勝負しませんか
佐光たちは休み時間には常に誰かが成田に喋りかけていた。
成田は笑顔を時々見せて、少しだけ1年の時の成田に戻ってきたような気がしていた。
成田のことは佐光たちに任せて、俺は先輩の方をなんとかしなくてはと考えていた。
そんな時、教室のドアが勢いよく開いた。
「佐野藍人はいるかー?」
先輩から出向いてくれた。
「なんか用すか?」
俺は先輩に近づいた。
「ちょっとツラ貸せや」
そう言われた俺は先輩に付いて廊下へ出て行こうとする。
すると後ろから声がした。
「佐野、ごめん」
そう言った成田の顔はとても申し訳なさそうだった。
そんな成田に俺は笑顔で言った。
「約束忘れんなよ」
手をグーにして成田に向かって差し出した。
そんな成田は少し笑顔になってから、力の籠ったグーを返した。
先輩に連れられて、階段脇のスペースまで来ると先輩は俺の胸ぐらを掴んだ。
「成田に友達ができたみたいだが、てめえの仕業だろ?」
「いやいやまさか。彼らが自分で選んで成田と友達になったんですよ」
「あんなやつに関わろうとするなんてバカしかいねえな」
俺は怒りが込み上げてきたが、ここで怒っても何も意味はないので、感情を抑えた。
「先輩はどーしてそんなに成田に執着してるんですか?」
「そんなのてめえには関係ねえだろ」
「エース取られたから……ですよね?」
先輩は「チッ」と舌打ちをしてから答えた。
「てめえにはわかんねえだろうな。自分より下手くそな奴にエースを取られた、俺の気持ちなんてよ」
「わからないですね」
俺は淡々と答えた。
おそらくこの先輩も同じなのだろう。
自分の唯一の居場所であったエースという場所を取られたんだ。
「あいつがエースになってから、俺についてきた野球部の奴らもみんな成田の元に集まりやがって」
先輩の顔はとても赤くなって、今にも爆発しそうだった。
「だからあいつの居場所もなくしてやったのさ」
やり方は間違っているのかもしれない。
でも不覚にも先輩の気持ちがほんの少しわかるような気もした。
「成田の居場所はありますよ。クラスにも野球部にも」
「あるわけねえだろ」
「成田は野球部に戻りますよ。エースなので」
「じゃあまた居場所をぶっ壊すだけだ」
それはただの逆恨みだ。
そんなことをしても誰も幸せにならない。
先輩は自分よりも下手くそな奴にエースを取られたと言った。
ならば、自分よりエースの素質があると認めさせれば良い。
じゃあ俺にできることは……。
「先輩、そんなんじゃ埒があかないです。先輩がどんな手を使ってでも成田を野球部に戻したくないのはわかりました。じゃあ……」
と言って俺は先輩の目をまっすぐ見つめて続けた。
「勝負しませんか」
「勝負? 俺とてめえで殴り合いでもするってんのか?」
「まさか、そんなわけないじゃないですか。野球で、ですよ。それに相手は俺じゃなくて成田です」
「なぜそんな勝負をしなくてはならない」
そう言ってきた先輩に俺は分かりやすい挑発をする。
「負けるのが怖いんですか? 自分より下手な成田に負けるのが」
「そんなわけねえだろ。やってやるよ。てめえらがもし負けたらどーすんだ?」
先輩は見事に俺の挑発に乗ってきた。
「そーですね。もし成田が負けたら成田は2度と野球部に戻らないと約束します。そして僕と成田は、あなたの犬となってなんでも言うことを聞きましょう」
「それはおもしろい。しかしてめえもあんなやつに賭けるなんてアホか?」
もう勝ちを確信したのか、先輩は笑いながら言った。
「その代わり成田が勝ったらその時は、成田と一緒に甲子園目指して下さい」
「は? なんで俺が?」
「なんですか? 先輩が勝つのでしょう?
なら問題ないじゃないですか」
そう言って俺はもう一度挑発した。
「やってやる。後悔すんなよ。1打席ずつやって、先に三振取った方の勝ちだ」
「それで大丈夫です」
そう言って俺は、成田に相談なしで勝手に勝負も挑んだ。
こんな所で負けてたら甲子園なんて行けないだろ。
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