白衣の天使2
取材の記録は続く。
拘束された私たちは再び捕虜収容所に送られました。
脱走した私たちに与えられたのは今までよりも過酷な労働と拷問でした。
そして私はやっと気付いたのです。
脱走が上手くいったのも、また捕まったのも。
私が恋した衛生兵の女性の掌だったからなのだと。
彼女の優しさや労りは私を油断させるため。
私は彼女の思惑通りに情報を話し、動いてしまったんです。
だって誰が思いますか?
優しい衛生兵が、実は白衣の天使の皮を被った悪魔の尋問官だと。
「……え?」
カリナはハディを見る。
兵士の命を守る衛生兵が実は残忍な尋問官だったって。
真逆の役割を演じた一人の女性。
カリナは末恐ろしかった。
「狡猾だよな。拷問で耐える捕虜に優しく語りかけて情報を引き出すなんて。だけどこの証言が本当なら恐ろしい女だよ」
「だけどこれは凄い話じゃないですか!? ああ、もったいない。検閲がなければ記事に出来たのに」
自国のことであるが、もし記事に出来て発表されれば現政府や連邦軍を揺るがす情報だった。
記者のカリナにとっては大スクープだ。
「いや、それがな」
対してハディは苦しそうに呟く。
「別に検閲を恐れて出さなかったわけじゃないんだ。編集長を説得して記事にしようとさえした。実際、ほとんど記事は書き終わっていたしな」
「えっ!? だったらどうしてですか?」
「次のページを見ろ」
「次?」
カリナは言われた通りページを捲る。
『国営印刷所勤務。ドーブル・ダナー。三十五歳。ダリス川で水死体として発見。泥酔による川への転落か』
それは去年の新聞の切り抜きだった。
知らない男性の名前。
だけどカリナには分かった。
ハディの取材を受けていた匿名の男性だ。
「……ただの事故死じゃないですよね?」
カリナの声は震えていた。
彼女は記事の切り抜きとハディの表情から察していた。
「ああ、タイミングが良過ぎると思う。俺が取材して記事の内容を本人に確認しようとしていた矢先だった。情報を提供してくれた彼は死んだ。いや殺された。俺に過去の連邦軍の罪をバラしたから。だから俺は怖くなって記事の発行をやめたんだ。次はお前だって言われているようだったから」
「ーーっ!」
カリナの恐怖は増幅する。
正体不明の何かではない。
明らかに大きな組織が動いている事実に。
「確かに。これは記事に出来ないですね」
そっとカリナはハディの手帳を閉じる。
この話には関わらない方が良い。
関わったらきっと殺される。
「…………」
だけどカリナの好奇心と正義感は抑えられていなかった。
今なお活動しているであろう大きな組織
そして噂の連邦特殊部隊。
カリナにはその二つが繋がっていると思った。
「ハディさん。他にも取材の当てってあったりしますか?」
「あるにはあるが……まさかお前、追うのか? やめておけっ!? お前も殺されるぞ!」
「ですが大スクープですよ。これが世に出れば世界中が注目します!」
「命の方が大切だ。良いからやめておけって。ろくなことにならない。人を殺すほど隠したいことなんだ」
「でも……」
カリナには分かった。
一度、殺されるかもしれないという恐怖を感じたハディを説得は出来ない。
「この手帳だけお借りします」
「あ、おい!?」
カリナはハディの制止も聞かずに雑誌社を飛び出した。




