32話。守る力
※〈〉は聞こえた声で、()は本人の心の声です……
ややこしいですよね。すみません(o_ _)o
1度目とは比べものにならないほど鋭い蹴りが、満身創痍の体に刺さる。
ぐったりとしている体は、何の抵抗もなく、魔王の無造作な攻撃によって蹴り飛ばされた。
足が、体が地面から離れる。
頬を撫でる風を感じたかと思うと、一瞬の後、背中に強い衝撃を受け、倒れ伏す。
壁にぶつかったのだろう。
「カハッ……」
幻聴だろうか。壁にぶつかったとき、背中から、ボギボキッという骨の折れる音が聞こえた気がした。
全身が痛む。体に力が入らない。どれだけ念じても、指1本も、ピクリとすら動かなかった。
「玲谷!」
色奈の声がして、閉じかけていた瞼を上げる。
「し……な……?」
未だぼやけたままの視界に、心配そうに僕を覗き込む色奈の姿が映る。
その後ろでは、少しの焦燥を滲ませた凛と、辛そうにボロボロの体を庇いながら凛に支えられ、此方へ向かってくる月熾さんが見えた。
「つっ……きしりさんっ……!」
気合いで腕に力を入れ、体を支えて起き上がろうとする。
ゆるゆると床に置かれた腕は、1度は体を持ち上げるものの、自らの体重に耐えきれず、再び上半身が床に打ち付けられる。
「つっっ!!」
痛みに耐えんと唇を白くなるほど噛み締める僕を見た咲が、僕の体を支え起こしてくれた。
「もう、無理しないでよ……ボロボロなのに……」
その時、月熾さんを支えていた凛が、何か耳打ちされ、駆け寄ってくる。
「玲谷さん……回復を」
「いや……僕より月熾さんを……」
既に疲れが隠しきれないほど表情に出ている凛のことだから、回復出来るのは後数回といったところだろう。
それなら、僕よりも強いだろう月熾さんに使ってほしかった。
「え……でも……」
しかし、凛は僕の体と月熾さんを交互に見やり、困ったような顔をする。
3人の視線を向けられた月熾さんは、僕と同じくらいボロボロの体を引きずりながら、近づいてきて、笑みを浮かべる。
「俺は大丈夫ですよ。このくらい慣れてますから」
その“もう諦めたのだ”と感じさせる彼の瞳は、深い闇を秘めながら、優しく細められていた。
「……」
互いに譲り合う僕らを暫く眺めていた凛が、無言のまま、月熾さんを僕の横に強引に座らせた。
「ふ、冬野さん……?」
戸惑い、問いかける月熾さんに応えるように、凛は僕らに翳した両手にあの、淡く優しい白い光を宿した。
「黙って下さい! 2人とも治します!」
「「は、はい……」」
その有無を言わさぬ態度に、僕ら2人は姿勢を正す。
ずっと傍で支えてくれていたはずの咲は、いつの間に離脱したのか、触らぬ神にたたり無しとばかりに少し離れた位置でそっぽを向いている。
「行きますっ……!」
そのかけ声と共に、凛の手の光が、手を翳した場所からふわりと伝わり、ほわほわとした温もりを与えながら、全身を駆け巡った。
背中だけでなく、全身の痛みが嘘かのように消え失せ、力が入らなかった腕にいつもの力が戻る。
思わず手を握ったり開いたりしながら、感覚を確かめる。
「はっ……はぁ……終わり……ました。どう……ですか?」
息も絶え絶えといった様子の凛の声に顔を上げる。
凛は、汗をとめどなく流し、その顔は心配になるほど青ざめていた。
「凛!?」
焦って駆け寄ると、貼り付けたような笑みを浮かべ、へたりこむ。
「治せたようで……良かった……です」
何か精神的な攻撃にでもあったのかと思い、色奈を見ると、無言で首を横に振られた。
魔王の方を見ても、彼はただ興味深げに此方を見ているだけで、何もした様子は無かった。
「消耗が……激しかったようですね」
同じく全快した月熾さんが、立ち上がり、そっと近づいてくる。
確かに、1度治した後、少し疲れた様子だったのは気になっていた。
(とはいえこれだけの消耗があるのなら、もっと反対しておけばよかった!)
今さら悔やんでも後の祭り。僕らに出来ることは、これ以上凛の回復に頼らないようにすることだ。
決意を固め、凛を見つめる僕は、直ぐ近くで僕らを見つめる狂った瞳に……気づくことは無かった。
「とはいえ……無策でも先程と同じ事が起こるだけでしょう」
「そう……ですね。僕は兎も角、月熾さんでも歯が立たないとなると……」
攻撃を担う2人で顔をつきあわせ、頭を捻る。
「なら! 私も!」
戦力の強化にもなる咲の参加は、ありがたいものではあったけど、凛の守りが居なくなるから。と、2人で説得する。
「む……じゃあ、どうするのよ」
咲はまだ不満そうだったが、一応納得すると、ぐったりしている凛の傍に付いてくれた。
しかし、何か策があるわけでもなく、結局少しずつでも削っていくことになった。
「何か……決定的なダメージを与えられるものがあれば良いんですけどね」
月熾さんの言葉に、何か思い当たるものがあるような、そんなことを感じ、記憶を辿る。
(何か……何かあったような……)
喉まで出かかっているのに、肝心のことが分からない。
月熾さん達が、黙り込んだ僕の様子を伺っているのは何となく感じていたけど、今はそれどころでは無かった。
そんな状態で、頭を抱え、唸っていると、頭の中で既視感のある声がした。
〈ねぇ……なんで“スキル”を使わないの?〉
(スキル……?そうか!)
解放したは良いものの、使い方も分からず、慣れてないものに頼るべきではないと放置していた光魔法の存在を思い出す。
そして、いざ“使おう”とすると、知っていることが当たり前のようにあっさりと“思い出した”。
雑多な情報を、何とか頭の中で纏める。どうやら、今必要な情報は幾つかだけのようだ。
・インターバルは無いが、チャージが必要
・チャージするほど威力が上がる
・力を宿したい物に体内の力を流し込む
・体内の力には限界がある
・当てたものを●●力を持つ
どんな力を持つのかだけは、靄がかかったように思い出せなかったが、なんとか使えそうだと安心する。
少し意識すると、体の中を凛の回復の光と似た暖かい力が巡っているのが感じ取れた。
「藤弘さん? どうされたのですか?」
心配そうな声に、月熾さんの方を勢いよく振り向くと、驚いたのかビクッと震えた。
(……すみません……)
月熾さんに申し訳なくなりながらも、気を取り直して、手招きする。
すると、不思議と未だに動く気配のない魔王が口を開いた。
「なんだ作戦会議か?まあいい、所詮子どもの遊戯。小手先の手口で足掻くのもまた一興だな」
どこか喜劇を見るように面白そうな表情を隠す気のない魔王を横目で見ながら、恐る恐る近づいてきた月熾さんに小声で話しかける。
「1~2分……時間を稼いでくれませんか?」
「魔王を相手に……ですか?」
「難しいですか?」
頼める人が月熾さんしかいないからこそ、不安になって見つめると、月熾さんはベルトに引っかけていた双短剣を取り出すと、大きなため息を吐いた。
「策はあるんですね?」
「これが上手く行くのなら、魔王にも効くはずです」
「……分かりました。ですが、出来るだけ早いと助かります」
渋々といった様子ではあったけど、僕を信じてくれたのか、優しげな笑みを向け、魔王に向き直った。
「今度はお前が相手か。先程、我に歯が立たなかったことをもう忘れたようだな?」
「さて、それはどうでしょうね?」
呆れたような声を出していても、魔王の目は好戦的に輝いていた。
「それはやってみない限りは分からないものですよ」
「なら、やって見せろ」
「言われなくとも!」
再び腰掛けた玉座から動く気配のない魔王に煽るように手招きされ、月熾さんは弾かれたように飛び出した。
走った勢いのまま振るわれた短剣は、おおよそ人間の指が出してはいけないガキンッという音を立てて、魔王の指によって容易く止められるが、気にした様子も無くもう一方の得物を振るう。
月熾さんは何度いなされても、気にすることなく得物を振るい続け、いつの間にか攻撃はより鋭く、より素早く、洗礼されたものになっていった。
少し先で聞こえる戦闘音を聞きながら、目を瞑り、体内の力を意識する。
(月熾さんが頑張ってくれているんだ! 難しいことだと自覚はあったはずなのに、僕が頼んだから……だからこそ! 僕がコレを成功させなきゃ!)
強い決意と共に、己の剣を握る手に一層力を込めた。
人を、物を、場所を守ること、それは想定以上の力となる……
ここまで読んでくださり、ありがとうございます。
更新が不定期にも関わらず、見て下さる方が少しずつ増えて、ブックマークや評価をしていただけることがほんっとうに嬉しいです!やる気が湧いてきます!
まだまだ拙い文章ですが、少しでも「面白い!」「続きが気になる!」と思って頂けたら嬉しいです。




