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この作品には 〔ガールズラブ要素〕が含まれています。

私のチサトへの愛はきっと罪

作者: 彩雲明日香
掲載日:2023/11/21

双子百合となっております。


「余命は三ヶ月ほどでしょう」


初老の男の医師が告げた。診察室は幼い頃からお世話になっているかかりつけの病院のより遥かに広く、壁がやけに白かった。

そんな非日常の空間で伝えられた驚くべき言葉を、私はむしろ冷静に受け止めた。

今は隣で啜り泣いているお父さんとお母さんから、大事な話があるからと車で三十分ほどの中核の病院に連れて来られたのだ。

尋常でなかった腹痛でかかりつけの病院に駆け込んで、何やらエコーを当てられたり、触診をされたりして、大病院への紹介状を渡されたのは二週間前の水曜日であった。処方された痛み止めを飲めば症状は治まり、そのうち痛みは感じなくなったのだが、ふとした時に痛むことがあった。大病院で詳しく検査をしたのが、その次の日の木曜日だった。

医師は、あくまで事務的に私の病気を説明しだした。どこかで聞いたことのある病名に、いくつかの内臓が悪いらしいのを淡々と説明している。

私の中には死の恐怖というよりは、身体が蝕まれていることへの気持ち悪さというような感情が湧き上がっていた。

さらに治療の方針を説明されながら、私はぼんやりと考えていたのは、私の双子のチサトのことだった。

戸籍上は妹らしいが、私はチサトのことを双子だとしか思っていなかった。多分、双子じゃない人には分からない感覚。妹でも姉でも友達でもなく、双子。

でも、一般的な双子の概念ではなく、私がチサトに抱いている双子という認識は、もはや固有名詞だった。好きで、嫌いで、愛していて、憎くて、可愛くて、苛立たしくて、どうしようもなくチサトで双子なのだ。

そのチサトが悲しむだろうなということだった。チサトは、普通なら人のことは言えない私よりも少しメンタルが不安定で、私に依存気味である。これに関しても、私は人のことは言えないかもしれないが。そのチサトが、私が死ぬと知ったらどう思ってしまうだろう。泣いてしまうだろうか。私の後を追っちゃったりして。

そう考えていると、いつの間にか頬を涙が伝っていた。



私はその日のうちに入院することになった。点滴をされてベッドに座る私に、お父さんは好きな物を何でも買ってあげると言ったが、治療費もあるだろうからと内心思って私は遠慮した。ただ、家族に会いたいとだけ言うと、お父さんもお母さんも沢山お見舞いに来ると言った。チサトにも沢山来てもらいたかった。だから、気になっていたことを聞いてみた。


「ねぇ、私のことチサトは知っているの?」

「チサトには、今から病院に連れて来て言う」


お父さんが言った。チサトは、今、家で今月末のテスト勉強に励んでいるはずだった。この病院に行く時でさえ、すごく私のことを心配していたチサト。今から、チサトは私がもうすぐ死ぬことを知ってしまう。


「言って大丈夫?」


お母さんが言った。黙り込んだ私に、不満があると思ったらしい。無言で頷いた私に、お父さんとお母さんは、「すぐ戻るからね」と言って病室を出て行った。

目を閉じると、私だけの数人部屋のにシンとした病室の空気が重い。

おばあちゃんには言わないのだろうか。いとこには。友達にはどうしよう。

色々なことが頭に浮かんだ。

葬式誰呼ぶんだろ。樹木葬とかテレビで見たことあるけど良さそうだったな。大きな木の下で眠れるんならそれがいいな。でも高いよね、多分。じゃあ、……お墓って、おじいちゃんと同じお墓に入るのかな。寂しいな。チサトとも離れ離れになるのかな。死んだ後も、チサトは将来結婚していたら、相手の家のお墓に入るんだろうか。

チサトが結婚するなんて想像がつかなすぎるけど。高校でも彼氏どころか友達だって、私が居なけりゃできてないかもってくらいには人見知りだし。チサト……。チサトには、私が居なきゃダメなのに。あぁ、私が死んだ後のチサトが心配だ。後追いも本当にするかもしれない。チサトは、私の唯一の双子で、私も、チサトの唯一の双子なのだ。

ベッドでは暇で、スマホを開いた。使ってよかったかなと一瞬迷ってから、通話は不可という旨の張り紙を見つけてから、インターネットは良さそうだと見当をつけた。私とチサトは位置情報を共有している。お父さんとお母さんが迎えに行ってから引き返しているようで、チサトの位置情報が、段々と病院に近づいていた。

ピロンと通知が鳴った。メッセージアプリで、チサトからだ。

『え、大丈夫なん?お父さんとお母さんちょっと泣いてるじゃん。大きめの手術とかするん?』

私が死ぬとは夢にも思ってなさそうだ。笑いがこぼれてしまった。今メッセージで死ぬと告げるとチサトが叫んで車で事故でも起こすかもしれないと思ったから、『ちょっとね。着いてから言う』と返した。

チサトの位置情報が、病院に着いてからほぼ私と重なってからしばらくして、病室の扉が開いた。


「ミサト」


お父さんたちとチサトが入って来た。私を呼んだのは、チサトだ。


「……大丈夫?腹痛大変そうやったし……。臓器とか分けてほしいみたいな話なら、私のあげるから大丈夫」


見当違いの気遣いだが、内容が少し重い。だが、これが私たちの距離感だった。


「チサト。あのね、私、余命三ヶ月くらいなんやって」


チサトはしばらく黙っていた。涙がみるみる溜まっていっていた。


「……ごめん、ミサト、今まで、喧嘩して嫌なとこ言ったりして、ごめん。ねぇ、何かしてほしいこととかある?何でも、何でもする」


チサトは泣いていた。チサトの泣き顔は昔から見ていると不思議な気分になる。可哀想だと思うのに、もっと泣かせたくなる。

チサトは、顔を赤くして泣きながら、でも、私の死を受け入れたようだった。私も涙が流れた。

私は醜い感情を抑えていた。……受け入れるの?一緒に死なないの?私が死んでも普通に生活して結婚して、別のお墓に入るの?それを必死に抑えていた。


「二人だけで話したいから、お父さんとお母さん、ちょっと外してくれる?」


泣くのを抑えて言うと、私たちが依存し合っていることを知っている二人は、じゃあちょっとドライブして来る、と言ってから病室を後にした。


「ギューってしていい?昔みたいに」


チサトは泣きながら私を抱きしめた。


「ミサト大好き」

「私もチサトが大好き」


久しぶりに抱きしめあった。中学生の頃友達にからかわれて以来ずっとこうしてなかった。私のチサト。二人で一つというわけでもないし、私がチサトであるわけでもない。私とチサトは双子なのだ。チサトは、チサトで、私の双子なのだ。

でも、双子なら本来あってはならない感情が、私の中で渦巻いている。ずっと見てないふりをしてきた衝動。欲望。それが私の口をついて出た。


「チサト、私ね。キスしたい」

「え?」


チサトが戸惑っている隙に、一瞬だけど軽く唇をくっつけた。

ごめんね。最期だから許して。


「チサト。ずっと、好きだった」


それだけ言うと、チサトは言葉を失った。それから私は何食わぬ顔でスマホで、お父さんにメッセージで戻って来ていいよと送った。まだ車に乗る前だったらしく、すぐ戻ると、返信が来た。


「ミサト、ほんとに?」


その言葉を、私は無視した。

私は死ぬ直前に、チサトに、もう一度好きだと告げるつもりだ。そして、私の分まで生きてほしいと言う。でも、私がチサトを好きだったことは忘れないでと。チサトは、多分、私がそう言わなくても、ずっと私を愛してくれるだろう。でも、それだと、私は足りなかった。

チサトは、優しい子だから。私のことを考えながら生きてくれる。思い出すだけじゃなくて。好きな人ができてセックスする時も、私のことを考えて思って。子供ができても、私のことを一番にしてほしかった。

チサトは、私を凝視している。チサト。

もう今までの私とチサトの関係ではなくなったが、それでも私とチサトは双子だった。


双子百合を突如書きたくなりましたので、投稿致しました。性癖に刺さってくれた方がいると嬉しいです。

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