28話 同じ匂い
今日、2回目の更新です。
「バレリー伯爵令嬢は楽しい令嬢だね」
と、意味ありげに言う王太子様。
「まあ、私といると楽しいだなんて…」
ロザンヌが頬に両手をあてて、ぎらぎらした目でつぶやいた。
すごい…。脳内で都合よく変換されている…。
その時、
「お嬢! 大丈夫か?!」
と、あせった声がした。ロイスだ。
ロイスは、私を守るように隣に立つ。
「あ、満点で合格した首席合格者君だよね」
と、王太子様が嬉しそうにロイスに声をかけた。
ロイスは王太子様に頭をさげた。
「ロイス・ブリューノと申します」
「ロイス君か…。ルイスと一字違い。いいなあ。うらやましいなあ」
「え…?」
驚いた顔をするロイス。いや、私も驚いてるけど…。
「ぼくには、ルイスって言う、控えめに言っても天使みたいな弟がいるんだけどね」
いや、知っています。
すごい美貌のルイス殿下のことは、国中の人が知っていますよ…。
「ぼくもルイスに似た名前が良かったんだよね。ウルスも響きが似てるからずるいとは思ってたんだけど、ロイスのほうが全然いいよねえ。『イス』は一緒だし。ルイスとロイス。うん、いかにも兄弟っぽい。その名前、譲ってほしいくらいだよ」
と、一気に語った王太子様。
さっきまでの黒い笑顔とは違って、本当に楽しそう。
ルイス殿下思いでほほえましいはずなのに、なんだか、別の意味で怖い気がする…。
「おい、やめろ…」
と、側近の方。
が、全く気にすることのない王太子様。ロイスに向かって微笑んだ。
「名前だけで、ロイス君には親近感がわくよ。…でも、まあ、ロイス君のことは知っていたんだけどね。ターナー副騎士団長が見出し、手塩にかけて育てた期待の大型新人」
王太子様までご存じだなんて、ロイスってすごいね!
ロイスがほめられ、自分事のように誇らしくなり、にやけてしまう私。
「で、君が、そのターナー副騎士団長の令嬢で、母上が目をかけ、稽古をつけていたマチルダ・ターナーさんだね」
と、いきなり私にふってきた。
あ、いけないっ! 私、まだ、王太子様にちゃんとご挨拶してなかったわ!
「マチルダ・ターナーです! よろしくお願いいたします!」
つい、訓練時のような大きな声がでてしまった私。
「なるほど…。母上が気に入るはずだね。その感じ、同じ匂いがする」
え? 匂いって、なんの…?
反射的に、自分の腕を匂ってみる。
私と騎士団長様と同じって、騎士服だけだから、騎士服の匂いのことを言っているのかな…?
とたんに、王太子様が笑い出した。
そして、後ろにひかえる側近の方にふりかえる。
「ねえ、ウルス。この子、おもしろいから、王宮の騎士団にひきぬいていい?」
「ダメです。王妃様が期待されている騎士ですから、勝手なことはやめてください。まあ、王妃様に直接お願いされるなら私は何も言いませんが」
「それは嫌」
王太子様は即答すると、こちらに向き直った。
読んでくださった方、ありがとうございます!
あと4話です。よろしくお願いします!




