22話 見た目と違う
今日、2回目の更新です。
騎士団長様の後、王太子様がご挨拶をはじめられた。
にこやかに、流れるように話をされる王太子様に、招待客からホーっと感嘆の声がもれる。
有能そうな方だ、と思いつつ聞いていたら、私の騎士服が、後ろからひっぱられる感触が…。
ふりかえると、ルド。
目をうるうるさせて、私の背後に隠れるようにして、騎士服をつかんでいる。
これほど怯えるルドは、久々だ。
だれか、ルドにとって怖い色をまとっている人を見たんだね…。
まわりには人がいっぱいいるから、わからないけれど、誰だろう…?
私の隣にいたロイスをつつく。
振りかえったロイス。私が何も言わなくても、ルドの様子に気づき、視線を鋭くして、あたりを見回した。
そして、さりげなく、ルドの前に移動し、ルドの盾になるように立った。
私はルドを安心させるように、声をかける。
「大丈夫よ、ルド。私もロイスもそばにいるからね」
「すみません…。ちょっと、見たことがないような色で…、驚いてしまって…」
小さな声でそう言うと、ルドは視線をそらすように、うつむいた。
その間に、私は、ルドが怖がる相手を確認するべく、まわりを観察する。
私の背後に隠れたということは、その対象者は、私たちより前方にいるということか…。
このあたりは、騎士団の人たちや、その家族しかいない。
しかも、みんな騎士団長様と王太子様の話を聞くべく、前を向いている。
私たちからしたら、自分より前の人たちは背中しか見えない。
さすがに、背中だけ見て怖がることはないと思う。
そうすると、この方向でお顔が見えるのは、騎士団長様と王太子様だけ。
そして、横にひかえている、王太子様の側近らしき方ぐらいか…。
でも、ルドは、騎士団長様が話されている時は普通だった。
そして、王太子様が話し出した時に、ルドは怖がった…。
ということは、もしかして…。
「ねえ、ルド。王太子様が怖いの…?」
まわりの人たちに聞こえないように注意しながら、ルドの耳にささやいた。
ルドはびくっとして、顔をあげて私を見た。うるんだ瞳が不安そうに揺れている。
「…はい…」
なるほど…。
ということは、あのにこやかな笑顔からは、計り知れないものを、心に持たれているということね…。
あっ! なら、さっき私が口の動きを読んだのは、あたっていたのかも…!
そう思って改めてお顔を拝見すると、爽やかな笑顔がちょっと怖く思えてきた。
とりあえず、ルドを安全な場所に移さないと…。
ここは、王太子様に近すぎるから、ルドにはきついだろうし。
しかも、この後、私とロイスは新人騎士として紹介されるから、そばにいられない。
「…ルド、今のうちに、後ろの方に移動しておく? 確か、休憩できる椅子が置いてあったから…」
ルドは、首を横にふった。
「いえ、マチルダ様とロイスの晴れ姿を間近で見たいので、ここにいます! ちょっと驚いたけれど、…もう大丈夫。できるだけ、あの方を視界に入れないようにやってみます…」
と、ルド。涙でうるんだ瞳からは、強い意志が受け取れる。
うーん、こうなったら、ルドは頑固だからなあ…。どうしよう?
「そうだわ。私とロイスがいないときは、お母様の背後にいたらいいわ。お母様を壁にして、王太子様を遮るのよ!」
と、小声でアドバイスする。
すると、ルドを心配そうに見ていたロイスが言った。
「やっぱり、俺がルドのそばにいる。代表挨拶はお嬢が変わってくれ」
「はあ? そんなこと無理に決まってるよ。あ、ロイス、さては挨拶から逃れようとしてる? 駄目よ、名誉なことなんだから! お父様もお母様もアール兄様も、ロイスの勇姿を見るのをめちゃめちゃ楽しみにしてるんだからね」
「えっ…。そう言われると、更にプレッシャーが…」
暗い顔になるロイス。
「ぼくは、もう大丈夫です、マチルダ様、心配かけてごめんなさい。ロイスもごめん…。でも、ぼくは、ここで、2人の晴れ姿を魔石で記録する使命がありますから」
「いや、記録はいいから、無理しないで…」
「とんでもないです! 2人の記念すべき日を記録しなかったら、ぼくは一生後悔します。さっきは、油断してたから、しっかり見てしまい驚きましたが、これからは、王太子様を直視しないよう気をつけるので大丈夫です。安心してください」
「…そう? なら、いいけど…」
「それと、ロイス。ぼく、ロイスの新人騎士代表の挨拶を、すごーくすごく楽しみにしてるから、がんばって」
そう言って、ルドはにっこりと微笑んだ。
「おお…、がんばる…」
と、答えるロイスの顔はひきつっている。
無邪気な小動物の応援に、更においつめられた感じだね…。
反対に、ルドの顔色はよくなり、元気そうになってきた。
とりあえず、大丈夫そうで良かった。
読んでくださった方、あありがとうございます!




