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31話。魔王とは理不尽で、残酷なもの

「我らが城へようこそ、生き残りし()()()()よ。その蛮勇さに免じて、我直々に相手してやろう」


その傲慢ともとれる芝居がかった言葉でさえ、魔王の重苦しい殺意を乗せて放たれると、恐怖を抱くもの。


心臓を鷲掴みにされているかのような怯えを気力で抑えて、覚悟を決めて剣を構える。


圧倒的な脅威に立ち向かわんと、武器を構え、闘う意思を見せる彼ら。

そんな姿に、対する魔王は「それで良い」と言わんばかりに、怪しく光らせた翠の瞳を満足げに細める。


「皆さん! 決めた通りに!」

月熾さんの叫びに体が反応する。

咲が凛を守れる位置に移動したことを確認すると、月熾さんに一瞥をくれ、魔王に向かって駆け出す。


両手で構えた剣は、思った以上に重く、僕の腕や肩にのしかかってくる。

それはきっと、剣の重さだけではないのだろう。


ともすれば足を取られて仕舞いそうなほど、毛の長い絨毯を慎重かつ素早く駆けていく。


己の命を狙うべく、迫ってくる勇者(玲谷)に、しかして魔王は構えるでもなく、満足げな瞳をいっそう細め、口を愉しそうに歪ませる。


「玲谷! 待って!」

「藤弘さん! 上へ!」

後、数歩で魔王に届く。と言ったところで、咲の悲鳴と同時に月熾さんの指示が飛ぶ。


反射的に足を捻り、前に進んでいた勢いのまま、横に飛んだ。

足を何かが掠める感覚を覚えつつ、とんだ勢いで床を転がる。


回転が止まり、力の入らない左足を不思議に思いながら、両腕で上半身を持ち上げる。


体を起こした僕の目に入ったのは、鎌鼬に合ったかのような切り傷から、じわじわと赤い血が止めどなく流れている自分の足だった。


「え……」

直視したことで、脳みそに情報が届いたのか、ジクジクとした痛みと、焼けるような熱さが足から強く、強く伝わってくる。


「つっっ!」

思わず上げそうになった悲鳴を、必死にかみ殺す。

(咲たちを心配させちゃダメだ!……この程度の傷……!)


そんな小さな呻き声でも、彼は聞き取ったようで、蹲る玲谷の横を素早く駆け抜け、魔王に1人、その両の手で持った双刀で斬りかかる。


大した知識の無い僕から見ても、鋭い攻撃を放ったはずの双刀は、魔王の手によりあっさりと止められた。


しかし、月熾さんは攻撃を止めず、魔王から目をそらすことなく、声を張り上げる。

「どうにか俺が抑えておくので、その間に回復を!」


子どもをあしらうように月熾さんの攻撃を受け流している魔王を警戒しつつ、月熾さんに目礼してじりじりと左足を庇いながら後ろに下がっていく。


凛も駆け寄ってきて、なんとか合流するも、回復の隙に攻撃してくるかも知れないと、凛を手で制しつつ、魔王を睨み付ける。


そんな僕らの考えなど不要とばかりに、魔王はその翠の瞳をこちらに向けると、鼻でせせら笑った。

「どうした? 早く回復するといい」


「玲谷さん……とにかく回復を……」

それでもなお警戒していた僕だったが、凛に焦った様子で詰め寄られ、溜息を吐く。

「はぁ……分かったよ。凛、お願いできる?」

「わかっ……た!」

渋々了承すると、パアッと笑みを浮かべた凛が、投げ出している僕の足に近寄った。


凛が翳した掌から、柔らかく、また暖かい白の光が溢れたかと思うと、酷く傷ついた足に優しく降り注ぐ。


傷口から入り込んだ温もりが、そこを中心に体内を巡っているのを感じ取る。


……まさにそれは、奇跡だった。

体内に広がった温もりが、再び傷口付近に集うと、肉を盛り上げ、皮膚で覆い、失ったものを補った。


「っ……終わりました」

表情にほんの少しの疲れを滲ませながら、凛はほっとした笑みを浮かべる。


「凛、ありがとう! これなら!」

目の前で起きた奇跡に目を見張りつつも、今はそれどころではないと、勇気を出して助けてくれた凛に礼を言い、軽く足踏みをする。

……これなら、月熾さんの足手まといにはならないだろう。


床に落とした剣を拾い上げ、治ったばかりの左足に力を込め、走り出す。


視線の先では、未だに椅子から動く気配のない魔王が、月熾さんの攻撃をあしらっていた。


「月熾さん!」

声を張り上げる。

それだけで意図は伝わったのか、月熾さんは此方を横目で確認すると、魔王の前から飛び退った。

「もう大丈夫ですか!?」

「はい!」

早速斬りかかろうとするが、すれ違いざまの僕らの会話を聞いたからか、魔王に動揺する様子は無い。


「ほぅ……次はお前か。さあ、遠慮せずかかってくるといい」

「言われなくとも……!」


勢いを付けて走り出し、両手で持った剣を、右斜め上から魔王に叩き切らんと振り下ろす。


今出せる全力を以て振り下ろした剣は、しかし魔王が体を傾けると、玉座を少し切り裂くのみで終わった。

(そん……な……)

つまらなさそうな魔王の手が、ゆっくりと自分に近づいてくる様子を、どこか他人事のように眺める。


(あぁ……終わりか……)

その手に、その指に、先程の恐怖が蘇り、体の力が抜け、座り込んでしまう。

そこに繋ぎとめていた力が無くなり、剣がカランカランという音を立て、傍らに落ちる。


死を覚悟した僕の耳に、月熾さんの声が響いた。

「俺をお忘れですか?」

「忘れてなどいないさ。ただ、我にとって脅威ではないのでね」

「つっ……! 言ってくれますねぇ……」

しかし、月熾さんが繰り出す攻撃は、全て魔王によっていなされる。


それでも諦めず、短刀を振るい続ける月熾さんの手首を魔王は、いとも容易く片手で掴んだ。

「とはいえ……鬱陶しくはある」

そして、言葉とは裏腹に、痛痒にも感じてなさそうな声色で呟いたかと思うと、がら空きになった腹に、軽く拳をたたき込む。


「軽いな」

「!? グウッ」

呻き声のような声を上げながら、月熾さんは反対側の壁にまで飛び、背中を強く打ち付けると、ズルズルと落ちて尻餅をつき、項垂れた。

「月熾さん!?」

なんとか立ち上がり、隙をなんとか突こうと剣を握る手に力を込めていた僕は、驚愕の余り、月熾さんの飛んでいった方へ顔を向けた。


魔王に背を向けた僕に、背後から声がかかる。

「余所見している場合か?」


その低い声を聞いて、慌てて剣の柄を握りしめながら振り向く。

ニヤリと笑う魔王が視界に入ったかと思うと、腹に衝撃が走る。


腹からの痛みか衝撃かで体がくの字に曲がり、下がった視線に、腹にめり込む拳が映った。

自然と体が後ろに飛びかけた時、腹から離された拳が上に振り上げられ、顎に、割れるかのような痛みが走る。


目がチカチカし、眩暈を起こす僕の体は、度重なる攻撃に悲鳴を上げながら宙に浮き上がった。


「玲谷!」

「藤弘さん!」

2人の悲痛な呼び声は、彼には届かない。


腹の痛みに顎の痛み……更に、無視出来ないくらいの頭痛、僕は思考に靄がかかるような感覚を覚えていた。


重力に従い、落ちていく体。

段々と近づく地面が、背中への衝撃と共に、急にその速度を増した。


「ガッ……アッ……」

全身を打ち付けられた痛み。それをかき消すほどの心臓への圧迫感が、僕を苦しめ続けた。


視界が涙で潤む。

ままならない呼吸をもどかしく思いながら、生きたい。と、必死に酸素を求める。

「カッ……ヒユッ」


目尻からは大粒の涙が流れ続け、鼻からは鼻水か鼻血か分からないドロドロとした液体が零れ、赤黒い絨毯を湿らせる。


僕はもう、限界だった。


涙で潤んだ視界が、一層曖昧になり、色鮮やかだった世界から、色が失われていく。

ただただ痛みだけが、一切薄まることなく、僕をこの場所に繋ぎとめる。

(こんなに苦しむくらいなら……もう、良いんじゃないかな……)


(蘭雨……咲……皆……ごめん……)

心に少しの後悔と期待を抱きながら、生を、救済を諦めた僕は、そっと……目を閉じ……


「玲谷を放して!」

「藤弘さんを解放して下さい!」


「ふん……つまらん」

再び訪れた横腹への衝撃で強制的な覚醒を余儀なくされる。

魔王とは理不尽で、残酷なもの。であれば勇者とは……?


ここまで読んでくださり、ありがとうございます。


もし「続きが気になる!」や「面白い!」と思って頂けたらブックマークや下の☆マークを1つでも押して頂くと作者のモチベーションに繋がります!


(※更新が不定期なのは変わらないと思います(o_ _)o)

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