Scene14「世界代表会議」
オルビス・ハーモニア。
世界観光協会中央議場。
◇
巨大円卓には、各文明の代表が並んでいた。
国家元首。
文化代表。
交易同盟長。
教育機関代表。
旅人連盟代表。
文明史上、初めて――
すべての文明が、同じ議場に集まっていた。
◇
議題は、未来。
◇
「霊脈共同管理制度の詳細調整を――」
「文化教育交流の予算配分を再検討すべきだ」
「観光安全基準の国際統一案について――」
◇
議論は、慎重に進んでいた。
それぞれの文明が、大切にしてきた価値がある。
だからこそ、発言は重い。
◇
空気には、まだわずかな緊張が残っていた。
◇
リリアナは、その様子を静かに見ていた。
◇
(文明が繋がる瞬間は)
(いつだって――少しだけ、怖い)
◇
円卓中央の記録結晶が、ゆっくりと回転している。
議論は正しい。
理論も整っている。
だが――
どこか、硬い。
◇
リリアナは、ふっと息を吐いた。
そして、穏やかな声で言った。
◇
「では――」
◇
議場が静まる。
◇
「まず」
◇
彼女は、いつもの調子で続けた。
◇
「宿ランキング共有しましょう」
◇
沈黙。
◇
完全な。
見事なまでの沈黙が、議場を包んだ。
◇
数秒。
◇
さらに数秒。
◇
霊脈結晶の回転音だけが、小さく響く。
◇
ザハルが、額を押さえた。
「……出たな」
◇
フィオが、肩を震わせる。
「最終議題それ?」
◇
ミルカは、困惑しながらも首を傾げる。
「宿……ですか?」
◇
各国代表が、顔を見合わせる。
◇
その時。
海洋都市代表が、静かに手を挙げた。
「……詳細を聞きたい」
◇
リリアナは、微笑んだ。
◇
「宿は文化の交差点です」
「旅人は、宿で文化を学びます」
「宿の評価は――」
彼女は指を一本立てる。
「安全」
二本目。
「文化交流」
三本目。
「地域文化保存」
そして。
「旅人同士の対話環境」
◇
議場の空気が、少し変わる。
◇
天空連盟代表が、身を乗り出す。
「それは……文化交流指数として活用できるのでは?」
◇
砂商連合代表が頷く。
「宿評価は交易信頼度にも直結する」
◇
教育連盟代表が記録を取り始める。
「文化教育施設との連携評価も可能だ」
◇
霊脈国家代表が腕を組む。
「地方宿の文化保護指標として有効かもしれない」
◇
議論が――
動き出した。
◇
しかも。
先ほどまでとは違う空気で。
◇
「宿交流ネットワークを国際文化保護制度に組み込める」
「文化巡礼ルートとの連携も可能だ」
「宿帳データは歴史資料として価値がある」
◇
議場に、柔らかな活気が広がる。
◇
エルナが、小さく笑う。
「流れ……軽くなった」
◇
ザハルが苦笑する。
「世界政治を、宿から動かす奴がいるとはな」
◇
フィオが笑いながら言う。
「でも……らしいよ」
◇
ミルカは、静かに呟く。
「地方宿も……守られるんですね」
◇
リリアナは、議論の広がりを見つめていた。
◇
(文化は――)
(難しい理論だけでは繋がらない)
◇
(人が休み)
(語り)
(食べ)
(出会う場所から)
◇
(文明は、少しずつ繋がっていく)
◇
円卓の上では、すでに新しい制度案が形を作り始めていた。
国際宿文化保護条約。
旅人交流評価制度。
文化宿教育連携網。
◇
世界は、また少し――
優しく動き出していた。
◇
会議場の大窓の外。
文化回廊を、旅人たちが歩いている。
空域航路を、飛行艇が滑る。
霊脈光が、静かに脈動する。
◇
リリアナは、その景色を見つめた。
◇
そして、小さく呟いた。
「やっぱり」
◇
「旅は――」
◇
「世界を、やわらかくしますね」
◇
その言葉に。
誰も否定しなかった。




