二等兵 アデル3
連邦軍西部第五前線駐屯地。
そこが今のアデルの家だった。
仲間の隊員たちと部隊に与えられた天幕に入る。
そこまで来てアデルはやっと生き延びたことを感じる。
だけど基地は決してアデルの安息の場所ではなかった。
「アデル〜」
まるで猫撫で声のようにアデルは名前を呼ばれる。
反射的に硬くする身体。
彼女の小さな身体は二回りも大きい男の腕に後ろから抱かれる。
「ご、ゴードン曹長」
アデルは微笑む。
頬を引き攣らせた震える声で愛想を見せる。
「曹長なんて硬いじゃねえか。さっきも一緒に戦って、夜も仲良くしている仲間だろう〜?」
グッとアデルの胸がゴードンの腕で潰される。
ゴードンはアデルの部隊の副隊長であり、体格も連邦軍の中でも恵まれていて、作戦能力も高い。
彼は上からも他の隊員からも評価されていて足手纏いになっているアデルは逆らえなかった。
それを分かっているゴードンは他の男からアデルを守ってくれている。
戦場といういつ死ぬかも分からない場所で精神的に追い詰められている男たちの中にか弱い女が一人。
アデルは何度も身の危険を感じた。
そこから救い出してくれたのはゴードン。
だが、ゴードンも決して高潔な男などではなかった。
「おい! 今昂ってるから人払いしておけ!」
仲間の隊員たちは二つ返事で天幕から出ていく。
「汗で臭いので」
「気にしねえよ」
ベットに押し倒される。
ゴードンの目的は他の男から守る代わりに、自分に奉仕させることだった。
仲間の隊員たちも素直に従うのは、ゴードンに従えば“分け前”がもらえるから。
「ふう〜。さっきは危なかったな〜。俺が居なかったら死んでたんだぜ?」
「そう、ですね」
事実だった。
何度も死にかけたところをアデルはゴードンに救われた。
だから感謝の気持ちはあった。
こんなことをされなければ好意だって湧いたかもしれないのに。
「…………」
アデルを覆うのは軍服を脱ぎ捨てた半裸のゴードン。
すでにベルトも外している。
もういつもの光景だった。
アデルに恥ずかしさもない。
一時間喘いで、もう一時間奉仕をすれば終わる。
そうすれば隊員たちはまた優しくしてくれるし、守ってくれる。
アデルはそうして前線で半年間生きて来た。
アデルの軍服も脱がされる。
自分の酸っぱい汗の匂い。
ゴードンはそれも好きだと言う。
だったらアデルに抵抗する理由はなかった。
「はは。今日も俺ので喘がせてやるからな、アデル」
腰をグイッと引っ張られる。
アデルは目を閉じる。
「お、お疲れ様です! 大佐殿!」
外の声でアデルは目を開ける。
すぐ目の前には血走った目のゴードンの笑み。
「い、いや。今は少し取り込み中でして。アデルは、えと」
外で隊員が誰かと話している。
「ちょっと待ってください! すぐに呼びますんで! 曹長! ゴードン曹長!」
「……チッ。邪魔すんなって分かってるよな?」
天幕に入って来た隊員に苛立ちを露わにするゴードンがアデルから離れる。
アデルは身体を丸める。
もう羞恥心などないが、自然と身体を隠す。
「で、ですが、大佐ですよ!? 俺なんて口答え出来るわけないでしょ!?」
「大佐だあ?」
どうやら階級は遥かに上の佐官。
だけどゴードンは経験則から学んでいた。
どうせ後方のデスク仕事で成りあがっただけの奴だと。
いくら階級が上だとはいえ、評価も高く、前線で活躍している自分の敵ではないと。
ゴードンは服装も直さずに天幕を出る
「はいはい。大佐殿何用です、か?」
ゴードンの表情が凍りつく。
相手が大佐だからでも、隣に立っているのが自分の隊長だからでもない。
「少尉。君の部隊では上官の前でも半裸で良いと教えているのかい?」
ゴードンを見あげるのは細面の男。
身長はゴードンよりは頭ひとつは低いが、男性としては高い方だろう。
軍服をかっちり詰襟のボタンまで留めていて、ゴードンたちの戦闘服と呼ばれる迷彩の軍服とは違い、黒一色の士官服は土汚れは一点もなく、彼の潔癖さと内地からの来たことを窺わせる。
ゴードンは本来、こんな見た目だけの男なんて怖くもなかった。
目の前の男はまさに細くてすぐに日和りそうなデスク出身の軍人。
だが、彼だけは違うのだ。
「答えたまえ、イグアス少尉。ここではこれが上官に対する姿なのかと」
笑顔のまま細面の大佐は隣の隊長に問う。
「いえ。お許しください。先ほど基地に帰投したばかりでして。汗を拭うために脱いだのかと」
硬い表情で返答する隊長。
その瞳は烈火の瞳でゴードンを見上げていた。
「そうか。それは悪いことをしたね、ゴードン曹長。君の活躍はうちにも伝わっているよ。敵の高射砲陣地を制圧したらしいじゃないか」
「は、は! ありがとうございます、大佐殿!」
ゴードンは目の前の大佐と目を合わせることが出来なくなり、宙空を見て虚勢を張って返す。
「それでここにはアデル二等兵が居ると聞いているんだがね。彼女も汗を拭っているのかい?」
「は、はい!」
「男女同じ天幕で?」
「は、はい! い、いえ!」
ゴードンは青褪めた。
形骸化しているとはいえ、本来、男女の更衣は分けられていた。
だが、この基地ではアデルぐらいしか女はおらず、彼女を自分の物のように扱っている隊員たちは配慮していなかった。
「では天幕でしっかり分けているんだね。素晴らしい配慮だ」
「ありがとうございます!」
「では別の場所で待たせてもらおう。アデル二等兵には急がなくて良いよと伝えてくれたまえ。作戦指揮所に居るから来るようにと」
大佐は自分よりも背の高いゴードンの肩を手を伸ばして叩く。
「これからの活躍も期待しているよ。それでは」
「大佐、こちらへ」
隊長は大佐を作戦指揮所に案内するために共に消えた。
「お、俺、生きてる」
ゴードンは安堵から膝をついた。




