Scene12「世界観光協会成立」
オルビス・ハーモニア中央広場。
世界中の代表と旅人が集まっていた。
霊脈塔と飛行港が交差するその場所は、かつてないほどの人波で埋め尽くされている。
空には、無数の航路光が走っていた。
街道航路。
飛行航路。
海上航路。
霊脈転移航路。
それらすべてが、この都市へ収束していた。
◇
広場中央。
巨大な紋章旗柱がそびえていた。
まだ何も描かれていない白銀の旗。
それが、世界観光協会の象徴になる旗だった。
◇
議長が静かに宣言する。
「本日――」
「文明交流史に、新たな章が刻まれる」
◇
上空に、霊導投影が展開される。
各文明の紋章が浮かび上がった。
砂商連合。
天空連盟。
霊脈国家。
街道交易同盟。
地方文化連盟。
海洋航路連合。
さらに。
巡礼団。
宿連盟。
旅人ギルド。
◇
それぞれの紋章が、ゆっくりと動き始める。
互いに距離を保ちながら、円環を描く。
衝突することなく。
吸収することなく。
ただ――繋がる形で。
◇
紋章たちは、白銀旗の中心へ収束していく。
そして。
静かに刻まれた。
◇
完成した統合旗は、単一の紋章ではなかった。
無数の文明が環を作り、中央に旅路の道標が刻まれている。
それは――
文明が交わることを示す旗だった。
◇
旗が掲揚される。
ゆっくりと。
空へ。
◇
その瞬間。
世界中の航路光が、一斉に脈動した。
◇
霊脈塔が淡く輝く。
飛行港の航路が拡張される。
海上灯台が同期する。
街道霊灯が、次々と灯る。
◇
霊導通信が世界へ流れた。
「世界観光協会――正式成立」
歓声が、広場を満たす。
◇
その直後。
世界各地で変化が始まった。
■文化交流航路解放
砂漠キャラヴァーンでは、新航路標識が設置されていた。
天空都市ラピュルでは、教育飛行航路が拡張される。
街道宿では、国際宿登録紋章が掲げられる。
海洋都市では、文化巡航航路が開通した。
■旅人自由移動権成立
国境検問所。
旅人登録紋章を掲げた巡礼団が、静かに通過する。
兵士が敬礼する。
「文化交流航路――通行許可」
巡礼団が涙ぐむ。
交易商が笑う。
旅芸人が楽器を鳴らす。
■文明宿連盟設立
三叉の鶴亭。
宿女将ミラが、新しい看板を掲げる。
「文明宿連盟加盟宿」
宿帳の最初のページには、新たな誓約が記されていた。
『宿は文化の交差点である』
旅人たちが、その文字を静かに撫でる。
◇
広場に戻る。
◇
統合旗が風に揺れていた。
リリアナは、それを見上げていた。
エルナが隣で、小さく息を吐く。
「流れ……全部、繋がった」
◇
ザハルが腕を組む。
「これで文化交易は、守られる」
◇
フィオが空を見上げる。
「自由飛行が、世界規模になったね」
◇
ミルカは、涙を拭う。
「地方文化も……消えません」
◇
リリアナは、静かに微笑んだ。
(旅は……)
(制度になった)
◇
だが、それでも。
彼女の胸には、変わらない感覚が残っていた。
(旅は、本来――)
彼女は空を見上げる。
統合旗の向こうには、まだ見ぬ航路が広がっている。
◇
彼女は小さく呟いた。
「旅は、終わらない」
◇
風が旗を大きく揺らした。
文明が。
静かに、呼吸を始めていた。




