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衛生兵 ベルナ  作者: mask
二等兵 アデル

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7/11

二等兵 アデル4

「ゴードン曹長、大丈夫ですか?」

「大丈夫なわけあるかっ!?」

「ひいっ!?」

 ゴードンは自分を呼んだ隊員の胸倉を掴み立ち上がる。

 背の高いゴードンに持ちあげられて隊員の足が地面から浮いてしまう。

「ぐ、そ、そうちょ」

「マスクド大佐ならちゃんと言いやがれ! 危うく殺されかけたじゃねえか!?」

 そのままゴードンは隊員を投げ飛ばす。

「ああ、畜生。すぐに機嫌を取りに行かねえと。もしあの方に嫌われたらどうなることやら」

 大男のゴードンが頭を抱える。

 そこで何かを思い出してゴードンはハッとする。

 投げ飛ばしてた隊員は置き捨てて天幕に戻る。

「アデル! さっさと身体を拭け! それになんだ? 香水か何か持ってないのか!?」

「……へ?」

 怒号にも似たゴードンの声にベットの上で丸くなっていたアデルは目を丸くする。

「で、でも、ゴードン曹長がそのままでって」

「うるせえ! 良いから身体を拭いて来い!」

「でもお湯を沸かさないと」

「そんなもん水で十分だろうがっ!? 俺が死ねばおめえの命はねえんだぞ!」

「……は、はい」

 アデルはゴードンの言っていることにわけもわからず従う。

 バケツに水筒の水を注いで支給されているタオルを浸して絞り、軍服を全て脱いで拭いていく。

「…………」

 アデルが下着姿になれば、アデルが拒絶してもすぐに襲いかかって来るゴードン。

 だけど今は何かに怯えて焦っていた

「おい! 早くしろ! 大佐を待たせる気かっ!」

「は、はい」

 急がなければ。

 アデルの頭の中はそれだけになった。

 首筋を、鎖骨から胸を、腕から指先、腋からお腹。

 上から下まで汗や土汚れを拭っていく。

「お、終わりました」

 ゴードンに背を向けたまま報告する。

「だったら早く服を着ろ!」

「え?」

 さっきまでは脱がして来た男が服を着ろと命令して来た。

 もうアデルはパニックだった。

「これはいったい、どうしたのですか?」

 自分では理解出来ない何かに巻き込まれているとアデルは感じた。

「黙って従え! あの方の機嫌を損ねたら、おめえも殺されるんだぞ!」

「ころっ」

 唐突な死刑予告。

 もうアデルの頭の許容量を超えた。

「い、嫌です。死にたくなんて、ないです」

「だったら急げって言ってんだよ!」

「曹長!」

 天幕に隊員が飛び込んで来る。

「隊長が痺れを切らせてます! アデルはまだかって! このままじゃ俺たち大佐殿に!?」

「うっっせ! お前は腹芸でもして大佐殿を楽しませてろ!」

 今飛び込んできた隊員をゴードンは蹴飛ばして追い出す。

「よく聞け、アデル。お前はちゃんと軍服を着て大佐殿にニッコリ笑ってれば良いんだぞ? いつも笑ってるんだから出来るよな?」

 アデルの両肩を掴むゴードンの手は震えていた。

 しゃがみ込んでアデルよりも視線を下げ、半ば懇願する。

「分かり、ました」

 初めて見るゴードンの姿を見てアデルは滑稽だとか可哀想だとは思わなかった。

 それよりも目の前の人物をこれほど恐れさせる相手に合わなくてはいけないと気付いて恐怖が増大する。

「よし着替えたな。ほら行くぞ。いやちょっと待て。俺も着替え直す」

 いつも乱暴者だったゴードンが軍服をきっちり着てアデルを紳士的にエスコートする。

 そして二人は作戦指揮所へ。

「イグアス少尉! アデル二等兵をお連れしました!」

「入れ」

 隊長の声にゴードンとアデルは作戦指揮所の中へ。

 中では第五前線駐屯地の士官たちが中央の戦線図を囲んでいた。

「ずいぶんと時間がかかったな?」

 問い詰めるような冷たい隊長の声。

「も、もうしーー」

「大変申し訳ございません!」

 震えるアデルの謝罪を被せるように大声でゴードンは頭を下げた。

 力強い手がアデルの頭も下げさせる。

「なにぶん女の支度だったもんで、どうかご容赦を」

 普段なら言わないようなセリフをゴードンは事前に考えていたかのようにベラベラと喋る。

「女かどうかなど関係ないっ! ここは戦場であり、前線だぞ!」

「まあ、まあ。私が急がなくて良いよと伝えたのだから怒らないであげてくれ」

「は! 大佐殿がそう仰られるならば」

「さて」

 士官たちがゴードンとアデルを睨みつける中、マスクド大佐は微笑む。


《顔をあげて良いよ、お嬢さん。君のお名前は?》


「えっ?」

「おいっ!」

 思わずあげた頭をゴードンによって再び下げられる。

「大佐殿の許しがあるまで頭をあげるんじゃねえ」

 小声で、だが脅すようなゴードン。

 それにアデルは混乱する。

 だってマスクド大佐は、と。


《とって食おうなんかしないよ。お名前を教えて欲しいな》


 落ち着いた優しい声で問いかけて来た、と。


《アデルです。アデル・ヴィグナ二等兵です》


 頭を上げさせてもらえないので声だけで答える。


《アデル。良い名前だね。私はカーネル・マスクド。階級は大佐だ。よろしくね、アデル》

《は、はい、大佐殿》


 作戦指揮所の士官たちは唐突な会話に困惑した。

 だが中には学もあり、二人が帝国語で自己紹介していることに気付く。


「お、おい。さっきから何をーー」

「ゴードン曹長、アデル二等兵。顔をあげて良いよ」

 穏やかなマスクドの声に二人は恐る恐る顔をあげる。

「私とアデルで話をしたい。他のみんなは退室して良いよ」

 士官たちは敬礼と共に短く答えると命令通りに作戦指揮所から足早に出ていく。

「……曹長。私は君にも退室をお願いしたんだがね?」

「あ、いや」

 ゴードンは口籠る。

 なんとしてでもアデルとマスクドを二人っきりにしたくはなかった。

 彼が今までアデルにして来た行いが、もしアデルの口から語られたら不味いからだ。

「アデルが心配でして。こいつ、この基地で一人だけの女なんです。いつも俺が居ないと怯えちまって。なあ?」

 ゴードンはアデルの弱々しい肩を抱く。

 仲の良さをアピールするために。

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