Scene13「黒幕摘発」
万国観光都市リベル――中央監察庁舎。
外交会議から、わずか半日後。
都市全体が、静かな緊張に包まれていた。
◇
監察局中央調査室。
巨大な霊導投影盤の前に、各国代表、監察局幹部、そして特務官カルディオンが集められていた。
室内は異様なほど静かだった。
◇
その中央に立つのは――
リリアナ。
◇
「本日は、観光格付け制度に関する調査結果を提出します」
彼女は落ち着いた声で言った。
研究発表にも似た、穏やかな調子だった。
◇
カルディオンが腕を組む。
「……興味深い」
「では、その“研究成果”を拝見しよう」
◇
リリアナは霊導盤に手を触れる。
空間に、複数の記録映像と文書が展開された。
◇
「まず――霊脈交通操作記録です」
◇
表示されたのは、世界各国の霊脈交通優先権ログ。
赤いラインが、特定国家と特定都市へ集中している。
◇
「観光格付け上位国家ほど、霊脈交通優先度が上昇しています」
「逆に、格付け下位国家は――」
画面が切り替わる。
交通遮断、転移遅延、供給制限の履歴が次々に表示された。
「観光動線が、意図的に縮小されています」
◇
各国代表がざわめく。
◇
「続いて――文化評価操作文書です」
◇
新たな文書が浮かぶ。
監察局内部連絡記録。
観光格付け審査基準の改訂履歴。
◇
リリアナが淡々と説明する。
「評価項目は、本来文化多様性を測定する指標でした」
「しかし途中から――」
表示された改訂履歴が、赤く点灯する。
「観光収益性」
「霊脈交通依存度」
「国家統制適合率」
◇
自然同盟代表が、息を呑む。
「……文化評価ではない」
◇
リリアナは頷いた。
「はい。これは――」
「観光流通支配指標です」
◇
室内の空気が、一瞬で冷える。
◇
カルディオンは、表情を崩さない。
「仮に事実だとして」
「それが何を意味すると?」
◇
リリアナは、静かに答えた。
「観光格付け制度は――」
「霊脈交通支配装置として設計されていました」
◇
沈黙。
◇
さらに、新たな資料が表示される。
国家別観光流入変動グラフ。
格付け改定と、霊脈交通制御の同期ログ。
◇
「格付け改定後、観光流量は最大三百二十%偏重しています」
「その結果」
「弱小文化圏の観光経済は急速に崩壊しました」
◇
砂漠国家代表が、机を叩く。
「これは……文化淘汰だ」
◇
リリアナは、静かに頷いた。
◇
「以上が、調査結果です」
◇
長い沈黙の後。
監察局総監が、重い声で言った。
「……特務官カルディオン」
「本件について説明を求める」
◇
カルディオンは、ゆっくりと息を吐いた。
「文化は、不安定な存在だ」
穏やかな声だった。
「自由に流せば、国家衝突を招く」
「統制は、必要だった」
◇
各国代表がざわめく。
◇
「観光格付け制度は――」
「文化を安全圏に整理するための仕組みだ」
◇
リリアナは、静かに首を振った。
「整理された文化は――」
「やがて、死にます」
◇
カルディオンの視線が鋭くなる。
◇
「文化は、衝突し、混ざり、変化することで生き続けます」
「統制は、安定を生むかもしれません」
「ですが――」
リリアナは、真っ直ぐに彼を見た。
「流れを止めれば、文明は呼吸を止めます」
◇
完全な沈黙が訪れる。
◇
やがて。
監察局総監が、静かに宣言した。
「監察局内部調査を開始する」
「関係部署の権限を凍結」
「観光格付け制度は――」
一拍の間。
「即時停止する」
◇
室内が大きく揺れる。
◇
カルディオンは、目を閉じた。
それ以上、何も言わなかった。
◇
数時間後――
監察局庁舎内部では、緊急監査が開始された。
関係部門の封鎖。
資料保全命令。
幹部調査。
◇
観光格付け制度は、世界規模で停止された。
◇
――そして。
◇
庁舎屋上庭園。
夕暮れの光が、霊導塔群を橙色に染めている。
◇
リリアナは、手帳を開いていた。
さらさらとペンを走らせる。
◇
「……文化ランキング」
彼女は小声で呟く。
「旅行評価としても、危険ですね」
◇
ザハルが苦笑する。
「研究評価としては?」
「論外です」
即答だった。
◇
フィオが笑う。
「世界規模制度をレビューで斬る人、初めて見た」
◇
エルナが、空を見上げる。
「……流れ、軽くなった」
◇
夕空を渡る風が、静かに都市を包み込む。
文化の航路は――
再び、ゆっくりと動き始めていた。




