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ぼんやりと見えたのはどこかの天井?
まぶたを開いた瞬間飛び込んできた光の眩しさに目を細める。まだピントの合わない目を無理やり眉間に力を込めて合わせる。微かにどこかの知らない茶色の天井が見えた。
だんだんと意識がはっきりしてくると、俺はどこかの家のベットに寝かされていたのかと遅れた頭で理解した。
ずっと寝ていたせいでガッチガチに固まってしまった重たい体をやっとのことで起こして、ここがどこなのかを考え始める。
部屋にある窓から見える景色は確実にここが森の中であることを教えている。
だが,しかし…この森の中に家があるなんて聞いたことがない。
俺が住むこの国、スノームーン王国の北側には広大な森が広がっている。「迷いの森」と呼ばれるこの森は、名前の通り中に入った人を迷わせ、この森に入ってから無事に出て来れた人なんて聞いたことがない。
それほど、この森は入ったが最後、出られないのだ。
伝説では、神々がはるか昔に怒り、何かを閉じ込めるためにこの森を作ったと言う話だが,真相はわからない。
こんな森だから、普段人が入ることは絶対にないし、動物だって、相当奥深いところに昔から暮らしている動物が少数いるだけだ。
こんな森の中で暮らす人間がいるなんて信じられない。
それにもう一つ不可解なのは、俺が負ったはずの傷が、治っているのだ。治っていると言うよりも、綺麗さっぱり跡形もない。その傷があったところが痛むわけでもないし、あんなに深かった傷はその跡もない。
どう言うことなのか、さっぱり理解ができない。
正直、魔女か何かの家にでも連れてこられたのだろうか…
そもそも、仮に魔女ではないとしても、国中でお尋ね者の俺の味方である可能性は限りなく低いし、誰が治したのかもわからないし…
考えれば考えるほど、わけがわからない。
気がつけば、俺の体は全身鳥肌だらけだった。
そんなことを考えていると、不意にドアを叩くノックの音が部屋に響いた。
反射的に「はい。」と返事をしてから、少し後悔する。
得体が知れない。この世で蘇りの魔術が使える者なんて、存在するのか?そもそも、この家に住んでいるものが助けたとも限らない。とりあえず、気を抜かないようにしなければと開いていくドアを凝視する。
最初に見えたのは黒色の艶やかな髪。
その次は足。この冬には寒すぎる素足だ。足が真っ赤になっている。
彼女は振り返ってドアを閉める。
そうして俺は彼女と目を合わせた。彼女は、ありえないほどの薄着だった。見ているこっちが寒くなりそうだ。そして、そんな姿は到底似合いそうもない、美しい人だった。