Scene10「黒幕摘発」
天空都市ラピュル――空域監察局・特別監査室。
巨大な透明卓の上に、無数の航路ログが投影されていた。
空域の光線が交差し、事故地点が赤く点滅している。
◆
「……異常分布です」
技術官が震える声で言った。
◆
リリアナは静かに頷く。
「はい」
「自然事故の発生確率から大きく逸脱しています」
◆
セレスが腕を組む。
「つまり――人為的操作」
◆
「その可能性が極めて高いです」
◆
室内の空気が張り詰める。
◆
リリアナは次の投影を表示した。
◆
事故地点と――
保険請求記録。
◆
「注目してください」
◆
「事故後、必ず同一企業の補償契約が成立しています」
◆
フィオが眉をひそめる。
「偶然にしては出来すぎだな」
◆
「さらに」
リリアナは航法装置ログを拡大する。
◆
「事故機体の霊脈同期装置」
「微細な位相ズレが確認されています」
◆
技術官が息を呑む。
「……調整値が書き換えられている」
◆
「はい」
◆
セレスの声が低くなる。
「装置改ざんは重罪だ」
◆
「しかも」
リリアナは静かに続けた。
◆
「改ざんパターンが統一されています」
◆
「同一設計思想です」
◆
投影が切り替わる。
◆
そこに表示されたのは――
空域独占企業。
《アルテリオン空航保全公社》。
◆
室内が凍りつく。
◆
「……まさか」
監察官の一人が呟いた。
◆
リリアナは冷静に資料を重ねる。
◆
「保険収益」
「航路再整備契約」
「監察装置販売」
◆
「すべて事故増加と比例しています」
◆
沈黙。
◆
セレスが静かに言う。
「証拠の信頼性は」
◆
「航路ログ原本」
「装置内部記録」
「保険台帳」
◆
「三系統照合済みです」
◆
セレスはゆっくり頷いた。
◆
「十分だ」
◆
その瞬間――
警報結晶が赤く点灯した。
◆
「緊急報告!」
◆
伝令官が駆け込む。
◆
「アルテリオン社が監査拒否!」
「装置データ削除を開始しています!」
◆
フィオが笑った。
「証拠隠滅ってやつだな」
◆
セレスが即座に命じる。
「空域封鎖!」
「監査強制執行!」
◆
監察局部隊が動き出す。
◆
空に――警戒結界が展開された。
◆
◇
アルテリオン本社塔。
浮遊結晶で形成された巨大企業中枢。
◆
監察局部隊が突入する。
◆
「監察執行令状!」
「装置ログ提出を要求する!」
◆
企業幹部が冷笑する。
「我々は都市安全を支えている」
「事故は不可抗力だ」
◆
そのとき。
リリアナが一歩前に出た。
◆
「不可抗力ではありません」
◆
彼女は携帯投影端末を起動する。
◆
装置内部記録。
改ざん操作履歴。
◆
「あなた方が」
「事故確率を人為的に増加させた証拠です」
◆
幹部の顔色が変わる。
◆
「証拠は――」
◆
「三系統照合済みです」
◆
静かな断言。
◆
セレスが宣言する。
「アルテリオン空航保全公社を」
◆
「空域犯罪容疑で拘束する」
◆
魔導拘束結晶が起動した。
◆
幹部は崩れ落ちる。
◆
◇
三日後。
ラピュル中央広場。
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巨大投影に公式発表が流れる。
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「事故原因は」
「企業による装置改ざん」
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市民に衝撃が走る。
◆
しかし。
すぐに続いたのは――
◆
「文明調停制度、正式施行」
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観光空域。
教育型ライセンス。
文化保存レース。
事故共有制度。
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都市は――新しい空へ進み始めた。
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◇
夕暮れ。
雲上港。
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試験飛行艇が安全航路を滑空していた。
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フィオが腕を組む。
「……面白い都市になりそうだ」
◆
セレスが静かに頷く。
「秩序は維持できる」
「むしろ強くなる」
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二人は同時に――
リリアナを見る。
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彼女は空を眺めていた。
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「文化は」
◆
「守るものじゃありません」
◆
「育てるものです」
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そのとき。
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エルナが、かすかに空を見上げた。
◆
「……まだ」
◆
「流れが乱れてる」
◆
風が吹く。
◆
遥か上空。
肉眼では見えない高度で――
霊脈の光が、一瞬だけ揺らいだ。
◆
リリアナはまだ、それに気づかない。




