Scene11「世界観光協会設立会議」
オルビス・ハーモニア――
世界統合議事円殿。
巨大な円形会議場は、かつて見たどの会議場よりも広かった。
だが、その空間はただ大きいだけではない。
天井には世界各文明の象徴紋様が浮かび、壁面には各地の街道図、航路図、文化記録が刻まれている。
それは、歴史そのものが議場になったような空間だった。
◇
円卓席には、世界の代表が座っていた。
国家代表。
文化保存連盟。
交易同盟。
空域連盟。
霊脈管制機構。
そして――
旅人代表席。
◇
その席に、リリアナは座っていた。
隣には、エルナ。
ザハル。
フィオ。
ミルカ。
彼女の旅を形作ってきた仲間たち。
◇
議長が静かに宣言する。
「これより――」
「世界観光協会設立会議を開幕する」
◇
霊導投影盤に、議題が展開された。
世界観光統合構想。
◇
だが、沈黙が支配していた。
誰もが理解している。
これは制度設計ではない。
文明の未来を決める議論だと。
◇
霊脈国家代表が口を開いた。
「霊脈交通を共同管理すれば、国家主権の境界が曖昧になる」
◇
天空連盟代表が続く。
「自由飛行文化が統制される危険もある」
◇
地方文化連盟代表が言う。
「統合は、文化吸収を招きかねない」
◇
議場の空気が、再び緊張する。
◇
その時。
議長が視線を向けた。
「旅人代表――意見を求める」
◇
リリアナが立ち上がった。
世界中の視線が集まる。
◇
彼女は、ゆっくりと議場を見渡した。
砂漠の代表。
空域の操縦士。
街道巡礼団。
霊脈技術官。
農業都市の文化守護者。
その全員が、文明の一部だった。
◇
「私は――」
彼女は静かに言葉を選ぶ。
「旅をしてきました」
◇
「街道で文化が育つのを見ました」
「砂漠で価値が環境で変わるのを学びました」
「空で自由と秩序がぶつかるのを知りました」
「霊脈が文明の血流だと理解しました」
◇
議場が、静まり返る。
◇
「だから私は提案します」
◇
投影盤に、新しい協定案が展開された。
■世界観光協定 草案
✔ 文化相互尊重条約
✔ 観光交流教育制度
✔ 文明宿ネットワーク
✔ 霊脈交通共同管理
✔ 旅人国際登録制度
ざわめきが広がる。
◇
霊脈代表が問う。
「旅人登録制度とは?」
◇
リリアナは答える。
「旅人は文明の橋渡し役です」
「国境を越えて文化を運ぶ存在として、正式に保護・支援する制度です」
◇
天空連盟代表が言う。
「文明宿ネットワークとは?」
◇
「各文明宿を交流拠点として繋ぎます」
「宿は、文化記録と理解の交差点です」
◇
ミルカが小さく頷いた。
街道宿文化が、世界制度になる瞬間だった。
◇
地方文化連盟代表が慎重に尋ねる。
「統合は……文化を均質化しないか?」
◇
リリアナは、ゆっくり首を振る。
「統合は、同一化ではありません」
◇
そして。
静かに、言った。
「文明は――」
「人が歩ける形で残されるべきです」
その言葉は、議場の天井へと昇り、静かに広がった。
◇
「閉ざされた文明は、記録になります」
「交流する文明は、生き続けます」
◇
誰も、すぐには言葉を返せなかった。
◇
やがて。
砂商連合代表が立ち上がる。
「交易は、人の移動で成立する」
「私は賛成する」
◇
天空連盟代表が続く。
「自由飛行文化も、交流があってこそ進化する」
◇
地方文化連盟代表が、静かに頷く。
「文化が守られるなら……我々も参加する」
◇
霊脈国家代表が、ゆっくりと息を吐いた。
「文明交通は、国家のものではない」
「世界の循環装置だ」
◇
議長が立ち上がる。
「本協定案について、採決を行う」
◇
各代表が、承認紋章を掲げる。
光が一つ、また一つと灯る。
◇
そして――
円卓全周が、黄金に輝いた。
◇
議長が宣言する。
「満場一致により――」
「世界観光協会設立を承認する」
◇
会議場に、静かな拍手が広がる。
歓声ではない。
未来を託す音だった。
◇
エルナが、小さく囁く。
「……流れ、できたね」
◇
リリアナは、ゆっくりと頷いた。
◇
文明は、今。
旅によって繋がった。




