Scene10「黒幕摘発」
霊都アストラ・コア中央議政ホール。
巨大な円形議場の中央には、霊脈塔と同調した光柱が立っている。
それは、この国家の象徴だった。
――文明の流れを統べる光。
その光の下に、リリアナは立っていた。
周囲には、国家霊脈管理局。
企業連合代表。
地方代表団。
そして、管制総監アルヴェル。
議場全体が、異様な静けさに包まれている。
「……観光研究者が、国家議場に立つ日が来るとは」
アルヴェルが、低く呟いた。
リリアナは、軽く頭を下げる。
「光栄です。
ただし今回は、観光報告ではありません」
彼女は端末を起動する。
「霊脈事故の原因調査報告です」
空間投影が展開された。
◆改ざん供給ログ
事故発生時刻と、霊脈供給操作履歴。
複数の地点。
複数の事故。
すべてが、同じ操作パターンを示していた。
議場にざわめきが広がる。
「供給調整は安全補正だ」
企業席から声が飛ぶ。
ノクス動力幹部の一人だった。
整った笑顔。
だが目は冷たい。
「霊脈は極めて繊細な資源です。
調整は当然の管理行為でしょう」
リリアナは静かに頷く。
「ええ。管理は必要です」
「ですが――」
彼女は次の資料を表示した。
◆事故誘発装置
解析映像。
霊脈流に、微細な共振干渉が加えられている。
「供給量を減らすだけでは事故は起きません」
「ですが、この干渉装置を併用すると」
映像の霊脈が乱流を起こす。
「航路誤差が発生します」
地方代表が立ち上がる。
「……それが、転移事故の原因か」
「はい」
議場の視線が、一斉に企業席へ向いた。
だが幹部は、動じない。
「証拠としては弱い」
冷静に言う。
「技術は模倣可能です」
「誰が設置したかまでは証明できない」
リリアナは、小さく息を吸った。
「では、こちらを」
◆価格操作契約書
新たな投影が開く。
秘密契約。
供給不足発生地域。
インフラ緊急更新契約。
そして――
すべての契約が、ノクス動力系列企業へ集中していた。
議場の空気が、凍りついた。
「供給不足を人工的に発生させ」
「緊急契約を独占する」
リリアナは、静かに言った。
「これが、事故の構造です」
沈黙。
長い沈黙。
やがて、企業幹部が立ち上がった。
表情から、笑みが消えていた。
「……だから何だ」
その声は、低かった。
「文明とは資源管理だ」
議場がざわめく。
「需要を制御し、供給を最適化する」
「それが国家と企業の役割だ」
彼は、リリアナを見据えた。
「人の感情や文化は、効率を乱す」
「霊脈は感傷のために存在するのではない」
静かな挑発だった。
だが、リリアナは動じない。
彼女は一歩、前へ出た。
「確かに、霊脈は資源です」
「ですが――」
彼女の声は、議場全体に響いた。
「文明は」
「資源のために存在するものではありません」
リリアナは、ゆっくりと言葉を紡ぐ。
「文明は――」
ほんの一瞬、エルナの方を見る。
そして。
「人が移動し、文化が交わるためにあるんです」
その言葉が落ちた瞬間。
議場の空気が変わった。
地方代表たちが、静かに頷く。
交易代表が視線を伏せる。
アルヴェルは、目を閉じていた。
やがて。
彼は、ゆっくり口を開いた。
「……私は」
深い息を吐く。
「国家安定のため、黙認していた」
議場が騒然となる。
「供給混乱を抑えるには、企業の協力が必要だった」
「だが……」
彼はリリアナを見る。
「文明の本質を、見誤ったかもしれない」
その言葉は、国家の敗北宣言に等しかった。
警備官が動く。
企業幹部たちは拘束されていく。
議場の上空で、霊脈光がゆっくりと安定していった。
◆緊張緩和
騒然とする議場の片隅。
リリアナは、そっと手帳を開いた。
小声でメモを書く。
「……インフラ利権」
さらさらと筆が走る。
「観光レビュー……最低評価」
隣で、フィオが吹き出しそうになる。
ザハルが額を押さえた。
「……この状況でそれを書くのか」
「重要です」
リリアナは真顔だった。
「文明評価の参考資料になりますので」
やがて議場では、正式決議が始まる。
ノクス動力幹部連合の摘発。
霊脈供給制度の全面監査。
国家責任の調査委員会設立。
文明そのものが、見直されようとしていた。
エルナが、静かに空を見上げる。
「……流れ」
少女は、小さく微笑んだ。
「少しだけ……楽になった」
リリアナは、その言葉を聞いて頷いた。
「ええ」
彼女は霊脈塔の光を見つめる。
「文明は、まだ――」
「修復できます」
その言葉とともに。
霊都の光は、静かに脈動を続けていた。




