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悪役令嬢リリアナ断罪されたので旅に出ます 『悪役令嬢観光録』 ―文化を巡り、文明を繋ぐ旅―  作者: 南蛇井


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Scene11「フィオ加入」

雲上港ラピュル。


 夕焼けが、幾層にも重なる空域を黄金色に染めていた。


 新設された観光航路を、試験飛行艇がゆっくりと滑空している。


   ◆


 港の縁に立ち、フィオはその光景を黙って見つめていた。


   ◆


「……ずいぶん、空が静かになったな」


   ◆


 隣で、リリアナが穏やかに答える。


「事故率は大幅に低下しています」


「でも――」


   ◆


 彼女は少しだけ微笑む。


「騒がしさは、まだ残っていますよ」


   ◆


 遠くで。


 合法化された文化保存レースの試験飛行が始まる。


 観客席から歓声が上がった。


   ◆


 フィオは苦笑する。


「……あれが合法になるとはな」


   ◆


「危険性を管理すれば、文化は生き残れますから」


   ◆


 しばらく沈黙が流れる。


 風が、港の旗を揺らした。


   ◆


 フィオはふと、口を開く。


「なあ、リリアナ」


   ◆


「はい」


   ◆


「俺はずっと思ってた」


「自由ってのは――奪い取るものだってな」


   ◆


 彼は空を見上げる。


   ◆


「ルールは敵だと思ってた」


   ◆


 そして、ゆっくりと続けた。


   ◆


「でも、お前は違った」


   ◆


 リリアナは黙って聞く。


   ◆


「ルールを壊すんじゃなくて」


「ルールを作り直した」


   ◆


 フィオは肩をすくめる。


   ◆


「正直、あんなやり方があるとは思わなかった」


   ◆


 少しの間を置き。


 彼は振り向いた。


   ◆


「だからさ」


   ◆


「お前の旅に――同行させろ」


   ◆


 リリアナは、ぱちりと瞬きをした。


   ◆


「護衛として」


「案内人として」


   ◆


「……まあ」


   ◆


 フィオはわずかに笑う。


   ◆


「自由文化の監視役としてでもいい」


   ◆


 沈黙。


   ◆


 その横で、エルナが小さく頷いた。


   ◆


 ザハルが腕を組む。


「護衛が増えるのは助かる」


「空戦技術者は貴重だ」


   ◆


 フィオが目を細める。


「評価が現実的すぎるな」


   ◆


 ザハルは真顔だった。


「現実は重要だ」


   ◆


 リリアナは小さく息を吐く。


   ◆


 そして。


 真っ直ぐフィオを見る。


   ◆


「条件があります」


   ◆


「は?」


   ◆


「旅は――文化調査です」


   ◆


「つまり」


   ◆


「観察」


「記録」


「報告」


   ◆


「この三点に協力していただきます」


   ◆


 フィオが固まる。


   ◆


「……俺、研究員になるのか?」


   ◆


「文化協力員です」


   ◆


 即答だった。


   ◆


 フィオは数秒考え。


   ◆


 大きく息を吐いた。


   ◆


「……まあいい」


「空だけ飛べれば問題ない」


   ◆


 リリアナは手帳を開く。


   ◆


 さらさらと何かを書き込む。


   ◆


「正式登録しました」


   ◆


 フィオが覗き込む。


   ◆


「役職名」


   ◆


 そこには――


   ◆


 《空域文化ナビゲーター(仮)》


   ◆


 フィオが吹き出す。


「仮ってなんだ仮って」


   ◆


「適性評価中です」


   ◆


 真顔だった。


   ◆


 ザハルが小さく笑う。


   ◆


 エルナは静かに呟いた。


「……にぎやかになる」


   ◆


 夕陽が、四人の影を長く伸ばした。


   ◆


 遠くで飛行艇が上昇する。


   ◆


 整備された航路。


 それでもなお、自由に広がる空。


   ◆


 フィオはその空を見上げる。


   ◆


「悪くない旅になりそうだ」


   ◆


 リリアナは頷く。


   ◆


「ええ」


   ◆


「きっと――面白くなります」


   ◆


 そのとき。


   ◆


 エルナが、ふと空の奥を見つめた。


   ◆


「……流れ」


   ◆


「まだ揺れてる」


   ◆


 誰にも届かないほど小さな声だった。


   ◆


 雲の彼方で――


 霊脈の光が、わずかに波打っていた。

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