表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悪役令嬢リリアナ断罪されたので旅に出ます 『悪役令嬢観光録』 ―文化を巡り、文明を繋ぐ旅―  作者: 南蛇井


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

25/37

Scene12 「移動文化の理解」

翌朝。


 霧がまだ薄く残る街道を、馬車はゆっくりと進んでいた。


 夜営地を出たばかりの空気は、どこか湿り気を帯びている。草葉に残った露が朝日にきらめき、遠くでは巡礼者たちの歌声が、淡く重なっていた。


 リリエルは馬車の窓から、街道を見つめていた。


 轍が幾重にも刻まれた道。


 そこを、様々な人々が行き交っている。


 交易商の隊列。

 祈祷旗を掲げた巡礼団。

 楽器を背負った旅芸人。

 荷を担いだ一人旅の青年。


 すべてが、同じ道を歩いている。


 同じ方向ではない。


 それでも――


 道は、すべてを受け入れていた。


 護衛兵が軽く伸びをする。


「街道にも慣れてきましたか?」


「ええ」


 リリエルは穏やかに頷いた。


「とても……興味深いです」


 護衛兵が苦笑する。


「それ、褒め言葉として受け取っていいんですかね」


「もちろんです」


 真剣な声音だった。


 リリエルは帳面を開く。


 だが、すぐには書き込まない。


 代わりに、静かに街道を見続けた。


 宿文化。

 旅人交流。

 装備合理化。

 歌と情報共有。

 星と進路。

 焚火の共同体。


 それらが、ゆっくりと頭の中で繋がっていく。


 やがて彼女は、小さく息を吐いた。


 ――理解した。


 ペン先が、紙に触れる。


 『街道は文化の血流である』


 その一文を書いたあと、しばらく動きを止める。


 馬車が小さく揺れた。


 遠くで商隊の鈴が鳴る。


 旅人の笑い声が、風に流れていく。


 リリエルは続けて書き込む。


 『人は文化を持ち運ぶ』


 『文化は移動によって更新される』


 そして、わずかに微笑んだ。


 胸の奥で、言葉が自然に形を取る。


 ――旅は観光ではない。


 ――文明の流れを歩くことだ。


 帳面を閉じる。


 隣では、エルナが窓の外を眺めていた。


「どうしました?」


 エルナは少し考え、答える。


「……道、あったかい」


 曖昧な表現だった。


 だがリリエルは、穏やかに頷いた。


「そうですね」


 しばらく沈黙が続く。


 街道はゆるやかに丘を越え、次の谷へと伸びていた。


 遠くには、新しい宿場町らしき建物群が小さく見えている。


 護衛兵が指差す。


「次はあそこに寄ります」


「どんな街ですか?」


「交易より巡礼が多い町ですね。保存食が有名です」


 リリエルの瞳が、静かに輝く。


「それは……楽しみです」


 馬車が揺れる。


 彼女は座席に軽く体を預けながら、窓の外を見続ける。


 道は続いている。


 まだ知らない文化へ。

 まだ出会っていない人々へ。

 まだ理解していない世界へ。


 追放は、罰ではなかった。


 むしろ――


 人生を動かす、最初の一歩だった。


 リリエルは小さく笑った。


「次の街道文化も、きっと面白い」


 馬車は朝霧の中へ進んでいく。


 街道は、途切れることなく続いていた。


 人と文化を運びながら。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ