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アレンに初めて会った次の日、アレンのところに行き,何かしてほしいことはあるかと聞いた。してほしいことは何もないと返されたが、ひたすらベットの上の住人では暇だろうと思い、何冊かおすすめの本を渡すとそこから彼は本の虫になってしまった。まあ、今の彼の体では起き上がって歩くのはきついだろうし、読書をするのはいいことだろう。
そんなこんなでアレンを助けてから1週間が経った。青の涙の力かは知らないが、アレンは順調に健康になっていき、未だに本の虫状態…
初めて会った時には、雪のように青白かった頬はほんのり血色がつき、初めてベットから降りて立った時なんて、私よりもこんなに身長が高かったのかとぴっくりしたほどだ。
今まで全くと言って良いほど人との関わりがなかった私がいうのもなんだが、それなりに良好な関係を築けているのでは,と思う。
アレンにおすすめの本を渡しにいくついでに、お互いに読み終わった本の感想を言い合ったりして、楽しい時間を過ごしている。
今は夕方。私はリビングに座っていた今日の夕飯は何にしようか考えていた。
今まで、1人きりでずっと生活していたから、食事は適当だったし、どうせ死ぬんだからと一日一食が普通だったが、流石にアレンがいる以上、そんなことはできない。それに、案外料理も楽しいものなんだと初めて知った。
アレンといると、新しい発見がたくさんある。今まで、諦めてばかりで見ようとしてこなかったものがこんなにあったのかと、びっくりした。
でも、今更気付いたところで…
どうせ私に残された時間はあと少しなのだ。
そこまで考えて、ふと疑問に思う。なぜ私はこんなに残念だと感じているのか。
今まで、死ぬことこそが救いだと、希望だと思ってきたはずなのに。なぜ…
「ゴホ、ゴホッ、ゲホッ、ゲホ」
咳が止まらない。ひとまず考えるのはおいといて、咳を止めることに集中しなければ。背中を丸めて、やり過ごす。
アレンは起きて本を読んでいる時間帯だから、聞こえないようにしないと…
「ガチャ」
ドアが開いて、アレンが心配そうな顔をしながら出てきた。
「オリカ、大丈夫か!?」
ずっと咳をしている私を見て、すぐに駆け寄ってこようとしてくれる。
私は無理やり咳を魔法で止めて、血で濡れた手は隠し、意味のない笑顔を作った。
「大丈夫大丈夫!!心配かけてごめんなさい。少し風邪気味みたいで。」
私が嘘で塗り固めた返事を返すと、わざわざ心配してくれる。
「そうか。無理はしないようにな。何かあったら俺も手伝うから。」
その優しい回答に申し訳なさを感じて,早く手も洗わなければならないし、話を逸らす。
「そういえば、アレンが今読んでいる本、どこまで読みました?あの本、最後のどんでん返しがとっても面白くて…」
「あ!!ちょっと!!ネタバレ反対!!じゃあすぐに読まないと!!」
そう言って、アレンはまた部屋に戻って行った。
「はぁ…」
1人になった部屋で私のため息だけがやけに大きく響く。
2人で過ごすその時間は、楽しくて、常に無表情だったはずの私の顔が知らぬ間に微笑んでいたことにびっくりした。
でも、私と一緒に笑っているアレンを見ると、たまに胸が苦しくなる。
この2週間、私は彼を騙し続けているのに。
伝説によるとノアの一族には1つの共通する容姿がある。それは、銀髪に紅の瞳を持っていること。
この国でそんな組み合わせはノアの一族だとしか考えられないほど稀有な組み合わせだ。
例に漏れず私もそんな容姿を持っていると知られたら、即刻私がノアの一族だとバレるだろう。
そんなことがないように、私はずっと自分自身に幻覚魔法をかけ続けているのだ。
まあ、幻覚魔法は名称がそうなっているだけで実際は、変装などに使える便利な魔法っていう認識程度だ。私は今、ノアの一族の証である銀髪は黒髪に、赤い瞳は銀の瞳に変えている。
アレンから見たら、私は普通の人に見えるように。
アレンが私の隣で笑ってくれるのは、私がノアの一族などではなく普通の人だから。私は仮初の姿じゃないとアレンの隣にすら、いることはできないのだ。
だが、ノアの一族の莫大な力を呪いによってしっかり制御できない私にとっては、魔法をかけ続けるなど苦行に等しい。日に日に体調は悪くなる一方だし、幻覚魔法をかけるときに、ついでにひどい顔色と体調を誤魔化している状況だ。
毎晩、自分の部屋で幻覚魔法を解いた瞬間、猛烈な頭痛と嵐のような咳に襲われる。日中はそれすらも魔法で誤魔化しているため、その代償と言わんばかりに、毎晩毎晩、夜がほんのりと明るくなるまで痛みで寝ることすらできない。結局私は、自分のためだけに、アレンを騙し続けているのだ。
彼に初めて会った時、彼が私に鑑定の魔法を使った後から、一応鑑定魔法を使われていないか、警戒することだけは解くことができない。
彼があれから、私に魔法を使ったことはないが、私は怖いのだ。
もし、彼が私の秘密を知ってしまったら。今の関係は確実に壊れてしまう。
薄い氷の上に乗った、不安定で先の見えない束の間の平穏。
でも、私にとってこの日々は何者にも変えがたいものだった。大きな犠牲を払ってでも、私にとってアレンの存在はどんどんと大きくなっていく。
考えてみれば、同年代の人と今まで話したことなんて一度もなかったし、ましてや、同じ屋根の下で生活するなど、これから先もずっとないと思っていたから。
少しでも長く、この人と一緒に笑い合えたら、私は激痛にだって耐えられる。
そんな感情が芽生えつつあることに、私はまだ気づいていなかった。