」


 そんな元気な声が、ナンパ男のいる路地に響いた。


 現れたのは、ライゼント学院の制服を着た女子生徒だ。

 電動エアスケーター……モーター付きタイヤを内蔵したスニーカーを滑らせ、風のように駆けて来る。


 激しく(なび)くピンク色のミディアムヘア。

 左サイドに一箇所だけ、金色のメッシュが入っている。

 よく見ると、制服が所々おかしい。

 ブレザーにはゴテゴテしたボタンやバッジが散りばめられ、中のブラウスも裾を結んでヘソ出しスタイルにしている。

 スカートも異様に短く、ダメージ加工されたり、柄の違う布が縫い付けられたりしている。


 極め付けは、メイク。

 バサバサのまつ毛に、猫を思わせるアッシュグレーのカラコン。艶々のリップ。

 遠目でもわかるくらいにバッチリ決まっている。


 ……端的に言おう。ギャルだ。

 まごうことなきギャルが、今まさに、ナンパ男の背後に迫っていた。


 そして……僕は、そのギャルに見覚えがあった。

 理事長から聞いていた、僕のバディになる女子生徒――ヒメカ・ヒメツカワだ。


 ヒメカは入学式に急いでいるのか、エアスケーターで一心不乱に駆けている。

 路地の暗さと、少しのカーブで先が見えなかったのだろう。ナンパ男の背中に気付いた時には、もう遅かった。


「……! やばっ!」

「へっ? うわ……っ!」


 ――ドンッ。


 鈍い音を立て、ヒメカとナンパ男がぶつかる。

 直前で急ブレーキをかけたのか、そこまで派手な衝突にはならなかったものの、二人とも地面に尻もちをついた。


「いったたたぁ……ごめーん、おにいさん! 大丈夫?」


 謝りながら立ち上がり、手を差し出すヒメカ。

 ナンパ男は痛そうな素振りを見せつつ、笑みを滲ませていた。


 しめしめ。狙い通り、ライゼント学院の女子生徒……それも、道に慣れていない新入生が飛び込んで来た。

 そんな表情だ。


「ああ、俺は大丈夫だ…………って?!」


 しかし、ヒメカの顔を見た途端、ナンパ男の表情が一変した。

 サーッと血の気が引き、小刻みに震えながら、


「ぎゃ、ぎゃぎゃぎゃ、ギャルッ……!」


 再び、地面にへたり込んだ。


 ……まぁ、もっともな反応だとは思う。

 その昔、ライゼント学院のギャルと言えば、男から手当たり次第にときめきを搾り取りまくる『制服を着た肉食獣』とまで呼ばれていたのだから。


 しかしヒメカは、笑いながら手をパタパタ振り、


「ちょ、そんな反応されるとあたしがオバケみたいじゃーん。おにーさんおもしろーい」

「く、来るな……! 『貰魔力(サレチカ)』搾り取られて、人生狂わされる……ッ!」

「そんなコトしないしぃ。それより、あたし道に迷ったっぽいんだよね。おにーさん、ライゼント学院まで連れてってくんない?」


 なんて、狙っていたはずの展開が訪れるも、ナンパ男は完全にビビり倒していて、それどころではない。


「いやっ、来るな……! 誰か、助けて……!!」


 などと言い出す始末。

 これじゃあ、どちらが悪者なのかわかりはしない。


 ……仕方がない。

 拗れる前に、場を収めるとしよう。


 僕は、魔法――賜魔術(アコード)と呼ばれる力を駆使し、植物の蔓を顕現する。

 そして、それを屋上緑地の柵に巻き付けると、もう一端を掴み、路地へと飛び降りた。


 シュルシュルとしなりながら、伸びゆく蔓。

 その収縮をコントロールし、僕はナンパ男とヒメカの間に降り立った。


「――そこまでだ」


 ヒメカに背を向け、顔を隠しながら、僕は言う。

 彼女をはじめとする同級生に、まだ素顔を知られる訳にはいかない。

 僕が()()を誓う敵の勢力は、どこに潜んでいるかわからないから。


「お兄さん。このギャルは僕が引き留める。今のうちに逃げて」

「え……?」

「この辺りはギャルの縄張りだ。怖い目に遭いたくなかったら、もう来ない方がいいよ」


 ヒメカを悪役にするのは申し訳ないが、このナンパ男を牽制するにはちょうど良い口実だった。

 今どきギャルなんてほとんど絶滅危惧種だから、少し考えればバレそうな嘘だったけれど、ナンパ男は素直に頷いて、


「あ、ありがとう……恩に着るよ!」


 そう言って、逃げるようにその場を去った。

 これでもうナンパ目的の待ち伏せはしないだろう。


 さて。図らずもヒメカを悪役に見立ててしまったわけだけれど。

 振り返る訳にもいかないため、いま彼女がどんな顔をしているのかは確認できない。


 ちょっと! ヒトをバケモノみたいに扱うなんて、ヒドくない?!


 そんな罵声を浴びせられることを予想していたのだが……

 ヒメカは、僕の方に一歩近づき、


「わぁ……今のって賜魔術(アコード)だよね?! やばーっ! しかも、あたしと同じ愛神(ニナヨ)科の力? ねね、先パイ何年生?」


 なんて、興奮気味に尋ねてきた。


 どうやら、自分が悪者にされたことよりも、僕が使った魔法の方に気を取られているらしい。

 しかも、勝手に僕を上級生だと思い込んでいる様子。何から何まで好都合だ。


 僕は背を向けたまま、路地の向こうを指さし、


「……ライゼント学院はあっちだよ。入学式に遅れたくなかったら、急いだ方がいい」

「はっ。そうだった! ありがと、先パイ!」


 ヒメカが答えるのを聞き届けると、僕は再び蔓を顕現し、壁を蹴りながら屋上緑地へと駆け上がった。

 想定とはだいぶ違う展開になったけれど、とりあえず任務完了だ。僕もそろそろ、入学式へ向かうとしよう。


 ……と、屋上緑地に舞い戻った、瞬間。


 ――『キュン』


 僕の左手首にあるデバイス――バイタリストが、電子音を鳴らした。

 これは、『貰魔力(サレチカ)』と呼ばれる精神エネルギーがチャージされた音。


 つまり……今この瞬間、()()が僕にときめいたのだ。

 と言っても、タイミング的に心当たりは一人だけだけれど。


 僕は、桜の陰から真下の路地をそっと見下ろす。

 すると、胸に手を当てたヒメカが、僕の行方を追うようにこちらを見上げていた。


 その姿に、僕は目を細める。


(……ギャルのくせに、こんな簡単にときめくなんて。先が思いやられるなぁ)


 そう思う一方で、彼女が羨ましくもあった。


 だって、僕はもう……

 誰かにときめくことなんて、一生ないから。


「………………」


 ビル風に舞い上がる桜と、揺れるピンクの髪。

 それをもう一度だけ目に映すと、僕は眼鏡をかけ……

 高台に(そび)えるライゼント学院へと急いだ。



 

ということで、新連載スタートです。

毎日更新するので、ぜひブックマークをお願いします。

評価(下部★印)やリアクション、感想いただけると震えるほど喜びます。よかったらお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
なろうではお久しぶりです。 ブックマークはしていたのですが、ようやく読み始めましたのでご挨拶です。 あらすじ読んだかぎりではまるきり異世界かと思ったんですが、近未来SF的な日本なのですね。 他者から得…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ