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悪役令嬢リリアナ断罪されたので旅に出ます 『悪役令嬢観光録』 ―文化を巡り、文明を繋ぐ旅―  作者: 南蛇井


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Scene9「調査開始」

霊都アストラ・コア、下層研究区画。


 夜。


 


 高層霊脈塔の影に隠れるようにして、古い管制解析室が存在していた。


 現役設備からは外れたが、過去ログと事故記録を保管するためだけに残された場所だ。


 


 薄暗い室内に、霊光式端末の淡い光が浮かぶ。


 


 リリアナは机に向かい、袖をまくっていた。


 


「……さて」


 


 彼女は小さく息を吐く。


 


「“文明循環”の前に、まずは事実確認ですね」


 


 端末が起動し、立体映像が展開される。


 


◆交通ログ解析


 


 最初に表示されたのは、過去半年分の霊脈交通ログ。


 


 都市間転移、物流移動、民間利用――


 すべてが時間単位、出力単位で記録されている。


 


「使用量自体は……想定範囲内」


 


 リリアナは指を滑らせる。


 


「急激な需要増加はない。

 少なくとも“使いすぎ”では説明できません」


 


 ザハルが腕を組んだまま、低く言う。


 


「事故は管理不足だと聞いていたが」


 


「ええ。でも、管理が足りないなら――」


 


 リリアナは視線を上げる。


 


「全域で均等に乱れるはずです」


 


◆事故発生マップ


 


 次に表示されたのは、霊脈事故の発生地点。


 


 点が、空間上に散らばる。


 


 ……いや。


 


 リリアナは眉をひそめた。


 


「散らばって“いるように見える”だけですね」


 


 指で拡大する。


 


 すると事故地点は、いくつかの帯状パターンを描いていた。


 


「主要霊脈幹線から、意図的に外れた地点」


 


 フィオが身を乗り出す。


 


「偶然じゃない、ってこと?」


 


「偶然にしては、綺麗すぎます」


 


 リリアナは淡々と言った。


 


「これは……」


 


 彼女は一度画面を整理し、別の情報を重ねる。


 


◆供給制御記録


 


 表示されたのは、霊脈出力制御の履歴。


 


 誰が、いつ、どの区間の出力を調整したか。


 


「……あ」


 


 リリアナの指が止まった。


 


 エルナが不安そうにこちらを見る。


 


「リリアナ?」


 


「制御記録が……不自然です」


 


 リリアナは、静かに言った。


 


「事故発生の直前、必ず“微調整”が入っている」


 


「でも、表向きは安全補正」


 


 画面には、合法的な操作履歴が並んでいる。


 


「出力を下げているのに……」


 


 リリアナは事故マップを重ねた。


 


「流れは、逆に乱れている」


 


 ザハルの声が低くなる。


 


「……縛っている、ということか」


 


 その言葉に、エルナがびくりと肩を揺らした。


 


 少女は、霊脈表示に近づく。


 


 小さな手が、光の流線に触れる。


 


 ――触れていない。


 だが、確かに“感じている”。


 


 エルナの表情が歪んだ。


 


「……苦しい」


 


 リリアナは、即座に椅子を離れた。


 


「エルナ、大丈夫?」


 


 エルナは、かすかに首を振る。


 


「流れが……」


 


 少女の瞳が、淡く発光する。


 


「本来、霊脈は回るものなのに……」


 


 指先が、事故帯の一点を指した。


 


「ここで……止められてる」


 


 フィオが息を呑む。


 


「止められてる?」


 


「ううん……違う」


 


 エルナは、ゆっくり言葉を探した。


 


「縛られてる」


 


 リリアナは、確信に至った。


 


「……やっぱり」


 


 彼女は、端末を閉じる。


 


「事故は自然現象じゃありません」


 


 静かな声だった。


 


「誰かが、意図的に霊脈の流れを制御している」


 


 ザハルが一歩前に出る。


 


「目的は?」


 


 リリアナは、少し考えた後、答えた。


 


「恐らく――」


 


「混乱を作るため」


 


「そして“管理が必要だ”という空気を強めるため」


 


 その場に、沈黙が落ちた。


 


 エルナが、小さく呟く。


 


「……誰かが」


 


 少女の声は、震えていた。


 


「流れを……縛ってる」


 


 リリアナは、エルナの肩にそっと手を置いた。


 


 その瞬間。


 


 霊脈表示が、かすかに揺れた。


 


 まるで――


 誰かに、こちらの調査が“伝わった”かのように。


 


 リリアナは、静かに言った。


 


「……調査は、ここからが本番ですね」


 


 文明の裏側に踏み込んだことを。


 この時、全員が理解していた。


 


 そしてこの調査が――


 


 霊脈文明そのものを揺るがすことになると、


 まだ誰も、正確には知らなかった。

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