"キャンドルパーティーは盛大に"
「死蝋に、恋なんか出来るもんか」
そう言うと骸骨が嗤う
一切の音が無い、仄暗い地下管理庫の中で、その声は耳障りに響き渡った
「あんまり笑うなよ」
僕は握った拳で骸骨を叩く
一介の壁掛けに過ぎない彼は、哀れにも僕の拳を頭蓋に受けてぐらぐらと揺れた
「動けないヤツを叩くのは卑怯過ぎないか?」
抗議する骸骨を今度は蹴飛ばす
彼が大袈裟な音で振り子のように揺れるのが面白過ぎて、つい蹴飛ばし過ぎてしまった
骸骨はすっかりしょげて、言葉を話す元気さえ失った様だった
「死蝋にだって」
「恋は出来るんだ」
保管庫には旦那さまの趣味で、様々な『人間で作られた変なもの』が保管されて居る
僕もそうした『変なもの』の一つであり、簡単に言えば『死後に全身が蝋と化した少年の亡骸』だ
この様な屍体は稀らしく、僕は基本的にはガラスケースに保管され、定期的に躰をメンテナンスされて居る
僕が恋をして居る相手もまた『死蝋』であり、『少年』だった
いつも彼は、僕の向かい合うような陳列のガラスケースに保管されていて、今みたいな『誰も視てない、動いても大丈夫な時間』にすら動こうとしない
意思自体はちゃんと存在するらしく、考えの読み取れない視線で僕を視て居る時がある
彼の眼で視られると、僕はいつも胸がむずむずして眼を逸らしてしまう
いつの頃からか、僕はそれが『恋』だと解り始めて居た
「ねえ」
「隣、良いかな?」
ガラスケースの中で物憂げに、椅子に座って居た死蝋の少年の隣に、僕は無理矢理に腰掛けた
無理に腰掛けた事もあり、ほとんど僕は椅子になんて座れて居なかった
それに気が付くと少年は「座りなよ」と、少し自分の座る位置をずらして場所を空けた
それでも座ると躰同士が触れ合って、僕は在る筈も無い心臓が溶けてしまいそうな程にすら思えた
少年の肌はしっとりとして居て、でもはっきりと、氷より冷たかった
その時、管理庫に通じる階段から慌ただしく騒ぐ声が聞こえた
声達は口々に「火事だ」という内容の事を騒ぎ立てて居た
「逃げよう」
僕は少年の手を握ると、立ち上がった
しかし、少年はきょとんとした顔で「何処へ?」と僕を視る
「階段、ないし階段の上が燃えているなら」
「普通の生き物ならまだしも、僕たち蝋細工は助かる事が出来ないよ」
握っていた手がこちらを強く握り返して、僕を椅子に座らせた
「それよりも話そうよ」
「僕たちは、どれくらい視つめ合って居たと思う?」
「………二百三十年」
「正確には二百三十二年と、六十五日だよ」
この部屋の唯一の扉が、勢い良く開く
そこから顔を視せたのは上の階からの助けなどでは無く、激しい炎と、それによって起こる熱い風、そして死だった
「ずっと好きだった!」
時間的猶予が無い事を感じ、僕は少年に端的な気持ちだけを話した
少年はふふっ、と笑うと「知ってるよ」と答え、僕の頬に触れた
炎が、部屋の総てを芥に変えていく
僕たちは溶け始めた手を繋ぐと、少しでもお互いの躰が絡み合う様に、きつく抱き締め合った




