表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悪役令嬢リリアナ断罪されたので旅に出ます 『悪役令嬢観光録』 ―文化を巡り、文明を繋ぐ旅―  作者: 南蛇井


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

2/31

第1アーク 「追放という最高の休暇」Scene1「断罪の大講堂」

王立アルシェンド学園――大講堂。


 天井は王城の謁見室に匹敵する高さを誇り、幾重にも重なるアーチが荘厳な空間を形作っていた。壁面を覆う大理石には王家の紋章が彫刻され、歴代の英雄譚を描いた壁画が左右に並んでいる。


 そして、正面を飾る巨大なステンドグラス。


 そこには、王国を守護する聖光の女神が描かれていた。夕刻の光がガラスを透過し、赤や青の色彩が床へと降り注いでいる。


 その光は、まるで裁きを象徴するかのように、講堂中央へと集まっていた。


 ――そこに、ひとりの少女が立たされている。


 リリエル・フォン・アルシェンド。


 公爵令嬢であり、王太子の元婚約者。


 そして――この場の“被告人”。


 豪奢な礼装は整えられている。だが、その立ち姿は微動だにせず、ただ前方を見据えていた。背筋は真っ直ぐで、視線は揺れない。


 周囲の視線は冷たい。


 講堂を囲む観客席には、王族、貴族、上級学生がずらりと並んでいる。囁き声が波紋のように広がっていた。


「ついにこの日が来たのね」

「傲慢な公爵令嬢も終わりだ」

「聖女様を敵に回すから――」


 嘲笑と軽蔑が、空気に混じる。


 壇上の最上段には王族席が設けられている。王太子と、その隣に控える聖女。そして、学園長をはじめとする王国高官たちが厳然と並んでいた。


 さらにその背後。


 漆黒の礼装を纏った集団が、静かに立っている。


 王国監察局。


 国家秩序と魔導インフラを管理する特務機関。王都において最も強い実務権限を持つ組織だった。


 彼らは一切表情を動かさない。まるで儀式の記録装置のように、ただ断罪の場を見守っていた。


 その無機質さが、講堂の空気を一層硬くしている。


 司会役の官吏が一歩前へ進み出る。


「これより、王立学園規律及び王国貴族法に基づき、リリエル・フォン・アルシェンドの審問を開始する」


 低く、よく通る声が講堂へ響いた。


 観客席が静まり返る。


 全ての視線が中央へと集中した。


 リリエルは動かない。


 長い金髪が、ステンドグラスの光を受けて淡く輝いている。その表情には恐怖も動揺も見えない。氷細工のように整った顔立ちは、感情を一切外へ漏らしていなかった。


 沈黙が数秒続く。


 やがて、壇上に立つ学園長がゆっくりと口を開いた。


「被告、リリエル・フォン・アルシェンド」


 その名が呼ばれた瞬間――


 講堂の空気が、わずかに張り詰めた。


 リリエルの瞳が、ほんの一瞬だけ瞬いた。


 だがそれは、誰にも気付かれないほど小さな変化だった。


 彼女は静かに、学園長を見上げる。


 堂々とした立ち姿は、まるで自らの運命を受け入れているかのようだった。


 観客席の一角で、扇子が閉じる音が鳴る。


 誰かが息を飲む。


 この場にいる誰もが確信していた。


 ――これは裁きではない。

 ――処刑宣告に等しい。


 王太子がゆっくりと立ち上がる。金糸を織り込んだ外套が、重々しく揺れた。


 聖女がその隣で静かに祈りの姿勢を取る。


 監察局の役人が、書記用の魔導板に指を滑らせる。淡い光が走り、記録が開始された。


 王都は、秩序によって支えられている。


 法。

 身分。

 規律。

 魔導インフラ。


 その全てを維持するため、逸脱は排除される。


 そして今、この講堂は、その秩序を象徴する舞台だった。


 静寂の中、罪状朗読が始まろうとしている。


 リリエルは微動だにしない。


 ただ、その視線だけが――


 ほんのわずかに、講堂全体を見渡した。


 王族席。

 貴族席。

 監察局。

 儀式進行官。

 整然と配置された衛兵。


 完璧に管理された空間。


 ――式典としての完成度は極めて高い。


 その評価は、まだ言語化されないまま、彼女の意識の奥底に微かに浮かび、すぐに沈んだ。


 次の瞬間。


 学園長が罪状朗読の巻物を広げる。


 羊皮紙が擦れる音が、やけに大きく響いた。


「これより、被告の罪状を読み上げる――」


 断罪の幕が、静かに上がった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ