二等兵 アデル7
「……んっ」
ごろりと寝返りをうつアデル。
それと同時に意識が浮き上がっていく。
それは耳や目に繋がっていき、彼女はゆっくりと覚醒していく。
「起きた?」
「っ!?」
ガバッとアデルは起きあがる。
すぐに周りの状況を確認。
それが彼女の癖になっていた。
「あ、えと」
怯える小動物のようなアデルに笑いかけたのはマネリ少尉。
「そんなに怯えないでよ。ここでは誰もあなたを穢したりしないから」
パサっとマネリは紙束をデスクに置く。
その言葉でアデルは自分の経歴がマネリに知られているのだと察する。
ぎゅっとかけられていた布団を握り締める。
「お腹はどう? 空いてない?」
「…………大丈夫、です」
くうううう。
「ーーっ!?」
全身の血が頭に回るほどの熱をアデルは感じた。
今までだって空腹を感じていたことはあるが、こんな上官の前で無防備にお腹を鳴らしたことなんてなかった。
「ふふっ」
「ううっ。申し訳ありません」
恥ずかしさでアデルは俯くしかない。
「謝らないでよ。食事にしようか。行こ」
マネリが立ち上がったのでアデルも急いでベットから降りる。
「おはようございます、少尉殿」
「おはようございます、少尉殿!」
「帰って来ていたか、少尉」
すれ違うが軍人たちが立ち止まり、マネリに敬礼を贈る。
マネリは笑顔でひらひらと手を振る。
中には彼女より上の者もいた。
だけど誰も彼女の行いを咎めたりしない。
むしろ笑顔で挨拶を返す。
「…………」
対してアデルは挨拶されるたびにびくりと震える。
誰もアデルに暴力を振るわないし、下品な瞳も笑みもない。
それでも凝り固まった男性への忌避感や恐怖はなくなっていない。
廊下を進み続けると、マネリは足を止める。
「ここが食堂だよ。ピークが過ぎたからちょうど空いてるね。はい」
マネリに渡されたトレーをアデルは受け取る。
「伍長〜。伍長〜。サンドラ伍長〜」
「なんだなんだ。うるさいな」
厨房から顔を出したのは恰幅の良い男の軍人。
頬の傷が威圧感を増している。
「今日のメニューは何〜? お腹空いちゃって」
「今日はカレーだ。って、こいつか? 例の新人っていうのは?」
「あ、その」
サンドラと呼ばれた軍人はアデルを値踏みするように見下ろす。
先ほどから男性軍人に会っていたが、もはや猛獣と子鹿である。
「そうですよ〜。わざわざ車を飛ばしてスカウトして来たマスクド大佐殿のお気に入り。ちっちゃくて可愛いでしょ〜」
「ふん」
サンドラは鼻を鳴らして厨房に戻る。
「わ、私っ、何か伍長に失礼なことをっ!?」
「怖がり過ぎだよ、アデルちゃん。確かに伍長は前線に居たときは敵兵の首の骨を折るのが趣味だったらしいけど、怪我でこの基地に来てからは鶏の首の骨しか折ってないから」
何も安心出来ないフォローはアデルをさらにビクつかせるだけだった。
「ほら、たくさん食って大きくなれ」
アデルのトレーに置かれたのはルーが皿から溢れるほどの大盛りカレー。
「あ、アデルちゃんずる〜い。伍長〜。私にもサービスしてくださいよ〜」
「お前は十分でけえだろうが」
「あっ! 今、私のおっぱいを見て言いましたね! セクハラですよ! セークーハーラー」
「あ、あの。私がこんなに食べられないので。よろしければ」
「……伍長のせいで私が食いしん坊キャラになったんですけど」
「知るか」
普通盛りがマネリのトレーに置かれる。
「食べますか?」
「冗談! 冗談だからね〜! 私もそんなに食べられないから〜。ほらほら! 席に着こ?」
マネリに促されてアデルは一緒に席に着く。
他に食事を摂る者はすでにおらず、ゆっくりと食事を摂れそうだった。
「いただきまーす」
「いただきます」
スプーンを手に取ってカレーを口に運んでいく。
「んっ。美味しい」
思わず出たアデルの声。
隣のマネリは優しげに微笑む。
「美味しいでしょ、伍長のカレー」
「は、はい。美味しい、です」
アデルのスプーンは止まらなかった。
山盛りだったカレーが徐々にだが、確実に皿からなくなっていく。
そしてついには完食してしまう。
「わあ! 食べたね〜。三人前ぐらいはあったと思うけど。見た目と違って食いしん坊なんだね?」
「す、すみません。はしたなくて」
アデルは自分でも驚いていた。
普段の食事では一人前どころか途中でやめないと吐いてしまうというのに、今はお腹が膨れるほどカレーを詰め込んだというのに吐き気もなく、満腹感からの幸せな気分だった。
「良いよ良いよ。なんか私まで嬉しくなったし。おかわりする?」
「い、いえ。流石にお腹いっぱいです」
アデルの手は自らの腹部へ。
マネリに満腹を示す。
「それは良かった。じゃあ次に行こうか」
すでに食事を終えていたマネリが立ち上がったので、アデルもトレーを持って続く。
「ごちそうさまでした〜」
「お、美味しかったです。ごちそうさまでしたっ!」
感謝を伝えるためにアデルは厨房に声を張る。
「おう! 腹が減ったらまた来いよ」
ニカっと爽快なサンドラの笑みにアデルも思わず微笑む。
「はいっ。これからもよろしくお願いします」




