2話
どのくらい歩いたんだろう。今はどこにいるんだろう。どこかの山奥。ずっと歩いてきて、足の感覚が無くなってきた。寒い。もう歩けない。私はその場に倒れた。きっと、私はこのまま死ぬ。でも、それがいい。何もしたくなかった。何もしないまま死ぬ。なんと、心地良いことか。やっと終われる。久しぶりに寝れる気がした。
目が覚める事は無いと思ってたのに目が覚めてしまった。しかし、昨日眠った場所とは違う場所。何も無い草原。今ちょうど日の出の時間だった。鋭い陽の光が目に刺さる。ここはどこだろう。誘拐でもされたか。それにしては、拘束は無いし誰も居ない。それどころか建物すらない。
私は死んだ。絶対に。じゃあ、これは夢?もしかして、生き返った?めんどくさい。やっと死ねたのに、まだ生きるなんて。もう1度死ぬまで寝よう。誰も居ない上に、せっかくいい天気なんだ。大の字で寝るのも……そう思って左右の手を広げると右手と左手で感じる地面の感触が違う。左手の方が湿っている。不思議に思い、手だけで地面を探っていると左手に何かがあたった。少し湿った丸い何かをつかみ、左手の方を見た。手には血が付いている。
「ひっ!」
驚いて掴んでいた何かを落としてしまった。ころころと転がるそれは、眼だ。眼球だ。ゾッとして急いでそれから距離をとる。私が寝ていたすぐ横に血の跡がべったりと付いていた。自分の状態を確認する。どこも痛くない。眼もちゃんと付いている。じゃあこれはなんの眼なのか。人の眼なのか?なんで眼だけがあるのか。パニックになりつつも、落ち着くために深呼吸をする。
眼の持ち主が何かに襲われ逃げ出したかのように、血の跡が何処かに続いている。辿るべきだろうか?いや、襲われて逃げたなら襲った奴も追っかけるはず。じゃあ、反対方向に行こう。もう一度、寝たい。邪魔はされたくない。少し離れた場所に…
…寝れない。あの場所から離れて寝転んでみたものの、やっぱり気になる。それに、太陽が眩しい。しばらくは寝れそうにない。いい加減ここがどこなのかも気になってきた。ちょっとだけ、歩こう。眼の事は忘れよう。
しばらく、歩いてるとのどが渇いてきた。死にたいと思ってても体は生きようとする。見渡す限り何もない草原。水分補給なんてできそうにない。まぁべつにいっか。わたしは死にたいんだ。すぐにでも。あれ?じゃあ、べつに危険そうな場所を避ける必要はないんじゃない?眼のことは気になるし、やっぱり血の跡を辿ろう。
辿った先には死体があった。顔は血まみれのスーツを着たおじさん。さっきの眼は、この人のだ。寝ているような顔。じっと、その顔を見ていると瞼が動き
「誰か居るのか?」
死体が喋った。




