ユメ
ガヤガヤとした喧騒が耳に届く。
失われたはずの手足の感覚が戻る。
「……つっ!?」
頬で感じる冷たさを心地良いと思ったのもつかの間、ハッと顔を上げる。
そこは、いつもとなんら変わりない教室だった。
背筋を伝う嫌な汗から意識を逸らすように首を振る。
そうしていると、横を通りがかった名前も知らないクラスメイトに声を掛けられた。
「あれ? 藤弘、いつ戻ってたんだ?」
「え……?」
「まあ良いか」と去って行くクラスメイトを呼び止めようと腕を伸ばそうとして、机の上に置いていた麻の葉模様の風呂敷に包まれた弁当に当たる。
「玲谷! 飯食おうぜ!」
教室の入り口で自分の弁当を振り回す彼が見えて、思わず頬を緩めた。
「ん?」
彼は、急に廊下の中頃で立ち止まり、なにやら考え込む。
「あれ? 俺……何してたんだっけ?」
視線が下がり、己の手に持つ弁当を見つめると、途端に納得したかのような満面の笑みを浮かべ、駆け出した。
「あぁ! そうだった!」
「……ハッ!?」
少したたらを踏む。
大事に抱えた弁当を落としそうになって、慌てて抱え直した。
(眩暈……? 徹夜は流石にマズかったかな)
「でも……喜んでくれると良いな」
はにかむように微笑むが、それまで横で呆然としていたのに、急に「あぁ! そうだった!」といって走り出した彼を、ため息を吐き、慌てて追いかける。
「待ちなさい! 蘭雨!」
誰も居ない教室で、暫く船を漕いでいた少女が、パッと目を覚ます。
無言で誰も居ない教室をキョロキョロと見回すと、ため息を吐いた。
「寝てしもてたんか……」
眠そうに欠伸を1つすると、机の横にかけていたリュックを手に取り、立ち上がる。
軽く伸びをしながら、教室を出たとき、彷徨っていた瞳がふいに一点を見つめ、柔らかな笑みを形作った。
「……?」
目を瞬かせる。気がつくと、校門の前に立っていた。
持っていた本を取り落としそうになって、慌てて抱え直す。
「……危な……かった」
栞の挟んであるページを開き、歩きながらペラペラと続きを読み進める。
でも、大好きな本なのに、何故か内容が上滑りして頭に入ってこない。
居ても経っても居られなくなり、先程出て来た校舎へ足を向ける。
階段を上りきった先で、教室から出てくる彼女を見つけ、安堵の笑みを浮かべた。
普段から人気の少ない車両で、彼がただ一人座っていた。
目を閉じて、電車の揺れに身を預けていたが、ふと静かに目を覚ます。
開かれた目は、黒々としていたが、光の加減か、黄色の光を放っているようにも見えた。
「ここは……」
誰にも届くことはないが、僅かな声で呟かれたその言葉を掻き消すように、車内放送がかかる。
〈次は~◆◎~◆◎です。お出口は右側です。扉にご注意下さい〉
彼は、「……なるほど」と呟くと、何処かの駅に辿り着いた電車から降りていった。
突然、尻の下にあった柔らかな布の感覚が、固いものに変わる。
ハッと顔を上げると、そこは見慣れた倉庫だった。
「あ? 俺は……?」
ポツリと呟くと、次の計画の指示をしていた男が俺に気づき、近寄ってくる。
「ボス! どこ行ってたんですか!」
(相変わらずデカい声だな)
頭を抑えつつ腰を上げ、振り返ると、前回の獲物や道具を収めている箱が目に入る。
どうやらそこに腰掛けていたようだった。
「あ~すまねぇな、カル。どれくらい待たせてた?」
今にも問い詰めてきそうなカルを右手で制しながら問いかけると、キョトンとした表情に変わる。
「へ? あ~っと……7分くらいですかね?」
「クソが……そういうことかよ」
カルにも聞こえないくらいで悪態を吐く。
…………最悪の気分だ。




