22話。最後の相手
サンゴが軽く跳躍し龍に触れると、迫ってきていた龍は消え、古梓さんの近くにダガーが数本降ってきた。
「うぉっ、危ねぇ」
と同時に黒焦げになった男性の遺体も消えていたが、僕は気づいていなかった。
「終わったな!んじゃぁ次のやつを……ん?」
危なげなく着地したサンゴがどことなく楽し気に、疲れ切って肩で息をする僕らをよそに最後の檻をあけようとしたが、何かに気づいたかのように後ろを振り返った。
よくよく見ると、サンゴの背後にある闘技場の出口からなにか白い小さい生き物?が走ってくる。
だんだんと近づいたそれをよく見ると、小さな子が持っているようなぬいぐるみのうさぎだった。あまりにもこの場に似合わないそのうさぎに目を奪われていると、サンゴが近づいてきたうさぎを抱き上げ、なにやら会話しだした。
うさぎの声は小さく、聞こえなかったが、僅かに聞こえてくるサンゴの言葉から予測を立てることはできた。
「そりゃねぇぜ! こいつも……遅い?でもよ……わかったよ。“コハク様”が言うなら仕方無いか……」
なにやら口論しているようだったが、サンゴはため息を吐くとこちらを少し不貞腐れたような顔で振り向く。
これまでの階層主はどことなく怪しさを感じていたのに対し、サンゴはあまりにも素直に表情にでるからか、こんな状況なのに思わずクスっと笑ってしまう。
「あ~悲報……お前らにとっては吉報か……だ。5戦目は無しになった」
無しに?じゃぁ、やっと終わるのか?一部を除き、皆が目を輝かせる。僕も犠牲はあったが、切り抜けられたことに安堵した。
「じゃぁ、“最後”だな」えっ……?“5戦”じゃ……
「なんで!? 終わったんじゃないの!?」
色奈の叫びに応えるかのように少しにやりとした笑みを浮かべる。
「なにを言ってるんだ?俺は最初から“6戦”って言ってたぞ?まあ、1戦減った今じゃある意味5戦だが。じゃぁ……始めようぜ。」
だけど闘技場の中にはもう檻は無い。なにが相手なんだ?……まさか
「6戦目……貴方が相手……というわけですか」
「「えっ!?」はぁ!?」
栗出さんも察していたようで、既に武器を構えている。
「おお、よく分かったな!しかし……俺が普通に戦っても勝敗は決しているからなぁ……」
挑発ともとれるが、強かった敵の奴らが怯えていた相手だからこそ、恐らく事実でしかなく、何も言えない。
「そうだ!ハンデをつけてやる。俺は女子どもと戦う意思の無い奴には攻撃しない。そして……お前らは俺に一撃でも入れたら勝ちとしよう」
一撃……だったら……!
僕らを含めた十数人が武器を構えると、サンゴも手に持った大槌を一振りする。
「そっちが攻撃しやんからって、ウチらが攻撃して文句は言わんとってな……!」
「あぁ!そんな卑怯な真似はしないぞ!俺は約束……は守る!そうだな……先手は譲ってやる。さぁ!どこからでもかかってくると良い!」
最初に動いたのは色奈だった。見惚れてしまうほど綺麗な構えから打ち出された矢は、その華奢な腕で放たれたとは思えないほどの素早さで真っ直ぐにサンゴへ向かっていく。だけど……色奈には悪いとは思うけど、当たるとははなから思っていなかった。
思っていた通り、サンゴは迫りくる矢に動じることなく、平然と大槌を軽く持ち上げる。目的を果たした矢が床に落ち、満足気な音を立てた。
一瞬。一瞬だけサンゴは矢に気を取られた。背後から迫る咲に気づいていないようだった。矢を跳ね返した唯一の武器である大槌はサンゴの前にある。これは……とった!と思いつつも、警戒は解かない。
「そんな!」
咲の声が聞こえ、飛び跳ねるようにして退避してくる。もともと栗出さんが考えた形だと、一撃入れた後は戻ってくる予定だったから良いとして、攻撃が効いていないように見える。不意打ちまでしたのに……
戻ってきた咲が、僕らにギリギリ聞こえるくらいで囁く。
「あいつ……硬い!こっちが折られるかと思った」
そこまでなのか……
どうしたものかと思っていると、栗出さんがなにやら考えたことがあるそうで、古梓さんや月熾さんと相談し合っている。
僅かに聞こえてくる話し声を聞いたところ、どうやら最後の決め手となるサンゴの硬い体を少しでも貫ける攻撃は無いか話し合っているようだ。
「こりゃーおどろいた。でももっと……うぉっとあぶねぇなぁ」
サンゴが話し出したタイミングで、古梓さんのダガーと月熾さんの短刀、栗出さんの拳銃、咲のクナイなどが飛ぶ。効果がなかったとしても気を引くことはできていたようで、サンゴはうっとぉしいと言わんばかりに大槌を一振りした。
……ただそれだけで目をあけていられなくなるほどの強さの風がこちらに吹き付けてくる。
こんなの……無理だ……絶望しかけたとき、クイっとシャツの裾が引かれた。そちらをみると、咲が居た。
「私のスキルなら……行けるかも。もう一度隙を作って貰うことって出来る?」
「……分かった。栗出さん!」
さっきは力になれなかったからこそ、今度は僕が手伝うんだ。そんな気持ちを込めて栗出さんの方を見ると、力強く頷いてくれた。
「ええ!藤弘さんは正面から……」
僕達のやりとりで気づいたのか、皆ももう一度武器を構えている。
「人数が増えても変わらないと思うがなぁ」
余裕綽々のサンゴ。無性にその顔を驚きで染めてやりたくなった……けど、僕のやることはそれじゃない。
「いつでもどうぞ」
咲の囁くような声が聞こえた。剣を構え、駆け出す。次の瞬間、音も立てずに咲の気配が消え、同時に皆の攻撃がサンゴに向かう。だけど、またあの大槌が振るわれる。
皆の攻撃は先程の焼き増しかのように薙ぎ払われるが、構わずに走り続ける。皆の攻撃を弾き、振り下ろされた大槌を再び持ち上げるのはサンゴでも時間がかかるだろう。
その隙を狙い、走っていた勢いのままふるった剣は、強引に持ち上げたサンゴの大槌で防がれる。
「「なっ!?」」
一歩下がった所から見ていた人達が、驚きの声を上げる。
だけど……僕らにとっては想定内だ。だって……ほら。サンゴの背後で咲がクナイを構えている。
「うおっ!?そう来たか!」
流石のサンゴでも急に背後には回せないようで、無防備に攻撃を受けることとなった。
さっきは通らなかったけど……咲がいうならなにか勝算があるんだろう。
それを肯定するかのように、鈍く光るクナイは、サンゴの皮膚を僅かに削り取った。
僕の役目は終わった。直ぐさま飛び退り、合流した咲と共に皆のところへ戻る。
「…………」
咲の攻撃以降、サンゴが黙りこくっている。ふるふると震え、俯いているサンゴを見て、緊張が走る。
僕らが戦々恐々としていると、急に堪えきれないと言わんばかりに大声を上げて笑い出す。
「ハハハハハッ!見事だ!確かに“一撃”だな!お前らの勝利だ!」
やっと……終わった?
「それにしても“挑戦者にしては”胆力があるな!……無謀とも言えるが……良いだろう!次の階層に進むと良い!」
そういうと、一歩ずれて、背後の扉を示してくる。
「……行きましょうか」
皆、唖然として動かずにいたが、栗出さんの言葉で恐る恐る動き出す。
倒してきた獣達が入っていた檻の間を通るのは、中に何も居ないと分かっていても怖いものだった。
いつの間にか闘技場の出口はいつもの休憩所の扉へ変化しており、人形が相も変わらず静かに佇んでいた。
皆は、さっきまでの戦いで2人、死んだのにも関わらず、平然とした様子で中に入る。誰かが見れば正気を疑うのかも知れないけど、僕らにとっては誰かが死ぬのはもう……普通のことだった。異常なこの状況じゃ、仕方ないと割り切っていた。
そしてそれは僕も同じなのだろう。
ふと後ろを振り向くと、サンゴも、闘技場も、まるでさっきまでの出来事がすべて夢だったかのように消え失せていた。
皆に続き、扉の中に入ると、変わりの無い通路がそこにあった。慣れた手つきで休憩を取り、食事と排泄を済ませ、早々に寝る。
死ぬかも知れないという恐怖は、皆感じているようだったが、“誰かが死ぬ”ということには、悲しみはするが、それだけになってきた。
皆も、僕も、変わりようのないことを嘆くより、休息を取って次に備える方が大切なのだと気づきつつあったのだろう。
……だから。新たな死を許容してしまったから。彼女を、死を、止められなかったのかも知れない
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「なあ、こいつらなんで攻略中?は腹減って無さそうだし、尿意も無さそうだし、疲れて無さそうなんだ?俺らならまだしもよ」
「あっ」
「●●……調節……間違えた?」
「うん」
「ま、まあ、このままでも良いんじゃねぇか?どうせすぐ“減るだろうしな”」
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