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悪役令嬢リリアナ断罪されたので旅に出ます 『悪役令嬢観光録』 ―文化を巡り、文明を繋ぐ旅―  作者: 南蛇井


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Scene5「文化交流網実験」

 オルビス・ハーモニア中央交通管理塔。


 巨大な霊脈投影盤の前で、各国代表が円形に並んでいた。


「本計画は――」


 統合準備局技術官が説明を続ける。


「世界霊脈統合前段階として実施する」


 空間図が変化する。


 世界を横断する巨大な霊脈網ではなく。


 小さく、繊細な線がいくつも浮かび上がる。


「小規模文化交流航路実験」


 議場に静かなざわめきが広がる。


「対象は三文明圏」


 光点が三箇所で輝いた。


・砂漠交易圏

・天空商業圏

・街道宿文化圏


「物流優先ではありません」


 技術官は続けた。


「文化交流優先航路です」


 リリアナが小さく頷く。


 彼女の提案を元に再設計された計画だった。


「目的は、文化相互循環による経済・社会効果の検証」


 地方連盟席で、ミルカが真剣な表情で投影を見つめていた。


 そして――


 実験は、静かに開始された。


 砂漠国家キャラヴァーン交易港。


 灼熱の太陽の下、砂風がゆるやかに吹いている。


 交易民たちが、珍しく港広場に集まっていた。


「来るらしいぞ」


「天空商人だと?」


「本当に降りてくるのか?」


 その時だった。


 空に、小さな影が現れる。


 やがてそれは、優雅な弧を描きながら降下した。


 軽量魔導飛行艇。


 船体に描かれているのは、天空連盟商業組合の紋章だった。


 着陸脚が砂地に触れる。


 周囲からどよめきが起こる。


 扉が開く。


 降りてきたのは、空色の軽装を纏った商人たちだった。


「……暑いな」


 ひとりが苦笑する。


 それに対し、砂漠交易民の隊商長が腕を組む。


「歓迎する」


 短く、しかし誇り高い声だった。


「天空の客人よ」


 天空商人が一礼する。


「水契約の儀礼を教えていただきたい」


 その言葉に、交易民たちが驚いたように顔を見合わせる。


「商品を売りに来たのではないのか?」


「違います」


 天空商人は静かに答える。


「文化を学びに来ました」


 沈黙。


 やがて、交易民の老人が笑った。


「……面白い旅人だ」


 彼は水袋を掲げる。


「ならば、まずは契約だ」


 黄金色の水が、陽光を反射する。


 一方。


 天空都市ラピュル下層商業空域。


 浮遊市場に、異質な影が歩いていた。


 砂色の外套。


 乾いた革の装備。


 砂漠交易民たちだった。


「……空が近すぎる」


「落ちたら終わりだな」


 護衛責任者ザハルが、静かに笑う。


「だからこそ、この文化は成立している」


 彼らを迎えたのは、天空宿組合の案内人だった。


「本日は、空中宿泊文化体験ツアーです」


 交易民たちが顔を見合わせる。


「宿泊が……文化なのか?」


「ええ」


 案内人は誇らしげに言った。


「空では、宿が命を守ります」


 彼らは浮遊宿へ案内される。


 透明床から広がる雲海。


 風制御結界の微かな振動。


 空間安定装置の柔らかな光。


 交易民のひとりが、思わず呟く。


「……砂嵐避難幕に似ている」


 案内人が目を輝かせる。


「本当ですか?」


 会話が生まれる。


 技術比較が始まる。


 文化が――交わり始めていた。


 そして。


 街道都市フォルド宿場圏。


 長年、交易衰退により客足が減っていた古宿。


 だが、その日。


 玄関前には見慣れない客列ができていた。


「天空商人三名、砂漠隊商二名、霊脈研究員一名……」


 宿主が帳簿を見て呟く。


「……なんだこの組み合わせは」


 リリアナが微笑む。


「文化交流航路の効果です」


 宿主は半信半疑の表情を浮かべる。


 だが、その夜。


 食堂では奇妙な光景が広がっていた。


 砂漠香辛料を使った天空料理。


 空中乾燥保存法を応用した街道保存食。


 旅歌文化が混ざり合い、新しい旋律が生まれていた。


 宿主が、ぽつりと言う。


「……昔の街道みたいだ」


 リリアナが静かに振り返る。


「昔は、こんな宿だったんですか?」


「ああ」


 宿主は遠くを見る。


「文化が通る宿だった」


 彼は小さく笑う。


「久しぶりだな」


 数週間後。


 オルビス中央評価会議。


 実験結果が投影される。


「文化交流航路試験結果」


 数値が並ぶ。


・地方宿泊稼働率上昇

・交易副収入増加

・文化体験参加率上昇

・交流後再訪率増加


 そして。


「文化継続率指標――改善確認」


 議場がざわめく。


 経済代表が驚いた声を上げる。


「物流優先航路よりも、文化航路の方が地域収益が安定している……?」


 技術官が頷く。


「文化交流は、長期経済循環を生みます」


 ミルカが、ゆっくり立ち上がる。


「……本当に」


 彼女は震える声で言う。


「小さな文化も、残りますか?」


 リリアナは静かに答える。


「文化が見られる場所が増えれば」


 彼女は続けた。


「文化は消えません」


 ミルカの目に涙が浮かぶ。


「……グラナの祭りにも」


「旅人が来ますか?」


 リリアナは優しく微笑む。


「旅人は、面白い場所に必ず行きます」


 議場の空気が柔らぐ。


 統合反対派の表情が、わずかに変わる。


 それは賛成ではない。


 だが――


 可能性を見た顔だった。


 会議終了後。


 リリアナは霊脈投影を見上げる。


 世界に浮かぶ、無数の小さな航路。


 物流ではない。


 文化の流れ。


 エルナが隣で静かに呟く。


「流れ……優しくなってる」


 リリアナは微笑む。


「文化は、強い流れじゃなくてもいい」


 彼女は静かに言う。


「繋がっていれば、生きていけるから」


 霊脈の光が、ゆっくりと世界を巡っていた。

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