Scene11「フィオ加入」
雲上港ラピュル。
夕焼けが、幾層にも重なる空域を黄金色に染めていた。
新設された観光航路を、試験飛行艇がゆっくりと滑空している。
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港の縁に立ち、フィオはその光景を黙って見つめていた。
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「……ずいぶん、空が静かになったな」
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隣で、リリアナが穏やかに答える。
「事故率は大幅に低下しています」
「でも――」
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彼女は少しだけ微笑む。
「騒がしさは、まだ残っていますよ」
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遠くで。
合法化された文化保存レースの試験飛行が始まる。
観客席から歓声が上がった。
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フィオは苦笑する。
「……あれが合法になるとはな」
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「危険性を管理すれば、文化は生き残れますから」
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しばらく沈黙が流れる。
風が、港の旗を揺らした。
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フィオはふと、口を開く。
「なあ、リリアナ」
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「はい」
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「俺はずっと思ってた」
「自由ってのは――奪い取るものだってな」
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彼は空を見上げる。
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「ルールは敵だと思ってた」
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そして、ゆっくりと続けた。
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「でも、お前は違った」
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リリアナは黙って聞く。
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「ルールを壊すんじゃなくて」
「ルールを作り直した」
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フィオは肩をすくめる。
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「正直、あんなやり方があるとは思わなかった」
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少しの間を置き。
彼は振り向いた。
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「だからさ」
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「お前の旅に――同行させろ」
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リリアナは、ぱちりと瞬きをした。
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「護衛として」
「案内人として」
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「……まあ」
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フィオはわずかに笑う。
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「自由文化の監視役としてでもいい」
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沈黙。
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その横で、エルナが小さく頷いた。
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ザハルが腕を組む。
「護衛が増えるのは助かる」
「空戦技術者は貴重だ」
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フィオが目を細める。
「評価が現実的すぎるな」
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ザハルは真顔だった。
「現実は重要だ」
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リリアナは小さく息を吐く。
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そして。
真っ直ぐフィオを見る。
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「条件があります」
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「は?」
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「旅は――文化調査です」
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「つまり」
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「観察」
「記録」
「報告」
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「この三点に協力していただきます」
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フィオが固まる。
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「……俺、研究員になるのか?」
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「文化協力員です」
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即答だった。
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フィオは数秒考え。
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大きく息を吐いた。
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「……まあいい」
「空だけ飛べれば問題ない」
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リリアナは手帳を開く。
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さらさらと何かを書き込む。
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「正式登録しました」
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フィオが覗き込む。
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「役職名」
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そこには――
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《空域文化ナビゲーター(仮)》
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フィオが吹き出す。
「仮ってなんだ仮って」
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「適性評価中です」
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真顔だった。
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ザハルが小さく笑う。
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エルナは静かに呟いた。
「……にぎやかになる」
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夕陽が、四人の影を長く伸ばした。
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遠くで飛行艇が上昇する。
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整備された航路。
それでもなお、自由に広がる空。
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フィオはその空を見上げる。
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「悪くない旅になりそうだ」
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リリアナは頷く。
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「ええ」
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「きっと――面白くなります」
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そのとき。
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エルナが、ふと空の奥を見つめた。
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「……流れ」
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「まだ揺れてる」
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誰にも届かないほど小さな声だった。
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雲の彼方で――
霊脈の光が、わずかに波打っていた。




