33話。決着とうらぎり
強い決意と共に、己の剣を握る手に一層力を込めた。
目を瞑り、体の中の光に意識を集中させる。
敵を前にしてするには、大きすぎる隙だろう。しかし、これまでのことから魔王が月熾さんを強引に抑えてまで妨害してくるとは思えなかった。
ただ、万が一にもあの小競り合いに飽きて月熾さんを倒した魔王は、無防備な僕を倒し、色奈と凛にも手を掛けるだろう。
……だからこれは“賭け”だ。
月熾さんが抑えてくれている間に感覚を掴み、出来るかも、効果があるかも分からない一撃に全てを込める。という……圧倒的強者の戯れに期待する、賭けだ。
頭が可笑しいと言われるかも知れない。
結局、皆を危険にさらすだけかも知れない。
でも、魔王を前にして実力差を悟った僕にとって、砂丘で一粒のダイヤを探すようなものだとしても、可能性があるものに縋るしか無かったんだ。
(これ……かな?)
暫く集中すると、凛の回復に似た、しかし少し違った力が体内を満たしているのが感じ取れた。
微かだったその力に意識を向けると、気のせいだろうか。次第に光はほんのりと温もりを帯びるようになった。
(剣に流していくようなイメージ……)
その温もりが腕に集まっていくようなイメージを浮かべると、あまりにもあっさりと腕の方へ集まりだした。
少し腕が暑くなってきたので、そっと押し出すように剣の方へ温もりを流す。
一瞬の抵抗の後、温もりは剣へ向かう。それと同時に剣の柄がパッと光り、剣身に一筋の光が宿った。
(……出来……た?)
確信が持てず、体内の温もりが3分の2を切るまで流していると、剣の柄全体が光を帯びるようになり、微かにバチバチという音が聞こえる気がした。
(こ、これ大丈夫なのかな……)
よく見ると、少し黄色がかった白い靄のような光が、一気に剣に宿ろうと突撃し、入り込めず、弾かれている音のようだった。
何故かこれではいけない気がして、今度は剣の周りの光を、剣を覆うように薄く広げていく。
すると、さっきまで剣に弾かれていた光が、剣を薄く、広く覆い、剣には光の膜がある状態になった。
(これなら!)
警戒させないためにも鞘へ収めると、久し振りに意識を戦いへと向ける。
月熾さんの攻撃は、未だ魔王にあしらわれていたが、前に見たときより、大ぶりな躱し方になっているように見えた。
月熾さんの攻撃が洗練されると共に、受けている魔王側にも余裕が無くなってきたのだろう。いや、そうであって欲しかった。
魔王が月熾さんに気を取られている隙にと、前傾姿勢を取り、床を鋭く蹴る。
既に、右手は柄に。左手は鞘に添えられていた。
「月熾さん! 退いて下さい!」
あと数歩で辿り着くといったところで、素早く剣を抜く。
月熾さんが横に飛び退り、視界を遮るものが無くなった魔王が此方を視認した途端、目を見開いた。
「なっ!? それは!」
隠しきれないほどの焦りを顔に浮かべ、回避のためか、腰を浮かせて腕を振りかぶった魔王を斬撃が襲う。
「貴方はダメですよっと!」
思ってもいなかった方向からの不意打ちを受け、魔王は尻餅をつくように玉座に再び腰を落とす。
大したダメージではないものの、両足には微かな切り傷が確かに刻まれていた。
「はあっ!」
月熾さんが作ってくれた隙を逃すまいと、振りかぶった剣を力一杯振り下ろす。
「クソがっ!」
しかし、スキルの補助があるとはいえ、所詮初心者の動き。上半身を捻ることで致命傷は躱されてしまった。
しかし、確かに体には当たったようで、手に握った剣は、肉を抉り、骨を断つ感触を伝えてきた。
その感覚は妙に生々しく、しっかりと握っていたはずの剣を取り落としてしまいそうなほど、震えが止まらなかった。
「ここでっ……終わらせはしないっ!」
突如聞こえた魔王の掠れた叫びに、ゾワッとした感覚が背中を走り、後ろに飛び退る。
腕を振り切る魔王と、黒い塊が見えたその瞬間、さっきまで立っていた床が鋭く抉れた。
(もしあのままあそこに居たら……)
2つに分かたれた自分を想像し、血の気が引く。
警戒を高めて、直ぐに回避が出来るように構えるが、一向に来る気配が無い。
「あれ……?」
拍子抜けしつつ、魔王の方を見やると、先程抉った傷口からは、何故か骨も、肉も、臓器も、血さえも見えない。
ただ黄色がかった光が、傷口から広がり、ホロホロと肉体を解いていた。
今や全てを諦めたかのような色を宿しつつ、最期は驚きに見開かれていた魔王の目は静かに閉ざされ、本音の無い薄っぺらい言葉を発していた口は、僅かに笑みを浮かべてすらいる。
其処には、苛烈な魔王にさえも平等に訪れる、穏やかな死があるように見えた。
「“彼”は、救いを得たのでしょうか……」
「…………きっと」
そうだといい。僕が口に出さなかった言葉を月熾さんはくみ取ったようで、穏やかな笑みを浮かべると、待っていてくれた色奈達の方へ、歩き出した。
ほんの僅かに抱いたモヤモヤも、ぐったりとした凛を支える色奈が手を振ってくれたことで、“終わったのだ”とようやっと実感できた。
……だから、嘘であって欲しかった。夢であって欲しかったんだ。
笑顔のままの色奈に振り落とされた凛が、何の反応も示さないことも、駆け寄った月熾さんに色奈が“何かの液体で湿った”クナイを向けていることも。
だって、それは……“幼馴染みが、仲間を手に掛けたこと”を意味するのだから。
「なん……で……どう……して……咲……さん……」
小さな凛の掠れた声で、止まった時が動き出す。
慌てて凛に駆け寄り、抱き起こす。
小さな体は、やけに冷たく、既に息も絶え絶えだと分かるほど微かな呼吸をなんとか続けている。
「凛! 凛! しっかりしてくれ!」
「あれ? まだ生きてたんだ」
月熾さんに刃を向けながら、平然として零す咲が、どうしても今まで一緒に居た彼女だとは思えなかった。
「何をっ……!」
「良いん……です……」
口をついて出ようとした言葉が、凛に止められる。
「でも!」
「どうせ……私は勝利条件を……満たせない」
死期を悟ったのか、儚げな優しい笑みを浮かべると、凛は己に冷たい目を向ける咲を見つめた。
「ごめんね……咲さん……貴方の心を……救え……なく……て……」
腕の中の体から、力が抜けていく。
「待って!」
「あぁ……守れなかっ……た……“また”……私は……」
静止の声も虚しく、僕の腕の中で、1つの灯火が今、消え失せた。
(なんで凛が殺されなきゃいけなかったんだ? 僕にも何か……出来ることはあったんじゃないのか?)
自責の念に駆られる僕の耳に、愉しげな咲の声が届く。
「最期まで鬱陶しい奴だったね~でもまぁ、死んだし、良いかな」
その冷たすぎる言葉に怒りが煮え滾る。
信じたくない。でも、信じるしかない。
凛の首筋に残された紫に染まった小さな傷は、休憩所で亡くなった仲間達の死に方とそっくりなのだから。
「なんで仲間を……なんで……」
怒りを込めた言葉も、やるせなさに尻すぼみになる。
独り言のような僕の言葉に、あっけらかんと咲が応える。
「玲谷が悪いのよ?」
「え……?」
「私だけを見てくれないから」
軽く告げられた暴論に唖然とする。
(僕が……僕が悪い……?)
後悔……懺悔……疑念……負の感情が渦巻き、心がグチャグチャになった最愛のものにも気づかず、咲は恍惚とした表情で続ける。
「ねぇ、知ってる?」
「……何を?」
「私、このダンジョンで目覚めたときは嬉しかったのよ? きっとこれは神様が私に与えてくれた希望なんだって!」
玲谷を光のない目でただひたすらに見つめ続ける咲は、言葉が通じる筈なのに、言葉が通じないバケモノにしか思えなかった。
「皆居なくなれば、私は玲谷とふたりきりで居られる! 玲谷は私だけを見てくれる!」
「……………………狂ってますね」
これは……作品キーワードに「ヤンデレ」を追加すべきか……?追加すべきですね。追加します!(自己完結)
ここまで読んでくださり、ありがとうございます。(o_ _)o
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(※ただし、更新が不定期なのは変わらないと思います三(o_ _)o)




