表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悪役令嬢リリアナ断罪されたので旅に出ます 『悪役令嬢観光録』 ―文化を巡り、文明を繋ぐ旅―  作者: 南蛇井


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

8/43

Scene7 「断罪会場暴走」

大講堂は、依然として重苦しい空気に包まれていた。


 断罪という儀式が完了したことで、誰もが「終わった」と理解している。


 社交界からの永久追放。

 貴族籍剥奪。

 辺境送り。


 それは通常、人生の終焉を意味する。


 だからこそ――


 中央に立つリリエル・フォン・アルシェンドの様子は、あまりにも異質だった。


 彼女は、静かに立っている。


 涙もない。

 震えもない。

 崩れ落ちる様子もない。


 ただ――


 ほんの少しだけ、考え込むように視線を斜め上へ向けていた。


 京子の脳内では、すでに別の作業が始まっている。


 (王都から辺境領まで……街道整備状況を考えると)


 講堂の床模様を見つめながら、思考を組み立てる。


 (馬車で三日……いや、四日かも)


 王都近郊は舗装状態が良い。

 だが、地方に入れば道幅も狭くなるはずだ。


 (途中宿場町が二つ……三つ?

  治安状況によっては夜間移動なし……)


 真剣だった。


 完全に業務顔だった。


 王太子が眉をひそめる。


「……なぜ動揺しない」


 その声には、明確な困惑が混じっていた。


 リリエルは、静かに首を傾げる。


「動揺、ですか?」


 京子は内心で計算を続ける。


 (護衛付き移送なら安全度高い)

 (荷物制限……どの程度だろう)


 王太子は苛立ちを隠せない。


「貴女はすべてを失ったのだぞ」


 その言葉に、講堂の空気がさらに沈む。


 だが――


 リリエルは、ほんの少しだけ考える仕草をした。


 そして。


「移送条件の詳細を確認してもよろしいでしょうか」


 会場が、微妙にざわめく。


 王太子の眉間がさらに深くなる。


「……何を確認するつもりだ」


「所持品制限です」


 あまりにも淡々とした回答だった。


 京子の思考は止まらない。


 (衣類は防寒優先)

 (記録帳は絶対必要)

 (地方食文化調査用に携帯保存容器が欲しい)


 聖女ミリアが、小声で隣の侍女に囁いた。


「……精神的衝撃で現実認識が崩れているのでは」


 侍女も小さく頷く。


「その可能性はございます……」


 その評価を知らず、京子はさらに思考を進める。


 (辺境宿は高級宿より庶民宿の方が文化観察向き)

 (価格帯は……王都基準の三割?)


 ふと、視線を上げる。


 講堂の高い天井。


 ステンドグラスの光が、床に色を落としている。


 京子は、ほんの少しだけ感心する。


 (採光設計が優秀……式典施設として完成度高い)


 それを表情に出さず、静かに頷く。


 王太子が、思わず問いかけた。


「……本当に理解しているのか。貴女は追放されるのだ」


 リリエルは、穏やかな声で答える。


「はい、理解しております」


 そして、わずかに間を置いて。


「移動日数が確定すれば、現地到着時刻も予測できますので」


 完全に。


 論点がずれていた。


 数名の貴族生徒が、思わず肩を震わせる。


 笑ってはいけない空気だと分かっている。

 だが、どうしても耐えきれない。


 京子は気付かない。


 思考はさらに先へ進む。


 (交通手段は馬車固定かな)

 (霊脈輸送路が地方まで通っている可能性……低そう)

 (もし途中中継都市があれば観光価値高い)


 真剣だった。


 この上なく真面目だった。


 だからこそ――


 滑稽だった。


 聖女ミリアが、恐る恐る声をかける。


「……あなた、大丈夫?」


 リリエルは、やわらかく微笑んだ。


「ええ、とても」


 その笑顔には、焦りも絶望もない。


 ただ。


 これから始まる未知への期待だけが、静かに灯っていた。


 講堂の誰もが理解できない。


 だが、確かにそこにあった。


 破滅の宣告を受けた令嬢は――


 すでに旅程表を組み始めていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ