表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悪役令嬢リリアナ断罪されたので旅に出ます 『悪役令嬢観光録』 ―文化を巡り、文明を繋ぐ旅―  作者: 南蛇井


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

12/43

Scene11 「王都出発」

追放馬車の扉が、静かに閉じられた。


 革張りの座席。

 最小限の調度。

 貴族用馬車としては質素だが、旅用としては十分に整っている。


 窓の外では、王城前広場がゆっくりと後退していく。


 護衛騎士の号令とともに、馬車列が動き出した。


 リリエルは、軽く背もたれに身体を預ける。


 その動作は優雅でありながら、どこか肩の力が抜けていた。


 ――王都を離れる。


 普通ならば、それは失脚の証。


 だが彼女にとっては、長い労働契約を解約したような解放感があった。


 (ついに出発かぁ)


 ほんの少しだけ、口元が緩む。


 エルナは向かいの席で、静かに窓の外を見つめていた。


 言葉は少ない。

 だが、どこか周囲の空気に耳を澄ませているようだった。


 馬車は王都中心区を抜け、大通りへと入る。


 整然と並ぶ石造建築。

 規律正しく配置された街灯。

 歩道を行き交う貴族や市民の動きまでもが、どこか統制されている。


 王都は、美しく、そして――少しだけ息苦しいほど整いすぎていた。


 リリエルは窓越しに、その光景を観察する。


 (都市設計、完全に計画型……)

 (観光資源としては格式高いけど、自由度は低めかな)


 やがて、視界の先に巨大な城門が見えてくる。


 王都外縁門。


 そして、その上空を覆うように、淡い光の膜が広がっていた。


 霊脈結界。


 王都全体を包み込む、魔導文明の象徴。


 護衛騎士が、馬車外から声をかける。


「まもなく結界通過だ。衝撃はないが、念のため姿勢を保て」


「承知しました」


 リリエルは姿勢を整える。


 エルナが、わずかに視線を上げた。


 馬車が門を潜る。


 ――その瞬間。


 空気が、変わった。


 それは温度でも匂いでもない。

 だが、確かに何かが薄くなった感覚。


 王都の中で感じていた、均一で滑らかな流れが、わずかにほどける。


 リリエルは瞬きをする。


 外の景色が、ほんの少しだけ色を取り戻したように見えた。


 同時に――


 門脇に設置された霊脈灯が、一瞬だけ明滅した。


 ぱち、と。


 短く、しかし確かに揺れる光。


 御者は気付かない。

 護衛騎士も反応しない。


 だが、リリエルの視線はそこに止まった。


 そして、思わず呟く。


「……今の、インフラ不具合?」


 その声音は、心配というより、どこか業務確認に近かった。


 エルナが、静かに答える。


「……結界の外は、流れが自由になりますから」


「自由?」


「はい。王都は……整えすぎているので」


 エルナの言葉は曖昧だったが、不思議と納得感があった。


 リリエルは窓の外を見つめる。


 城門の向こう。


 そこには、緩やかに続く街道が広がっていた。


 石畳は、少しだけ荒くなる。

 街灯の間隔も広がる。

 遠くには、自然の丘陵と農地が連なっている。


 王都の完璧な整然さとは対照的な景色。


 (……いい)


 彼女は、静かに思う。


 (文化の境界って、こういう空気で分かるんだ)


 記録帳を開き、新しいページに書き込む。


 ――王都外縁、霊脈結界通過地点。

 ――空気質変化、感覚的自由度上昇。

 ――霊脈灯、一瞬の光量不安定確認。


 ペンを止める。


 そして、ふと笑う。


 (出発初日から観察対象発見……幸先いいかも)


 馬車は、ゆっくりと速度を上げる。


 背後で、王都の城門が閉じていく。


 重厚な音が、遠ざかる。


 その音は、過去との区切りにも聞こえた。


 エルナが、小さく呟く。


「……ここから先は、道がたくさんあります」


 リリエルは頷く。


「ええ。どれも楽しみですね」


 街道は、水平線へと伸びている。


 未知の土地。

 未知の文化。

 そして、まだ知らない数え切れない出会い。


 追放馬車は、そのすべてへ向かって進み続けた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ