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衛生兵 ベルナ  作者: mask
雑誌記者 カリナ

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2/11

白衣の天使1

 それは戦時中のことでした。

 今から十二年前。

 終戦からだと二年前のことですかね。

 私は従軍二年目で伍長になったばかりでした。

 最後に従軍したのはバデルという街の防衛戦でした。

 そこで負けて、私はこの連邦の捕虜収容施設に移送されました。

 今からお話しするのはそこでのお話です。


《起きろ! グズども!》


 当時の私は連邦語が分かりませんでしたが、帝国の軍人が私を叩き起こしたのは分かりました。

 毎朝日が昇る前には起こされて、重労働を課されて、わずかな食事と体罰を喰らい、気絶するように眠りました。

 明らかな条約違反でしたが、仲間の誰も言えませんでした。

 もちろん私も。

 敵国の捕虜収容所でそんなことを言っては殺されるに決まってましたから

 そんな生活で一番辛かったのは捕虜収容所に在籍していた尋問官による拷問でした。


「拷問って!?」

「いちいち反応するな」

 声をあげるカリナは窘められる。

「捕虜の強制労働も拷問も国際法上違反なのは分かっている。だけど当時は帝国も、俺たちの国の連邦もやっていた。むしろ誰もが地獄だって言っていた戦争で法を遵守した国がいくつあるか。それにその話題はデリケートってやつだ。絶対に記事にするなよ? 編集長は通っても、もし検閲に引っ掛かったら当局にしょっぴかれるぞ。戦勝国が国際法を違反していたなんて外聞が悪過ぎるからな」

「分かってますよ……」

 カリナの記者魂とわずかな正義感が不服そうだが、当局の恐ろしさはカリナも分かっていた。

 引き続き取材の内容を読み進める。



 私は将官ではなく、一兵士ではありましたが、他の仲間と一緒に拷問にかけられました。

 椅子に拘束され、罵声を浴びせられ、殴られ、水を浴びせられ。

 伍長でしかない私は吐くような情報を持っていませんでした。

 それでも尋問官は私から情報を吐き出そうと必死でした。

 だから私もどんな拷問を受けようと情報を吐きませんでした。

 どんな些細な情報でも、どんな影響が出るか分からなかったので。

 だけど私も人間です。

 気が狂いそうな日々でした。

 それを耐えられたのは、ある女性の存在です。

 捕虜収容所に所属している女性の衛生兵でした。

 彼女はまだ年若いながらも少佐の位にあり、尋問官たちも不思議と彼女には従順でした。

 だけど彼女は少佐という位でありながら、私たち捕虜に拙いながらも帝国語で気さくに話してくれ、拷問の傷も心身ともに癒してくれました。 

 いつしかその優しさに私は恋に似た想いを持ってしまいました。

 もし、戦争が終わったら。

 そんな考えもありました。


「あの。これいつ特殊部隊の話が出てくるんですか? なんか優しそうな女性衛生兵との禁断の恋バナが始まりそうなんですが……」

「まだ序盤だ。良いから読み進めろ」


 彼女の笑顔に救われながら生き延びた日々が数ヶ月経った頃でした。

 我が軍の顔見知りの大尉が捕虜収容所に移送されて来ました。

 私たちは無事を喜び合い、彼は私の痩せ細った身体を悲しみ、義憤し、泣いてくれました。

 そして教えてくれたんです。

 自分はこの収容所の捕虜を解放するために送られてきたと。

 三日後の夜に仲間の帝国軍が捕虜収容所を攻めて、私たちは内側から混乱を起こして脱出する手筈だと。

 すぐさま他の捕虜たちに伝え、決起の日を待ちました。

 ですが私には心残りがあったんです。

 そうです。

 私が想いを寄せた女性衛生兵の安否です。

 いくら衛生兵が保護される立場であっても、混乱した戦場では絶対はありません。

 だから私は彼女に教えたのです。 

 仲間がここを襲撃する。

 だから私と一緒に逃げようと。

 彼女は国や立場のこともあって渋りましたが、説得を続けてやっと首を縦に振ってくれました。

 そして作戦当日の夜。

 私は仲間たちから離れて彼女のそばにいました。

 いつでも捕虜収容所から一緒に逃げられるように。

 離れないように手を繋いで。

 そして爆破の音を聞いて私たちは飛び出しました。

 収容所の捕虜の仲間は混乱を起こすために帝国の守備兵や尋問官に掴み掛かり、武器を奪っては反乱を起こしました。

 私も反乱に加わる予定でしたが、この混乱で流れ弾が彼女に当たってはいけないと思い、隠れながら出口を目指しました。

 逃げる中で撃ち殺された仲間の遺体に何度も遭遇しましたが、私は彼らを見捨てて走りました。

 私は帝国の仲間よりも連邦の女性を選んだんです。

 でも後悔はなかった。

 罪悪感もなかった。

 逃げて二人で幸せになることしかない最低な男だったんです、私は。

 やっとのことで逃げた先は味方部隊との合流地点。

 私たちは保護され、逃げ延びた捕虜の仲間も助け出されました。 

 この作戦の立役者である知り合いの大尉も無事でお互いに抱き合いました。

 ですが、私たちは嵌められたんです。

 初めは空に光が打ち上がったのを呆然と見つめました。

 それが照明弾だと気づいたときには遅かったんです。

 部隊はいつの間にかに連邦軍に取り囲まれていました。

 次々に仲間は殺され、生き残った者は拘束されました。

 その時のことはもうパニックで細かいことは覚えてません。

 ですが、ただ。

 未だに忘れられない光景があります。

 それはーー


「照明弾の明かりの下で私を見下ろす彼女の笑みでした」

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