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悪役令嬢リリアナ断罪されたので旅に出ます 『悪役令嬢観光録』 ―文化を巡り、文明を繋ぐ旅―  作者: 南蛇井


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Scene2 「意識覚醒」

「――被告、リリエル・フォン・アルシェンド」


 学園長の声が、再び講堂へ響いた。


 その名を呼ばれた瞬間。


 ――何かが、軋んだ。


 頭の奥で、硝子が擦れるような感覚が走る。


「貴殿は学園内において、聖女候補生への度重なる威圧行為を行い――」


 罪状朗読が始まる。


 声は明瞭だ。

 言葉も理解できる。


 だが、その意味が――


 妙に遠い。


 リリエルは瞬きをした。


 視界が、ほんのわずかに歪む。


「――貴族間の調和を乱し――」


 調和。


 その単語が耳に入った瞬間――


 知らない記憶が、微かに揺れた。


 白い蛍光灯。


 無機質な天井。


 揺れるつり革。


 電車の揺れ。


 ――終電。


 リリエルの指先が、かすかに震えた。


「――王国秩序を軽視する研究思想を保持し――」


 研究。


 その言葉が、さらに深く意識を揺らす。


 視界の端に、見たことのない光景が滲んだ。


 色鮮やかな海。


 断崖に広がる白い街並み。


 雑誌のページが、風にめくれる。


 『死ぬまでに行きたい世界の絶景特集』


 鮮明な写真。


 指先でページを押さえながら――


 誰かが、呟いている。


 ――いいなぁ。


 ――いつか行きたいなぁ。


 その声が、やけに近かった。


 同時に、スマートフォンの画面が浮かぶ。


 フォルダ一覧。


 「将来の自分用資料①」

 「将来の自分用資料②」

 「将来の自分用資料③」


 果てしなく続く保存フォルダ。


 画面をスクロールする指。


 その手が――自分のものだと、奇妙に確信できた。


「――聖女候補生への精神的圧迫及び社会的排除行為――」


 朗読は続く。


 しかし、リリエルの内側では別の声が響いていた。


 ――あれ?


 ――ちょっと待って。


 違和感が、ゆっくりと膨らんでいく。


 ここは、王立学園の大講堂。


 それは分かる。


 自分は公爵令嬢リリエル。


 それも、分かる。


 だが――


 同時に、別の人生の記憶が、確かに存在している。


 夜のオフィス。


 パソコンの画面に並ぶ旅行広告。


 マグカップに残った冷めたコーヒー。


 時計は二十三時五十七分。


 誰かが、疲れた目で広告コピーを眺めている。


 ――このキャッチ弱いな。


 ――ターゲット訴求ズレてる。


 その思考は、あまりにも自然で。


 あまりにも、現実感があった。


 呼吸が、浅くなる。


 リリエルの視線が、ゆっくりと揺れた。


 ①――違和感。


 胸の奥に、二つの人生が重なっている。


 ②――世界認識。


 ここは異世界。

 魔導文明。

 王政国家。

 貴族社会。


 それを、理解している自分がいる。


 そして――


 ③――記憶想起。


 断片だった情報が、突然つながる。


 学園。


 聖女。


 王太子。


 婚約者。


 断罪。


 ――乙女ゲーム。


 タイトルロゴが、脳裏に浮かぶ。


 『聖光のルミナリア』


 プレイ画面。

 選択肢。

 好感度メーター。


 そして――


 破滅エンド一覧。


 その中に、確かに存在していた。


 悪役令嬢リリエル。


 断罪後、国外追放。

 政治的失脚。

 社会的抹消。


 最悪ルートでは――処刑。


 血の気が、引いた。


 ④――自己認識。


 ――あ。


 理解が、落ちる。


 静かに。


 確実に。


 自分は――


 その悪役令嬢本人だ。


 講堂の空気が、やけに冷たく感じる。


 だが、外見上のリリエルは一切動かない。


 ただ、内側で思考だけが高速で巡っていた。


 罪状朗読は続く。


「――以上の行為は、貴族社会秩序に対する重大な侵害であり――」


 言葉が、淡々と積み重なる。


 その内容を、リリエルは冷静に分類していた。


 ――ええと。


 ――これは。


 思考が、妙に整然と動く。


 まるで仕事中のように。


 脳内で、自然とカテゴリが作成される。


 社交界トラブル案件。

 派閥抗争案件。

 イメージ毀損案件。


 そして。


 政治的見せしめ案件。


 整理が、妙にスムーズだった。


 その瞬間。


 リリエルの内側で、別の人格がはっきりと目を覚ます。


 京子。


 働きすぎて、旅行に行けなかった女。


 だが、状況を分析する癖だけは、骨の髄まで染み付いている。


 京子は、冷静に結論を出した。


 ――これ。


 ――詰んでない?


 朗読は、終盤に差し掛かっていた。


 講堂の視線が、さらに鋭くなる。


 王太子が一歩前へ出る気配がする。


 物語は、確実に進んでいる。


 破滅エンドへ向かって。


 リリエル――京子は、ゆっくりと瞬きをした。


 恐怖は、ある。


 だが同時に――


 理解してしまった。


 これは、現実だ。


 そして。


 逃げ場はない。


 ステンドグラスの光が、彼女の足元へ落ちる。


 断罪の色彩が、静かに揺れた。

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